地球と異惑星が混ざった星で竜がビルに巣を作る物語

@you_Hey

第1話二人の少年

日本のとある銀行 

窓口の女性「326番でお待ちのお客様〜326番でお待ちのお客様〜」

男性「あ、俺か…」三十代の男性が席を立ち呼ばれた受付へ

窓口の女性「はい、では、こちらをご確認下さい」

男性「あ、はい」受け取り銀行を出ようと出口へ向かう男性


日本のあるネットカフェ

太った男性「おいそこはそこじゃねえだろ…突っ込むなって…!クソが…!そこで死ぬとか!考えて動けよ…!」仕切られただけのネットカフェの個室でゲームをしている男性がブツブツ言いながらカチャカチャ音を立てている 

女性「ねぇすいませ〜ん」二十代前半の化粧なのか仮面なのか分からない様な作り上げた顔の女性がカウンターにベルがあるにも関わらずベルを使わず、地声で人を呼ぶ 

女性店員「はい、なんでしょう?」

女性「隣のおじさんのイビキがうるさくて気になるんだけど、なんとかしてくんな〜い?」

店員「あ、はい…かしこまりました…」前髪で目や額が隠れた地味な黒髪女性店員が内心嫌だが、一人で誰も対処する者が居らず、しょうがなく応対する


アジアの南東部のある地域の川沿岸 

少年「お父さんいっぱい釣れたね!」

父親「そうだな!おかげでお母さんに怒られなくてすみそうだよ!ハッハッハ!」川沿岸を歩きながら会話する親子 

少年「良かったね!不機嫌な日はお酒飲むと怒られるもんね!」

父親「そ、そうだな…」威厳がない事に内心、肩を落とす父親


アメリカのとある家

男性「…」男性が家の中でハンバーガーを食べながらイヤホンをしてスマホをいじる、窓から見える庭では大きい息子と小さい息子がボールで遊んでいる


インドのとある街

運転手「着いたよお客さん」

男性「どうも、これで」

運転手「はい、丁度ね」三輪のタクシーを利用し目的地で降りる男性、男性が地に足つけた瞬間、突如地面が軽くグラグラと揺れる 

男性「お…地震ですかね?」

運転手「あ、ホントだね…ちょっと揺れてる…」少しして揺れが治る 

運転手「軽い地震で良かったよ」

男性「ホントだよ」

何かの咆哮「グォォォ!」

男性「なんだ!なんだ?!」

運転手「地震でどこか爆発が!」

赤い竜「グォォォ!」突如離れた場所の壁を突き破り、唸った角を二本生やした四足歩行の走るのに適した八m級の赤い竜が現れる 

運転手「うわー!お客さん乗って乗って!」

男性「あ!ああ!」急いで乗り込み急発進する 

赤い竜「グォォォ!」動く三輪のタクシーの音と動きに目を引かれ、走って追いかける赤い竜 

男性「もっと早く!」後ろに座っている男性が運転手を急かす 

運転手「これがマックスです!」冷や汗を流し、背中に迫り来る化け物から全速力で逃げる運転手 

赤い竜「グォォォ!」

男性「お!追いつかれる!」三輪のタクシー後ろの透明のシートから太い牙が見え隠れしている 

赤い竜「グォォォ!」三輪のタクシーに噛みつこうとする赤い竜 

男性「うわぁぁー!」迫り来る牙から避け出来る限り前へ身を寄せる 

赤い竜「グォッ!ガァ…ッ!」交差点に差し掛かりバスに横から激突され、生き絶える赤い竜 

男性「ハァ…ハァ…た、助かった…」竜の死体を見て、手を震わせ生を感じる男性

運転手「そ、それはどうでしょう…」

男性「…え?」男性が前を見ると人々が見た事もない様な生き物に襲われ阿鼻叫喚している 


アメリカのとある家

グラグラと軽く揺れるが気づかない男性 

小さい息子「お父さーん!お父さーん!」窓の外から父に呼びかける小さい息子、イヤホンをして音楽を聴きながらスマホをいじっている為か気付かない父、走って家の中に入ってくる小さい息子 

