1章-9

あれから10日経ったくらいにまた地上げ屋が来た。

今度は二人で。

相変わらずあいつらの要求は同じ。

こちらの返事も同じ。

俺がいるので、手荒なことも出来ずに渋々帰っていった。

年寄りに気を遣う地上げ屋、案外優しいのかもしれない。

まぁこちらにとっては都合のいいことなので、あえてツッコんだりはしない。


夜はシルの授業が待っていて、知識を詰め込んでゆく。

おかげである程度はこの世界のことが理解できた。

この世界には魔族がいて、目の前にあるデカい魔晶石、これが魔王の心臓だということも習った。

ヨークラム様が若い頃にヤンチャして倒してしまったらしい。

お隣のカバリア王国では伝説になっており今も英雄扱いなんだってさ、もう百年以上昔の話なのに。


魔石についても学んだ。

魔物から得られる魔導具の燃料というのはイレーナさんに聞いて知っていたけど、魔石を砕くと内包したマナが大気中に拡散されるみたい。

これは常識ではあっても魔導具の燃料になる以上、わざわざ魔石を砕くバカはいない。燃料として使い切った後も、魔導具の素材として再回収されるし。

大気中のマナ濃度を上げれば世界樹の再生も出来そうな気がするんだけどなぁ。

でも世界樹を再生させることでマナ濃度をあげようとするのがヨークラムさんの考えだから

、そうなると鶏が先か卵が先かの話になっちゃう。

ちなみに魔石は魔晶石と違って内包するマナは消費するだけで、貯めることができない。

まぁ魔石を手に入れる手段もないし、今は考えなくていいだろう。


あとは魔法について。

なんとマナのコントロールが上手くなれば、光らずに魔法を使えるらしい!

これは毎日練習あるのみ!

幸いこの体は全ての魔法を習得したヨークラムさんの体。

新たに複雑な術式を研究して魔法を習得する必要はなく、詠唱の言葉とイメージを覚えていれば使うことができる。

ただし。

相応のマナが必要と。

今は大気中のマナがほぼ無く自分産マナしか使えないため、かなり効率的にマナを使えるようにならないと使える魔法の幅が広がらない。

やはり練習あるのみ!

大魔法については一度に消費するマナが莫大なため、一旦魔晶石にマナを貯めてから一度に開放させるんだって。

俺と魂を入れ替えた魔法とか、若返りの魔法はこの方法じゃないと今は使えない。


勉強についてはそんな感じ。

もちろん他にも色々教え込まれたけどね。

取りあえずはマナ制御の特訓だ。



そうして昼間はポーション屋に通い、夜は特訓の日々を繰り返したある日、またしても地上げ屋がやってきた。

若旦那を連れて。


「やぁ、こんにちは。イレーナさんは今日もお綺麗だ」


「何しに来たんですか?家もレシピも売りません。お帰りください」


イレーナさんはにべもなく追い返そうとする。

たまたま居合わせた俺は取りあえず様子をみていた。


「連れないなぁ。今日はね、其方にも有益な話をしにきたんだよ。なんとここの買取金額を倍にしようって話さ!金貨20枚!」


「倍になっても10倍になっても売りません。お帰りください」


イレーナさんが冷酷な目で言い放つ。

これでくじけない奴はすごいメンタルの持ち主だと思う。

あ、このボンボン、そのすごいメンタルの人だな。

しかしさっきからイレーナさんをみる目つきがいやらしい。


「やれやれ、状況が分かってないなぁ。じゃあ、君がお嫁に来てくれるのかな?それならこの店を売る必要はないからね!まぁ小さすぎるからイチから作り直すけど」


「結婚もしません。お帰りください」


「…ふん、頑固だねぇ。ま、それも君の魅力のひとつだね。」


あ、また目線が胸にいった。

コイツほんとクズっぽいな。


「仕方ないね、今日はそっちの爺さんだけで許しておくか。おい、そっちの爺さんを連れて行くぞ」


合図されたお付きの男が俺に向かってくる。

え?俺?

俺お爺さんだよ?胸もないし。

え?そっちもいけるの?やだやだムリムリ!俺が無理だよ!

盛大に頭が混乱している。


「ヨウさんは関係ないでしょう!?乱暴なことしないで!」


「それこそそっちには関係ないだろう?給金も払っていないから従業員じゃない。かといって家族でもない。単なる草むしりの爺さんだ。」


おぉ、正論だ。

確かに言っていることは間違いではない。

草はむしってないけど。

でも連れて行かれてあんな事やそんな事されるのはイヤだ!


「いや、どうしてワシを連れて行くのかの?まぁイレーナさんの代わりにと言うなら行かなくもないが、せめて理由と何をされるのか教えて欲しいのじゃが…」


俺の素直な気持ち。

イレーナさんの代わりなら別にいい。

転がり込んで薬草畑を触らせてくれた恩もあるし綺麗だし可愛いし胸大きいし。

甘んじてコイツに辱められよう。嫌だけど。

でもせめて理由は知りたいよね?

あわよくば何をされるのかも。


「お前がここに来てからポーションの質が各段にあがった。魔法ポーションに迫るほどにな。

何かしただろう?それをウチでもやれということだ。」


ポカーン。

あ、イレーナさんもポカーンとしてる。

ポーション売ってる人が気付いてないくらいだ、俺が気付くはずがない。

アグーラさんは気付いていたのかな?

今は奥で精製中なのか、顔が見えない。


俺の体が目的じゃなくてよかった。

ほっと一安心。

…いやいやそこじゃない。

魔法ポーションに迫るくらいに質が上がった?

俺なにしたの?

土壌改良と乾燥工程の見直しくらいだよ?

頭の中をぐるぐると疑問が渦巻く。

その間に手を引かれて連れて行かれていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!お父さん!お父さん!」


我に返ったイレーナさんが、追いすがる。

イレーナさんに呼ばれてアグーラさんも慌てて出てきてくれた。

それを見て俺もようやく抵抗してもいいのかと思い、身じろぐ。


「大人しくついて来い。この店に迷惑をかけたくないだろう?」


悪魔の囁きか。

確かにお世話になったアグーラさんやイレーナさんに迷惑はかけられない。

本来ここにいなかった俺がまたいなくなるだけ。

それでコイツ等の気が済むなら悪くない気がしてきた。

大人しくついて行くか。


「ふんっ、いい判断だな」


「ダメよ!ヨウさん、そんなのダメ!ついて行く必要なんて無い!」


「そうだヨウさん!もう家族みたいなもんなんだから!」


二人ともやっぱりいい人だなぁ。

ますます迷惑かけられないや。

そう思ったとき。


「家族なんだったら助けなきゃね」

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