第4話 〜"学校のカイダン"編〜

 夏と吉野の再開から二ヶ月後の朝8時40分になった。

 吉野はあの後すぐ、A中学校の教師として働き始めることになった。教育委員会も、UNTOには簡単に操れてしまうのだ。


 今日は、夏が吉野のクラスに転校してくる日だ。吉野は、数学担当で3年4組担任の谷川たにがわ 静司せいじとして潜入している。夏は、谷川の兄の娘、つまり姪っ子のあかねとして潜入する。教師たちからも、生徒からも情報を得る作戦なのだ。ちなみに、二人の他にも何人か潜入する。スパイ部の重時と磯辺は、今日から教育実習生の坂時さかとき 燈弥とうや春野はるの あいことして潜入。暗殺部の絵石えせき 斗真とうまは、心理カウンセラーの小瀬こせ ゆうとして既に潜入している。


 茜はまず、吉野と共に校長室に入った。もちろん二人とも緊張などしていない。

 「谷川くんの姪っ子なんだって?校長の香取です。よろしく」香取は手を差し出してきた。

 夏にはもう茜の人格が宿っているので、茜は「始めまして、谷川 茜です。よろしくお願いします」といって香取の手を握り返した。


 谷川 静司(吉野)はいつも通りガラガラッと教室の扉を開け、「おはよーう」と言った。

 彼の生徒からの人気はかなり高いので、ほぼ全員の生徒が返事のあいさつをした。

 「先生、扉開けっ放しですよー」クラスの中心人物、山沢やまざわ 沙也加さやかが甘々萌え声で言った。

 「うん。おいで、茜」静司は開けたままの扉の方を見た。

 クラスはざわざわしだした。

 茜は少しオドオドとした様子で教室に入っていき、黒板と教卓の間に立った。「は、はじめまして。谷川 茜です。よろしくお願いします」

 また教室がざわざわしだす。

 茜がお辞儀し終わるのを見届けてから、静司は生徒を静かにさせた。「はいはい、静かに。あれだろ?俺と茜の名字が同じだから、困惑してるんだろ?」

 「親戚か何かですか?」泣きそうな声でまた山沢が言った。

 「その通り。茜は、俺の兄貴の子。つまり、姪っ子だよ。両親とも仕事で海外に行ったから、うちで預かることにしたんだ。」

 前列男子たちはへぇーっと声をあげ、前列女子は良かったーっという歓声をあげた。

 「今日の一時間目は学活だったよな?せっかくだから、転校生の質問コーナーとかやっちゃおっか!茜、立ったままでもいい?」

 茜は頷き、恥ずかしそうにもじもじした。

 「はいはいはーい!」たくさんの生徒が挙手する。

 「山沢ー」

 「はい!茜ちゃんって読んでもいいですか?」

 「あ、どうぞ、自由な呼び方で」茜は嬉しそうに笑みを溢す。

 「百里ひゃくりー」

 「彼氏いますか?」

 「彼氏いない歴=年齢です」

 「三芳みよしー」

 「叔父さんのこと何て呼んでますかー?好きですかー?」

 静司は「おいおい、質問は一つまでだぞ」と笑った。

 「せいちゃん、って、お父さんが呼んでて…でも、学校ではちゃんと先生って呼ぶつもりです。頭も良いし優しいので、大好きです」そしてまた恥ずかしそうに顔を赤めた。

 

 30分も続いた質問コーナーの後、静司は茜に「こっちから見て左側の、一番後ろの席に机と椅子を置いといたから。廊下側な。そこ、座って」と指示した。そして「じゃあ、自己紹介コーナー!クラス全員、立って名前と特技と一言。山沢から1列後ろ行って、次に前の三芳に戻ってくる感じで言ってって」と呼びかけ、3年4組の一時間目は大いに盛り上がった。


 一時間目が終わり、休み時間になった。山沢が数人の女子を引き連れて茜の方へやってきた。

 

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