小さい息子「お父さん!お父さん!」どうしても見てほしく、家の中に入ってきて父の腕を叩く 

父親「ん?どうした?」イヤホンを外しながら聞く父

小さい息子「来て来て!」息子に引っ張り急かされ外へ出る、外では大きい息子がボールを脇に抱えて、何かを見ている 

小さい息子「お父さん!あれ!」小さい息子が空を指差す 

父親「?」息子が指差す方に視線を向ける 

父親「なんだあれは…」父が見た先に巨大なクジラの様な生物が五匹程、群れを成し空を泳いでいる 


アジア南東部のある地域の川沿岸 

少年「地震!」

父親「地震…?あ…ホントだ地震だな…」

突如、川を割り、巨大な岩山が、せり上がってくる 

父親「な、なんだ!」川の中に突如出現した岩山にどうしていいのか分からず固まる二人

少年「お、お父さんなんかいる…」息子が呟き川を指差す 

父親「…?…カ!カエル?!」三mある様なカエルが泳ぎ、水にプカプカ浮いている 

野犬「ワン!ワン!ワンワン!」見た事ない生き物に興奮し、吠える犬 

カエル「…」カエルが犬の方に静かに向きを変える 

野犬「キャインッ!」カエルが瞬間的に舌を伸ばし犬を捕食する 

父親「…え?あ!こ!来い!」魚が入った魚籠と竿を捨て息子を抱えて家に走り出す父


日本のネットカフェ

太った男性「何回やってもでねえよ!クソゲーが!確率考えろよ!」ゲームに苛立ちポテトチップスを荒く鷲掴みにする太った男性

女性「こっちこっち、ここなんだけどマジうるさいんだよね!」

女性店員「では、お声がけを…お…」軽い地震がネットカフェの入ったビルを揺らす

女性「は?揺れてんだけど、マジこのビル大丈夫?揺れすぎじゃない?」スマホをいじらながら話す女性 

女性店員「止まった…みたいですね…」

女性「は?!何!Wi-Fi切れたんだけど!マジどうなってんの!」

女性店員「え?Wi-Fiをオフにされたのでは…」

女性「そんなわけないじゃん!」

太った男性「イケイケ!今そこ…は?!ふざけんなって!」突如ゲームの通信が切れ、画面が固まる 

太った男性「いや!絶対行けたんだぞ!」一人ゲームの前で声を荒げる太った男性 

男性「すみませーん、ネットに繋がらないんですけどー」

男性「すみません、こっちも切れましたー」仕切りの上から顔を出し訴える客や、個室から出て来る客が女性店員に解決を求める 

女性店員「す!すぐ確認します!」レジの固定電話に手をかける女性店員 

女性店員(なんで繋がらないのよ〜!こんな日に限ってワンオペだし〜!)焦って自分のスマホを使う選択肢が出ない女性店員、受話器の向こうからはツーツーという音しか聞こえない 

男性「早くしてくれよ!」レジ前にドンドン客が群がり渋滞する

女性店員「も、申し訳ありません!すぐに!」繋がらない固定電話の電話線を見たりと色々試す 

何かの鳴き声「グォォォ!」ビルのネットカフェの階に何かが突っ込み壁がなくなる 

男性「わっ!うわー!何々!」

男性「っばば爆発か?!」

女性「うおあっ!壁壊れたんですけど!」女性が携帯で写真を取る

何かの鳴き声「グロロロ…!」当人には低いが、天井の高いネットカフェで少し体を起こした二十mを超える赤茶色の竜が、集まっている客を睨む 

客「わぁーー!」レジ前から霧散し辺りに逃げる客 

女性店員「…!」カタカタ震えながら声を押し殺し、レジの向こうにうずくまる 

竜「グォォォ…!」客が居なくなり散らかった竜には少し低いネットカフェの階を、身をかがめながら掃除しクッションや膝掛け、紙なんかを一箇所に集める 

竜「グォォォ…」

女性店員(な、何して…)震えながら状況を把握しようと竜の様子を見る 

竜「グォォォ…」

女性店員(た!卵、産んでる!巣作りしてるの?!)女性店員が驚愕し目を奪われる 

竜「グォォォ!」もう一匹の竜が飛んでネットカフェの階に身を低く器用に着地する 

女性店員(も!もう一匹!)卵を産んでいる竜を愛で守る様な仕草をする 

女性店員(け!警察に電話!)持っていたスマホを使い警察に電話するが呼び出し音ばかりでまったく繋がらない 

女性店員(お願い…誰か…助けて…)


日本のとある銀行

男性「あ…地震…」銀行を出ようと歩いていた男性が軽い揺れに足を止める、その直後、銀行中央に、至る所に穴が空いた小山がせり上がり銀行を割り、銀行半分と銀行半分がドンドン遠ざっていく 

