第二八匹 経験

 どっちに行けばいいか、わからないヘカテリーナと同じくらいまで腰を落として、俺は語りかける。


「ヘカテリーナ、お前が正しいと考える方向に進んでいけばいいんだぞ。もし、狩りに間違っていてもまた戻ればいい。俺はヘカテリーナを頼りにしている。だから、ヘカテリーナも自分をもっと信じて、思うようにやってみれくれないか」


そう優しく諭すと、ヘカテリーナは頷いて決心し、獣道から外れる方向へと進みだす。それに俺は笑みを浮かべながら後ろに続く。


 ヘカテリーナには、もっと自分の優れた感覚に自信を持ってほしいと思うが、無理に急かしてしまうと追い詰めてしまうかもしれない。


故に、今はまだ俺が自分で選んでいくことをサポートして、経験を積ませる必要があると考えるのであった。


いつか、彼女が自分の判断を信じて突き進むことが出来る日まで、ゆっくりとやっていこう。


そんなことを考えながら進んでいくと沢の音がサラサラと聞こえてくる。


そうすると、ヘカテリーナがアワアワしだす。


俺は彼女が見ている光景を見て、


「ああ、初めて見るとビックリするよな」


と、すかさず彼女にフォローを入れる。


「ヘカテリーナ、よく見つけた。これは、ヌタ場と言ってな。まぁ、詰まるところ動物達の水浴び場だ」


そう言うと、ヘカテリーナは


「森に住む動物達も身体を洗うんですね・・・、で、でもこれ泥んこですよ? これじゃあ、余計に汚くなりませんか? 」


と、不思議そうな顔をしてくる。


「おお、ヘカテリーナ。良い質問をするな、偉いぞ。普通の水だと、ただ流すだけになってが、泥だと身体に付いているノミやダニを水よりも綺麗に落とすことができるんだ」


「はぅ~~~。そうなんですか、知りませんでした。アキトさんは物知りさんですね」


「知ってるのは狩猟関係ぐらいだぞ」


俺は訂正をしながら、イノシシのヌタ場を丹念に観察していく。


見るからにヌタ場の泥はまだ完全に沈殿しておらず、濁りっけがある。


その情報から、ここをイノシシが使ったのは昨日か一昨日辺りとなる。


俺達は周囲に泥跡がないかと周囲を捜索して、その痕跡を発見する。


「うわぁ、こんなにべっとり木に泥がついてます・・・、アキトさん、なんでですか?」


「分かりやすく言うと、これは痒いところにイノシシは手が届かないから、木に擦り付けて掻いているんだ」


と、俺は答える。


「えっ、木で掻いてるんですか・・・、ちょっと驚きました」


そうヘカテリーナは少しクスクスと笑いながら、その泥跡を興味深そうに見る。


そして、クンクンとその臭いを嗅いで、俺を先導してくれるのであった。

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