第三匹 滾る狩り

 例の如く、スキル【回収業者】で吸引すれば三頭目の獲物を捉えたことになる。普通の狩人なら大漁だ。


しかし、俺は超一流の狩人だ。何匹、狩るかなんて決まっている。


残りの三匹すべてだ。


幸いなことにここの地形は頭に入っている。あの群れの次の行動は、湖から離れた場所に移動する。そして、見晴らしのいい草原に居座ると考えられる。


そうなれば、こちらの思い描く通りとなる。俺の狩猟手段は、この村田銃、正確には村田連発銃。射程は自己ベスト200m。で、あるが故にこの距離ならば仕留めるのは容易い。


そう考えた俺は、再びスコープを村田銃に取りつけ、草原へと足を進めるのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 俺の予想通り、残り三匹のノロジカの群れは草原の中央に陣取っていた。スキル【望遠鏡】を使って群れの様子を観察する。どうやら、先ほどの出来事により少し神経質になっているようだが、こちらに気付いていない。ならば、俺のやることはただひとつ、200mあたりのところまで近づいて、そこから撃つだけのこと。


そうして、安定の屈んで気付かれない様に近づいていく。ノロジカ達は頭をこちらに向けたが、逃げ出そうとはしない。それもそのはず、そんな離れた距離から狩られるなんて微塵も思っていないからだ。


だが、俺は超一流の狩人。念のため、ゆっくりと進んでいく。


その後、しばらく進んで、少し小高い丘へと辿りつけば、


匍匐状態になる。


なぜならば、その方が銃が安定して撃てるからだ。遠距離射撃をするのだから、当然の選択である。


それでは、さっそく村田銃に弾が入っていることを確認し、構えて狙いを定める。


現在、メスジカ二匹は座った態勢の状態、そしてこのハーレムの主のオスジカは辺りを時折、警戒した様子を見せる。ここから、導かれる最適解はまずはオスジカを狩ることである。


そうと決まれば、俺はオスジカに狙いを定めるためにスコープの倍率を8倍に調整する。ここから、オスジカまで、大体180mあたり・・・狙える距離だ。


その見事な角が俺の興奮を高ぶらせる。この時の緊張感は、俺の脳のアドレナリン分泌を最高に促してくれる。その快感は、天にも昇る様に気持ちが良い。


「これだから、狩りはやめられない」


そう呟きながら、俺はこの後の動きを頭の中でシュミレーションする。10秒ほど、考えて決まる。


「さぁ、フィナーレだ・・・」


そう言って、息を止めて照準を合わせる。何かを感じたのか、オスジカがこちらを見るが、もう遅い。


バァァァァァァァァァァァァァン!! 


一発目の弾が発射される。反動で、スコープの視界が揺れる。だが、長年使いなれた銃の特性を俺は理解していた。すぐに次の狙いであるメスジカを捉える。


そして、二発目を撃つ。


バァァァァァァァァァァァァァァァァン!! 


そして、最後の一匹のメスジカは周りの状況に驚き、逃げ出す。


「逃げてる、逃げてる。」


だが、俺はまったく焦っていない、すべては予想の範囲内、シュミレーション通りだ。


最後のメスジカがこれから、通過するルートを瞬時に予測して銃の狙いを決めれば、その通りにそいつは通る。そして、俺は最後の一発を撃つ。


バァァァァァァァァァァァァァァァァン!! 


そのメスジカは即座にその場に頭から倒れる。そして、その周囲を見れば他のノロジカ達も同じように斃されていたのであった。


「フィニッシュ・・・。」


その達成感が、最高にアドレナリンが滾る瞬間であるのを俺は知っていた。



 例の如く、スキル【回収業者】で吸引すれば今日の狩猟は完了となる。遺体を回収したその場所は、辺り一面、血の海。


「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ 」


その景色は、狩人にとってこれほど嬉しい景色はない。なぜなら、自分の狙い通りに命中されたことの証明である。もうその事実に俺の達成感が満たされる。


「ああ、気持ちいい」


俺の脳内にドーパミンが溢れ出てくる。気持ちがいい。


そんな心地よい満足感に満ちながら、俺は少し早いが本日の狩りを終えて、自分の隠れ家に戻るのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 超一流の狩人は狩りも完璧にこなすと、同時に解体も超一流に行う。だが、獲ってきたノロジカをまずの腹を内臓を傷つけないように切り裂いていく。この時、間違えて内臓を傷つけてしまえば、内容物が肉にかかり、品質や味が極端に悪くなる。


俺でもこの時ばかりは、慎重に丁寧にナイフを扱う。そして、内臓を取り出していく。この時、肛門付近をしっかり袋で、覆って縛っておくことで排泄物が出てくるのを防ぐ。


そして、腹膜を切っていけば重力に逆らえない内臓達は、シカの体内から出てくる。そこから、俺の好物の一つである、肝臓と心臓を切除する。清潔な布でくるんでおく。


一方の内臓がなくなった遺体は、近くを流れる沢の水に浸けて一日冷却する。


隠れ家に帰宅すれば、すばやく火の熾して焚火をする。そして、肝臓と心臓をおおまかに切り分けて、串しに突き刺していく。火が丁度いい火加減になれば、それを地面に刺して焼いていく。


ジューーージューーージューーー


美味な肉の焼ける音が聞こえてくる。


「う~~~ん、銃声と同じくらい好きな音だ」


そうして、しばらく焼いていけばいい焦げ目がつき、食べ頃になる。たった今、狩ったばかりの新鮮なシカの肝臓と心臓を食べる。なんと贅沢なことか・・・。


旅団に居た頃は、そんなことできなかった。いつも肝臓と心臓は、旅団の上層部の脳なし共が食べたいからといって、手がつけれなかった。


だが、今は違う。俺は自由を手に入れた。つまり、このハツとレバーは俺のものだ。


「最高に気分がいいぜ・・・」


そう言いながら、俺はまずこんがり焼けた心臓にかぶりつく。


「・・・・・・ッ!!」


その弾力ある歯ごたえと、一生動き続ける心筋の旨味が口の中で、俺の味覚達を興奮させる。


「うまい!! うますぎるっ!! 」


それは格別の味で、それは生きていた物の生命を味わっているに等しい。


さすれば次に、香ばしく焼けた肝臓にかぶりつく。


「・・・・・・ッ!!」


その濃厚な味に舌が喜び、歓喜する。甘いとうまい、その両方を兼ね備えた味は美味、その言葉で十分なほどであった。


「うまい・・・!! 」


そして、俺は感じる、今が幸福の瞬間である。誰にも邪魔されず、この美味なる肉に舌鼓。


嗚呼、いとをかし。俺はそう思いながら、残りの肉をゆっくりと味わいながら食べ進めるのであった。

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