窓口の女性「お客様!落ち着いてください!」

男性「な、何が起きてる!」小山が一頻りせり上がった後に止まり、皆が息を呑み静寂が訪れる 

男性「地震で地盤が…?」

謎の鳴き声「…キチチチ…」せり上がった小山の穴から何かの鳴き声の様な物が聞こえる 

男性従業員「うわっ!だ!誰か助けッ…!」穴から飛び出した何かに襲われる男性従業員 

客「に!逃げろー!」客が自動ドアを皆で我先にとこじ開け、一斉に外へ出る

客「うわー!きょ!恐竜だー!」外へ出ると二足歩行のティラノサウルスという名称が先に浮かびそうな、ティラノサウルスにしては前脚の大きい、全長十m近いトカゲが現れる 

巨大なトカゲ「ギャアァーー!」

客「戻れ!中だ中!」急いで中へ逃げる者とそのまま外へ散り散りに逃げる者

男性「なんだあの恐竜は!」

太った男性客「み、みんなどこに…」銀行の中に逃げると、先程の銀行員達の姿が見当たらない 

男性「あ!さっきの…!」見た方向に、先程応対してくれた窓口の女性が身をかがめている 

男性「大丈夫ですか!」声をかける男性 

窓口の女性「…!…シーッ…!」人差し指を立て、眉間に皺を寄せ静かにしろと合図する 

男性「…どうしたんですか…?」静かに話しかける 

虫「キチチチッ!」男性の横に二mのムカデが忍び寄って見ている 

男性「うわぁっ!」噛みつこうとしてきたムカデから急いで退く 

男性「こっちへ!」いつの間にか皆居らず、窓口の女性を誘導し二人で外へ

男性「わぁーー!」

窓口の女性「きゃーー!」

巨大なトカゲ「グルル…!」人の血でかは分からないが牙が赤く染まったトカゲが、出てきた二人をジロリ…と眼球だけ動かして確認する 

男性「な!中へ!」

窓口の女性「だ!だめです!虫が!」銀行の中でトカゲを警戒しているムカデが外を窺っている 

巨大なトカゲ「ギャアァー!」足がすくみ動かない二人に向かって大きく口を広げる 

赤い獣人男性「フンッ!」赤い毛の生えた人の背格好をした獣人がトカゲの顎を殴り横転させる 

青い獣人女性「いくよ!」青い獣人女性が自身の青い毛を伸ばしトカゲを拘束する

青い獣人男性「斬る!」青い獣人男性が幅十cm両刃の剣に電気を通し、トカゲの首目掛けて走る 

青い獣人男性「ハアァッ!」トカゲの首が青い毛ごと切り裂かる 

トカゲ「ギャッ…カ…!」トカゲの首が飛ぶ 

赤い獣人男性「あんたら大丈夫か?」

男性「…え…あ」見た事も無い獣人に突然話しかけられて言葉が出ない 

青い獣人女性「しっかりしなよ!男だろ!」男性の肩を軽く叩く青い獣人女性、トカゲを討伐した三人を恐れてかムカデが襲ってこない 

青い獣人男性「しかし…ここは一体…」見慣れない風景に辺りを見回す三人 

赤い獣人男性「まさか、能力で飛ばされたとか?」

青い獣人女性「誰かに恨まれるような事した覚えないけどねぇ」

赤い獣人男性「あんたこの辺りどこかわかるか?」

男性「…い…は…」事態に驚愕しすぎて言葉が出ない男性 

赤い獣人男性「そうか!言葉が分かんないんじゃないか?!」

青い獣人女性「そうか!それで喋らないのか〜!」額を押さえて困った様子の青い獣人女性

