ちょ、ちょっと待って! 悪役令嬢からやり直させてもらえません?

矢田川怪狸

第1話 

 突然だけど、『悪役令嬢モノ』ってジャンルをご存じかしら?

 そんなの読んだことがないって人のために、ざっくりと解説しちゃうね。


 悪役令嬢モノっていうのは、キラッキラで華やか~な貴族社会が存在するような世界を舞台にしたファンタジーものね。

 主に女性が読む小説とか、マンガに多く見られるテンプレなのよ。


 『悪役令嬢モノ』と呼ばれるための条件は三つ。


 一つ目は主人公の女の子が『自分が前世で読んだ物語、もしくは乙女ゲームの世界に転生してしまう』ということ。

 つまり、物語の結末を知っている人物が、物語の世界の登場人物として転生してしまうっていう話ね。


 そして二つ目の条件は、主人公の転生先が『悪役令嬢』という悪女の精神内なかであるということ。

 『悪役令嬢』っていうのは、ヒロインをいじめる敵役のことね。

 設定としては『本来ならその国の王となる人物――皇子の婚約者であり、それに釣り合う高貴な家柄で、皇后となるための高度な教育を受けた美人さんである』というのが定番。

 外見設定も補足するならば『美人だがツリ目で悪人顔』。


 そしてこれら二つをもって三つ目の条件――ヒロインの女の子が『自分が悪人として断罪される未来』を知っているってこと。

 悪役令嬢に用意された未来って、ヒロインをいじめたツケとして豪華で華やかなパーティの最中に元婚約者である皇子から悪行を暴かれたうえに攻略対象と呼ばれるイケメンたちに冷ややかな目をむけられて「ひったてろ!」されるってものなのね。

 あとは『処刑エンド』か『追放エンド』が待っているっていう……これを前世で読んだ(あるいはプレイした)ストーリーとして覚えているわけね。


 つまり、ヒロインである『悪役令嬢に転生してしまった女の子』が、最悪の結末である死亡フラグを回避しようと過去を変えようとする、この行動のおかしみを楽しむ物語が『悪役令嬢モノ』っていうわけ。

 たとえば皇子との婚約を回避しようとしたり、例えば本来のヒロインである女の子に恋路を譲ろうとしたり、例えば追放された後で一人で生きて行けるように自立した女性を目指したり……たまには「ならば悪役令嬢になって差し上げようじゃありませんの!」なんてヒロインもいて、それぞれに面白い、これが『悪役令嬢モノ』。


 まあ、物語のメインは恋愛がメインで、本来なら悪役令嬢として万人に嫌われるはずだった女の子が、行動を変えたことによって攻略対象キャラ(イケメン揃い)全てから好意を寄せられるのに、それに気づかないっていう鈍感っぷりを楽しむものなんだけどね。



――さて、ここで主人公、池亀節子さん(享年54歳)に質問です。

 もしも『悪役令嬢モノ』の世界に生まれ変わるとしたら、一番お得な転生先は誰でしょう?

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