第21話 〜"裏切り者"編⑥〜

 磯辺がさらわれたと報告があり、吉野が香取からの電話に出た次の日のことだった。

 香取は暴力団おともだち数名を引き連れ、都内のとある森小屋にいた。都内と言っても、都心からそこそこ離れた場所だ。木でできた椅子には磯辺を座らせ、ロープで手足などを縛り付けた。吉野に指定した時間まであと30分あるが、今日は朝からずっと磯辺に拷問していたため、香取は時間はあまり気にしていなかった。磯辺の顔はあざだらけで血も出ている。

 「そろそろ意識がなくなるかもしれないな」香取は磯辺の顔を眺めながら言った。

 「眠いだけです…。レディーの顔を傷つけて、ただで済むと思わないで下さいよ」小柄で可愛らしい磯辺も気と生命力は強い。

 「可愛いお嬢さん、吉野やUNTOのこと、教えてくれてとうもありがとうよ」

 「可愛いのは自覚済みです。殺される前に全部話しちゃえって教育されてるんで」

「まあよく君はペラペラと会社のことを話すね。そんな会社がここまで生き残れるはずがない。何か対策があるんだろ?うん?」

 「ありますけど、もうおしゃべりは終わりのようです」そう言うと磯辺は安堵のと涙をポロッとこぼした。

 彼女の目の前のドアは開いており、吉野と重時が立っていたのだ。

 「先輩、重時君、ご迷惑おかけしてすみません。帰ったら自害しますので」

 「綺麗な顔いっぱい傷つけられちゃって。帰ったら消毒して手当してやる。お疲れ様、磯辺」そう言うと吉野は微笑んだ。

 重時は、ロープを全てほどかれた磯辺にかけ寄って「行こう」と部屋を出た。

 磯辺は重時に支えられ、ぐったりしていた。

 「確かうちの学校に潜入していたのは、もう二人いたよな。一人は生徒だとか。おたくの会社は未成年も雇っているのかな。あと、もう一人は…?」

 「現在仕事中だ。」

 「興味がない。で、あの女社員と引き換えに要求したものはどこだ?2億と武器。お前はここにいるから良しとするが、優秀な人材は他にいないのか?」

 「2億も武器もない。俺はお前に引き渡されるために来た訳ではないが、優秀な人材ならここに来ている」

 吉野の言葉を聞くと、香取は気持ち悪く笑い出した。「残念ながら、外には大勢俺の仲間が待機している。取り引きは成立ならず、か。何を思っての行動なのか、理解しかねるな。」

 「お前と取り引きする気なんか初っ端からない。重時と磯辺はまだ外にいるよな?」

 「来い」

 香取に呼ばれると、重時と磯辺を連れて5名ほどの男が入ってきた。香取の仲間の暴力団だろう。

 「待っててやるから、今すぐ仲間を呼んで金と武器を持ってこさせろ。人材はここにあるんだろう?それをこの部屋に連れてこい」

 そう言われると吉野はため息をついた後、ピューと音で合図を出した。

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