パイオニア

 ダイナは手でサインしてコンポ採掘氷場の控え室にドクリとウィンディを招き入れた。中はきちんと整頓されていてウィンディの職場であるコウク採掘氷場の控え室とはえらい違いだった。どのくらい違いのかといえばコウク採掘氷場は足の踏み場もないほどダンボールや洋服が散らばっているのに対し、こちらのコンポ採掘氷場はきちんと洋服は畳まれラックに入れられていて、段ボールも2、3箱あるのみでしかも何が入っているのかちゃんと明記されてている。


「わぁ……綺麗」


 ウィンディは横目でドクリを見つめた。コウク採掘氷場の控え室を散らかしているのはほとんど要因がドクリにあるのだ。まず使ったものが元の場所に片づけられていない。ドクリにウィンディが何回言っても伝わらないのでウィンディは諦めかけている。

 中に入るとすぐにコンポ採掘氷場のリーダーであるダイナがパチンと手を叩いて3人の目線を集めた。快活な笑顔でペンを持っている彼女はホワイトボードを引っ張ってきた。


「コウク採掘氷場からわざわざ2人ともありがとう!ウィンディ、ドクリ。こちらの採掘氷場のノマルと私とで今日の戦闘の作戦を詰めていくよ」


 そういうとダイナはペンでサラサラとホワイトボードに図を書きはじめた。円形の地形だ。それがここの採掘氷場の簡略図だとウィンディはすぐにわかった。そしてダイナはそこに氷の壁を書き足し、最後に点を4つ打った。


「氷の壁の中に今回発見されたのはコオリドラゴン一体」


「コオリドラゴン?」


「ウィンディは首を傾げた。同じくノマルもそれが何かわからないようだった。ダイナは手近にある本棚から一冊の本を引っ張り出してその中の1ページを2人に見せた。


「コオリドラゴン、極寒の冷気を放つ守護者よ。体は氷のように冷たい鱗で覆われていて、体躯もある。攻撃方法は単純だけど遠近どっちもスキが少ない」


 ウィンディとノマル、新人に近い彼らが見せられているコオリドラゴンの図は四足歩行で、白い鱗に覆われている。2人に見せ終えると音を立てて本を閉じるダイナ。そして再び手にペンを持ってホワイトボードを指した。


「コオリドラゴンは吐息による遠距離攻撃も薙ぎ払いや引っ掻きみたいな近距離攻撃も持ってるから……戦闘方法を噛み合わせない形で行こうと思う」


「噛み合わせない?」


「そう。相手が近距離を仕掛けてくるなら遠距離で、遠距離で仕掛けてきたら近距離で。そのためにはツルハシに付属した皆の鉱技を知っておく必要があるわ。ノマルから言っていって」


 指名されたノマルはニコッと笑ってウィンディとドクリに紹介するようにツルハシを掲げて見せた。


「僕の鉱技は衝撃を遠くに飛ばせるってやつです。遠距離の時は任せてください」


「次。ドクリは?」


 ドクリはめんどくさそうにツルハシを皆に見せた。そして端的に言い切った。


「推進力。打つ時ツルハシが加速する」


「そう。ウィンディは?」


 ウィンディはどきりとした。まだ自分のツルハシであるパイオニアの鉱技を身に付けていないのだ。ドクリ曰く戦闘で必要な時に自分で技を切り開いていく、まさにパイオニアのツルハシだと言っていたが、その難点はツルハシの初陣は鉱技なしであることだ。


「ま、まだ……ありません」


 ウィンディは少し俯きがちに言う。するとダイナがウィンディのツルハシを目を細めて見つめた。


「パイオニア……珍しいの持ってるわね。これがそのツルハシでは初陣?」


「は、はい」


「じゃあ、しょうがないわね。そこは臨機応変に」


 ダイナはまとめるようにそういうとホワイトボードに何かを書き足し始めていた。ウィンディは自分が無力に感じ、ますます俯いた。


「さて、私のツルハシはリーチの向上。って事で近距離はコウク採掘氷場のウィンディとドクリ。遠距離はうちの私とノマルで担当ね」


 ダイナは点の位置を変え結ぶと正方形になるようにした。そこに各々のツルハシと名前を書き足していく。


「相手に敵意があったらドクリとウィンディで最初仕掛けてもらう。相手の出方によるけどそれでいきましょう。以上!準備をして20分後に氷の壁の前に集合!」  


 作業着に着替えるべくノマルとドクリは出て行く。残ったウィンディは少しの間寝起きの時のようにようにぼーっとしていた。意識はしっかりしているがもやもやしたものが彼女の胸の内にあるのだ。


「どうしたの?」


 ウィンディはそう言われて弾かれるように立ち上がった。


「い、いや……」


「言ってみな?」


 ウィンディは口をモゴモゴさせた。初対面に相談していいものか少し悩んだが、ウィンディはゆっくりと言葉を口にし始めた。


「私……まだ鉱技使えなくて……足を引っ張らないか心配で……」


 ウィンディは指をくるくるとさせ、俯きながらそう言った。


「そんな事心配してたの。いい?あなたはパイオニアなのよ。切り開くのよ。ないなら掴みにいくのよ」


 ウィンディの肩をポンと叩き、彼女はツルハシを拭き始めた。ウィンディは口をギュッと真一文字に結んで立ち上がった。何か覚悟のような、決意のようなものが彼女の中でできた気がした。


「わかりました。ありがとうございます。私の……カッコいい氷鉱夫……掴みにいきます」







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