窓口の女性「え、あ、わ、分かりま…す」とりあえず口を開く窓口の女性 

青い獣人女性「なんだ分かるんじゃないか!ここはどこだ?」

窓口の女性「日本…です…」日本語を喋っているので、とりあえず一番可能性のありそうな地名を言う 

赤い獣人男性「聞いた事あるか?」

青い獣人男性「ないな…」

青い獣人女性「とりあえずギルド探そうか…ここから一番近いギルドを教えてくれ」

窓口の女性「ギ、ギルド…?え?」

男性「あの…ゲームに出てくる…?」

赤い獣人男性「ゲーム?何言ってんだ?」

青い獣人女性「とりあえず、ここ散策して情報得ようか、話聞いてても全然要領得ないしな」

ドリルの怪物「オォォォー!」遠くで頭にドリルをつけた様な巨大な怪物が土を突き破り、飛び出す 

男性「う!うわーー!なんだあの怪物は!」

青い獣人男性「キリツチクイだな…早く離れた方がいい、地面ごと生き埋めになるぞ」

赤い獣人男性「この辺りに来たら最悪だ!」

青い獣人女性「おい!あんたら竜車持ってないか?!もしくはこの辺りに竜車がある様な場所があれば教えてくれ!」

窓口の女性「リューシャ…?」

男性「なんですかそれは…」聞き慣れないが、ふざけて言ってる様には聞こえず戸惑う二人

青い獣人女性「あー!もう!」言葉が通じるが有効な会話が出来ないもどかしさが込み上げる

赤い獣人男性「じゃあ走って逃げるぞ!」

窓口の女性「あ!移動でしたら近くに通勤用の車が!」

青い獣人女性「荷車だけじゃダメなんだよ!」

窓口の女性「こ!こちらへ!」促されとりあえず走る 

窓口の女性「これに乗って下さい!」女性が鍵のボタンを押すと止まっていた一台の軽自動車がオレンジのランプを光らせキュッキュッと音を立てた後、鍵がガチャッと開く

窓口の女性「乗って下さい!」

赤い獣人男性「おい!家ごっこしてる場合じゃねえって!」

男性「いいから早く乗って!」普通の人より大きめの三人の獣人を押し込む様に後ろの席に入れる、窓口の女性が鍵を回すとカカカッと音を立てた後に、ブロロン…とエンジンがかかる

窓口の女性「どちらへ行けば!」

男性「とりあえずあの怪物から離れないと!」

窓口の女性「そ!そうですね!」駐車場から出しアクセルを強く踏む 

赤い獣人男性「うお!なんだこれ!」

青い獣人女性「誰が引っ張ってんだい!」

青い獣人男性「小さい騎竜がこの下に…?いや能力か…?」車の床や運転する女性を観察する青い獣人男性 

窓口の女性「これからどうしましょう…」運転しながら竜が飛び、見た事も無い生物がビルを出入りする光景に泣きそうになる女性

男性「近くの警察署か自衛隊を目指そう」

混乱した地球の国や地域、

また地球に対して混乱する者達が

世界中で懸命に生きる道を模索する


そこから時間を経て二十数年の月日が経ち…


ここは南西の大陸の東端にあり山と海に挟まれたオリーブの町。

その町の鳥が止まる緑の屋根のバンドリーの表札が出ている家の朝 

サクラ「トラウー!トラウー!起きなさーい!」下のリビングから朝食の準備で忙しくしている母のサクラが目玉焼きの乗った皿を片手に寝坊がちの息子を起こそうと何度も呼ぶが返事がない 

