第24話 〜"心"編②〜

 授業参観当日の2時限目、3回目の席替えを終えた新しい席を彷徨いながら、丹波が道徳のノートを配っていた。

 「谷川先生、後ろにいる高身長イケメンは誰ですか?」前より少し優しくなった山沢がこそこそと谷川に聞く。

 谷川は、「あぁ、あれは…」と後ろに立っている高身長イケメンを見た。

 「僕ですか?僕はですね、谷川先生の2つ上の兄です。谷川 静一せいいちと申します。いつも弟がお世話になっています。何卒宜しくお願い致しします。」そういった男は、夏を見に来ていた岡田だった。

 「先生のお兄さんってことは、茜のお父さんですか?」

と、三芳が岡田に聞くと、「いつから俺が二人兄弟だと錯覚していた?俺は三人兄弟だぞ。」と谷川が言った。

 生徒たちはこそこそと岡田のルックスについての話をすると、授業に取りかかった。


 岡田は新しい席で一番後ろになった茜の方へ行き、ノートに書かれている文章を見た。茜の人格だと、この問いにはこう答えるはずだという予想もしていた。

 しかし、その予想は大きく外れていた。


 「あれは、夏が自分で考えて、自分の言葉で書いたことなんだよ。分かるか?夏という人格が形成されたんだ。夏はどこだ?今すぐSAKEを確認したい。」学校が終わり吉野が実験室に来た19時頃、岡田は勢いよく話し出した。

 「夏なら先に家に戻っている。明日じゃ駄目なのか?」岡田とは違い、吉野は落ち着いた口調で言った。

 「駄目だ。いつ人格が完成してしまうか分からない。今すぐ呼んでくれ。」


 「失礼します。」あれから30分後、夏は実験室に駆けつけていた。

 「夏、少し脳を見せてくれ。」岡田はそう言うと夏の返事を待たずに、準備を始めた。


 「91%」SAKEを確認した岡田が呟いた。

 「えっ?」うまく聞き取れなかった吉野が聞き返す。

 「91%、人格が形成されている。あと9%で完全な人間になる。SAKEは消滅し、夏

独自の人格ができるんだ。」

 「夏、どうしたい?人間になりたいか?」

 夏は「えぇと…」と吉野と岡田の方を見ると、「私…ちゃんと考えたい。」と実験室から走って出ていってしまった。彼女は自分が人間になれることについてしっかりと考えたことがなかった。岡田がそういうプログラムに作ったのだ。

 吉野と岡田は走って行く夏を黙って見送った。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る