サクラ「トラウー!ガッコー!」二階の部屋で寝ているであろう息子に呼びかけていると…

寝室で寝ていた夫のファウデンがパジャマのままあくびをしながら食卓へ入って来る

ファウデン「おはよ〜…」まだ寝ていたいような顔で妻のサクラに声をかける

ファウデン「ミレアおはよ」朝の身支度を済まして椅子に座って朝食を食べている娘のミレアに声をかける

ミレア「おはよう、お父さん」ほとんど食事を終えているミレアがいつものように返す。ひとまず朝食の準備に戻るサクラ。

サクラ「ミーちゃん悪いんだけどお兄ちゃん起こしてきてくれない?」娘のミレアが食事が終わったのを見て、起きない兄を起こすようにと、サクラが手元の作業をしながら頼む 

ミレア「うん、わかった」といつものことで兄に内心少し呆れている娘のミレアが返す。

サクラ「お父さんも仕事でしょ早く食べて!」眠気と戦い食事が遅い夫を急かす。

ファウデン「う〜ん…」と反応が薄い返事を返す。

ミレアがトントンと階段を上がり、兄の部屋の戸をガチャッと開ける

扉側に足を向けて、腹を出し、暑かったのか布団を蹴飛ばした兄が口を開けて寝ている。ミレアが部屋にズカズカと入る

ミレア「お兄ちゃん起きて!」と言いながらいきなり兄の胸ぐらを掴み激しく上下に揺らす。

トラウ「おおう?」急な衝撃に目覚めの悪いトラウ少年が微かに目を覚ます、ミレアが掴んでいる胸ぐらを引っ張りトラウを座らせる。

ミレア「起きた?」ミレアが問いかける。

トラウ「ん…え…?」ほっておくと、もう一度寝そうな返事を返すトラウ。

ミレア「朝ですよーーー!!」めんどくさくなったミレアが兄の左の耳から眠気を吹き飛ばす勢いで耳元で叫ぶ。トラウが思わぬ衝撃に頭がキーンとなり左手で左耳を抑える。

ミレア「起きた?」ミレアがもう一度やろうか?と言わんばりの表情で問いかける

トラウ「はい…」

ミレア「学校、遅刻するよ?」起きたトラウにミレアが一言伝える 

トラウ「…学校…?あ!ヤベェ!」その言葉を一瞬理解できなかったトラウが間を置き絶叫する。慌てて服を着替え始める兄を、冷ややかな目で確認した後にミレアが部屋を出て一階に降りる。

サクラ「お父さん今日、仕事早めに行かないといけないとか言ってなかった?」

ファウデン「そうなこと言ったっけ?」と身に覚えがないと返すファウデン。

サクラ「早く食べて用意した方がいいわよ」食事をしながらそんなやりとりをしているとミレアが降りてくる。

ミレア「お母さん、お兄ちゃん起きた」と端的に母に報告して用意していた肩下げ鞄を首からかける。

サクラ「ありがとう、もう行くの?」

ミレア「うん、孤児院でラフちゃんと待ち合わせ」

サクラ「そう、いってらっしゃい」

ミレア「いってきまーす」家から出る娘を玄関で見送り食事に戻ろうとすると玄関の扉がコンコンと叩く音がする。サクラ「はーい」と言いながらサクラが玄関の扉を押して開けるとそこには、このオリーブ町の自警団の一人が立っていた。

アルマ「おはようございます」戦いの為に茶髪を短くしているアルマが笑顔で明るくサクラに挨拶する。

サクラ「あら、アルマちゃん、おはよう」サクラが笑顔で挨拶を返す。

アルマ「隊長ってまだいます?」

サクラ「呑気にご飯食べてるわよ」サクラが苦笑で答える 

アルマ「はぁ…」ため息をつくアルマ 

アルマ「隊長に視察、今日ですよと伝えていただけますか…?」と呆れながらサクラに伝えるアルマ 

サクラ「…わかったわ」と言って玄関の扉を開けたまま部屋へ入って行く

サクラ「今、アルマちゃんが来て今日、視察だって伝えてくれって…」なんの事だかわからないサクラが、呑気に朝食をとっているファウデンに伝える 

ファウデン「視察?」いまいちピンとこないファウデンが首を傾げる 

ファウデン「あー!視察だー!」何かを思い出した様に立ち上がり、焦りながら食べかけの目玉焼きと食パンを口にねじ込み急いでいると、二階からカバンを下げたトラウがバタバタと音をたておりてくる 

トラウ「父ちゃん!母ちゃん!おはよー!」といいながら食卓の皿に乗っている、自分のらしき目玉焼き乗せパンを手に取り咥える 

ファウデン「ふぉはほ〜」父のファウデンが口をもぐもぐしながらおはよう返す 

サクラ「忘れ物は?」とサクラが尋ねる 

トラウ「大丈夫!」根拠のない自信で返事を返し 

トラウ「いってきまーす!」勢いよくトラウが玄関へサクラが危なっかしい息子の後ろ姿を心配する 

サクラ「気をつけるのよー!」という言葉で部屋から見送る。トラウが扉が開きっぱなしの玄関で靴を履こうとすると見知った顔のアルマが立っている 

アルマ「よお、トラウ今から学校か?」アルマが挨拶がてらトラウに話しかける 

トラウ「おっす!アルねえ!そだよ!時間ヤバいから、じゃな!」と返し学校がある方へ走り出す 

アルマ「似た者親子か…」その後ろ姿を見てつぶやく 

トラウ「ふぅ〜あぶねーあぶねー、また遅刻したらエイダス先生にどんな罰を食らわされるかわかったもんじゃね ぇ」家から丘の上の学校まで走ってきた甲斐あって教師が来る前に教室に入れたトラウが安堵する。一番後ろで窓に一番近い自分の席に向かう 

コウキ「危なかったな〜?」隣の席の親友のコウキがニヤニヤしながら話かけてくる 

トラウ「うるせーよ、間に合ったからいいんだよ」荷物を置き席に座りながら言い返す 

コウキ「今日も終わったらじいちゃんのとこ行くだろ」

トラウ「もちろん!」と意気揚々にトラウが返す。教室黒板側の引き戸を開けて教師のエイダスが現れる、入ってきた瞬間教室が静かになる 

エイダス「おはようございます」黒板真ん中まできた教師が資料や教科書を教卓に置き単調に挨拶をする 

生徒一同「おはようございます!」生徒が返す 

エイダス「今日は抜き打ちで筆記試験を行います」用紙の束を持ったエイダスが言うが教室から不満の声があがる

トラウ「冗談だろー!聞いてねえぞー!」

コウキ「聞いてたら抜き打ちじゃねぇだろ」

ディール「せんせー!明日がいいでーす!」教室の中でトラウともう一人、父が成金でお坊ちゃんのぽっちゃりディールが大きな不満を投げつける鳴り止まぬ不満に教師のエイダスが教卓に用紙をパンッと叩きつけるとシーンと静かになる 

エイダス「試験を行います」教室の静かな空気の中、用紙を配る 

エイダス「用紙を受け取った方は裏返して配り終わるまで待機」と指示する先頭から後ろへ一枚ずつ生徒が送る、皆へ行き渡ったのを確認してから

エイダス「時間は三十分です、それでは始めてください」開始を伝える。

トラウ「わっかんねよー」トラウ「知るかよそんなもん」問題を見ながら苦悶の声をあげる 

コウキ(黙ってやれよ…)内心、隣がうるさいなと思いつつも言わないコウキ 

ディール「問題が読めねぇよ…」ディールが絶望する 

エイダス「終了です」三十分が経ちエイダスが終了を伝える。

トラウ「無理なんだよー!」

ディール「できるかよー!」世の中の理不尽さに文句を言うように不満を漏らす二人。

エイダス「採点をします隣の方と用紙を交換してください」二人は無視してエイダスが全体に指示を出す。生徒一同が交換する 

トラウ「なあ…!」トラウがコウキに渡す際コソコソと話かける

コウキ「なんだよ」

トラウ「こっそり合ってる答え書いて丸つけてくれよ…」

コウキ「ゼッテーヤダ」

トラウ「それでも友達か…?!」

コウキ「時には友による愛の鞭も必要なんだよ」

トラウ「なっ?!薄情者!」

エイダス「では答えを言います」

エイダス「まず一番、能力を使う際に必要な魔力は元々何でしょうか?答えは魔素、魔力は主に魔素を元に生き物の中などで生成されます」

コウキ「お前答え空気て」トラウの答えを見て思わず笑うコウキ 

トラウ「ぐ…」腹は立つが言い返せない 

エイダス「続いて二番、魔物と動物の違いについて答えなさい」

コウキ(トラウの答えは魔力があるかないかか…惜しいな…)

エイダス「答えは魔素からの魔力への生成可能かどうかですね」

エイダス「続いて三番…魔人の定義を答えなさい」

コウキ(トラウの答えは…ヤベェやつて…)

エイダス「答えは魔力や魔素の影響を受け進化し社会的に蓄積された知識を用いて文明を築くものです、逆に人間は魔力や魔素の影響を受けずに進化し社会的に蓄積された知識を用いて文明を築くものですね…人間は主に私たちノンヒューマやエルフ・ドワーフですね、魔人はこの辺りだと時々いらっしゃる鉱山の魔人さんですね」

エイダス「続いて四番、惑星ベベルと混星した星の名前を書きなさい」

エイダス「答えは地球」

コウキ(これは正解してんだな、元々地球の地域に住んでたトラウのおばちゃんが混星の時にこの辺りに飛ばされてきたからか…?)

エイダス「では最後、五番…混星後の混乱や戦争を治めるために設立された機関の名前を答えよ」

コウキ(いや、わかんなくてもなんか書けよ…)

エイダス「えー、これは治世議会、私達が住むこの西側の大陸が西議会もう一つが東議会ですね…皆さん書けましたか?…ではそのまま用紙を前へまわしてください」その言葉の後に用紙を前へ送る生徒たち、回収する教師。

トラウ「くっそ、コウキだけ出来てるのがムカつく…」

コウキ「トラウも一つ正解してたぞ」コウキが笑いながら伝える。

トラウ「けっ!どうせ俺はバカですよ」

コウキ「怒んなって」トラウの肩に手を回し慰めるコウキ

エイダス「では今から十五分休み時間とします次の授業が始まるまでに教室に戻って来るように」エイダスが全員分の用紙があることを確認し号令をかける資料などを持って教室を出るエイダス。

トラウ「あーやっと解放されたぜーエイダス先生怖えんだよなー」

コウキ「そうか?」トラウとコウキがそんなやりとりをしていると通路側の席に座るディールが問題が解けなかった腹いせに生徒の一人、座っている気弱なイナンに絡む。

ディール「おい、呪い野郎、どうせ家にこもって勉強してるから今回も楽勝だったろ〜?」

イナン「そ、そんなことないよ…」

ディール「お前が居るせいで調子でなかったんだけど、どうしてくれんだ?」

イナン「え?いつもどうりじゃ…」

ディール「はぁー?!」

イナン「アッ!」つい口をすべらせてしまったイナンに激昂したディールがイナンの胸ぐらを左手でつかんで右手を硬く握り拳に炎を纏う 

イナン「や、やめ…」イナンが泣きそうなっていると

ラミア「おい!ディール!弱い者いじめすんなよ!」黒板に近い方の入口から入ってきた女生徒のラミアが声をあげる 

ディール「なんだよ!男女!」言い返すディール

ラミア「お前そんなだからシーナにフラれるんだぞ!」生徒一同にディールが笑われる 

ディール「うっ…」皆にはもうすでにバレているが秘密をバラされたと思ったディールがイナンの胸ぐらをポイッと離しラミアに殴りかかる。

ディール「このやろー!!」ディールがラミアに殴りかかるが、突如ラミアの拳がディールの体格程の大きさになりディールが殴られ、ぶっとび教室後ろの壁に激突する

ラミア「今度やったら次は殴るからな!」手の大きさがスーッと元に戻り腰に手を当てたラミアが忠告する

ディール「はい…」倒れたまま微かに返事をする

イナン「もう殴ってると思うけど…」 

ラミア「文句あんのか…?」ラミアがイナンの発言にかみつきイナンを睨む

イナン「ひっ!なんでもないです…」

ラミア「だいたいオメェがナヨナヨしてるのが悪りぃんだよ!」

イナン「ご、ごめんなさい!」

コウキ「こっわ…」トラウ「コエー…」

そんなこんなで学校の一日が終わりを迎える

エイダス「はいでは今日の授業はここまでですね。明日から七日間の少し長いお休みですが皆さんくれぐれも休みだからといって浮かれる事のないように節度ある行動を…ではさようなら。」

生徒が返す「さようなら」

トラウ「終わったー!よしコウキ!行こうぜ!」

コウキ「おお!」教室後ろの出口から二人が出ようとすると教師のエイダスに呼び止められる。

エイダス「トラウくん!コウキくん!ちょっといいかね」

トラウ「えー」トラウが露骨に嫌な顔をする

コウキ「お前またなんかしたのかよ…」トラウを見るコウキ

トラウ「なんもしてねぇよ!多分…」

エイダス「ロダンさんの所へいくならコレを渡しておいていただけませんか?」と言ってエイダスが紙袋をトラウに渡そうとする

トラウ「先生なにこれ?」

エイダス「シーダリアの街から来た知り合いからいただいた”おかき”という日本国のお菓子ですよ、一人では食べきれないので」

トラウ「へー!うまそうだな!」

エイダス「…」エイダスが少し不安になる

エイダス「…コウキくんに渡しておくのでお願いしますよ」

コウキ「任せてください」コウキが笑顔で受け取る

トラウ「なんで俺じゃねんだよ!」

コウキ「そりゃそうだろ」呆れながらコウキが言う

エイダス「あとこれはお二人に…」

トラウ「やった!なんかくれんの?!」

エイダス「くれぐれも無茶をしないように特にトラウくん…絶対に!無茶をしないように…!」休みの間の二人の行動を察したエイダスが強く言い聞かせる

トラウ「わ、わかってるよ…」

エイダス「ではコウキくん頼みましたよ」

コウキ「は、はい」どっちの意味なのか戸惑いながらコウキが返事をする

やっと話が終わった二人がこれ以上誰かに止められてはたまらないと急いで校舎を出る

エイダス「まったく怪我などなければいいのですが…」その後ろ姿を職員室の廊下から見ているエイダスがため息まじりに呟く 

校舎を出て走りながら打ち合わせする二人

コウキ「とりあえず一回帰って荷物置いてじいちゃんのとこ行くこと言っとこうぜ心配されたらめんどくせえし」トラウ「北門の広場集合な!」

コウキ「おう、あとでな」コウキが孤児院の方へ駆けていく

トラウが家の前につき玄関を開けバタバタと家にあがる。台所で炊事している母に声をかける

トラウ「ただいま!」母の返答も聞かずそのまま二階へ荷物を部屋に放って一階へ急いで降りる

トラウ「母ちゃんじいちゃんのとこ行ってくるから!」と言って家を出ようとすると母に呼び止められる

サクラ「トラウ!待って!これ持ってって欲しいわ」鍋に何かをよそって蓋をして渡す

サクラ「肉じゃが、いっぱいつくちゃったから持ってって」

トラウ「えー、めんどくせぇー」

サクラ「トラウの分はお母さん食べてもいいのよ」

トラウ「持っていき行きますよ、持ってきゃいいんでしょ」渋々了解するトラウ

トラウ「じゃあ行ってくるー!」鍋を頭に乗せて片手で支えて飛び出すトラウ

サクラ「あんまりおじいちゃん困らすんじゃないわよー!」

トラウが走って北門に近づくと父のファウデン、アルマを含めた3人の人影がある

トラウ「オース!父ちゃん、アルねえ」

ファウデン「おお、トラウ学校終わりか?」

アルマ「よっ!」

トラウ「終わったよー、父ちゃん何してんの?」

ファウデン「うちの町にギルドを立てるための視察だよ」

ファウデン「あ、うちの息子です」照れながらもう一人の白髪で白い長い髭の年配の男性にトラウを紹介する

トラウ「誰このおっさん」ぶっきらぼうなその言葉に驚愕しファウデンとアルマがワタワタする 

アルマ「あ!おい!」

ファウデン「コラ!こ、この方は評議会のワンドさんだよ…!」

ワンド「お父様によく似ておいでの息子さんじゃの〜…」朝遅刻したことを含めて恨みがましく目を細めながらファウデンに皮肉を言う

ファウデン「お恥ずかしい限りで…」ペコペコ頭を下げるファウデン 

トラウ「いや〜」ファウデンの気も知らずに褒められたと思いトラウが照れていると、孤児院の方角からコウキが走ってくる 

コウキ「わりー遅くなったーあ、おじさん、こんにちは」

ファウデン「おーコウキ!いつも息子がお世話になっております」

コウキ「いえいえ、こちらこそ」

トラウ「別になってねえよ!」

コウキ「おっすアルねえ!」

アルマ「おっすコウキ!」

トラウ「聞いてんのか!」怒って指摘する

コウキ「こんにちは」コウキがワンドに笑顔で挨拶する

ワンド「はい、こんにちは」

ファウデン「こちらはこの町にギルドを作るにあったって視察に来てくださったワンドさんだ」コウキに手短に紹介するファウデン

コウキ「はじめましてコウキといいます小さい町ですがよろしくお願いします」向き直りお辞儀をするコウキ

ワンド「ほっほっほ、優しい空気の良い町じゃ、こちらこそよろしくの」

コウキ「僕達はもういきますので、では」二人が手を振りながら北門から森の方へ走っていく

ワンド「良き芽が育つ町じゃの〜、はて?あっちの方角はバサド山では?」この辺りでは危険な山へ向かう二人を見て心配になるワンド 

アルマ「ええ、あの山の麓で暮らしているロダンという方に武術や能力の使い方を教わっているようでして」アルマが簡単に説明する 

ワンド「なんとあの方が!ファウデン殿もおることじゃしこの町オリーブはたとえ災害の様な魔物が襲ってきても問題なさそうじゃのぉ」笑っている 

ファウデン「いやいや自分なんてまだまだですよ」照れるファウデン 

ワンド「何を謙遜なさるか、ほっほっほ…ただ有事の際に寝ていては話にならんのじゃがのー」目を細めて横目でファウデンを見るワンド

ファウデン「肝に銘じます」落ち込むファウデン、苦笑いのアルマ

ワンド「ほっほっほ」ワンドが笑う

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