少女と被告人

 俺の人生、どこで踏み間違えたのだろう。 


 静寂な空間に通る声のクマが字面を朗読している。周りには傍聴席があり、無事満員御礼となっている。そんな中、クマが長々と話し続ける。


「判決を言い渡します。主文、被告人・エイユウを死刑に処す」



 気づけば占星術師から死刑囚にジョブチェンジしていた。



 どうしてこうなったのか説明しよう。



 枕を顔面にクリティカルヒットした俺は気を失ってしまったのが最後の記憶、朝になっており。気づけば縄で拘束されクマに凝視されていた。拘束された俺を見下ろしクマに抱えられ連れていかれると、簡易的な裁判所が出来ていた。昨日見た中央広場の露店があった場所にて。


 寝起きドッキリであって欲しい俺だったが、裁判所の中央に無理矢理座らせられる。何やら他のクマとは比べられない程に図体が大きいクマが、俺を拘束する縄を持っている。


 徐々に傍聴席やギャラリーが集まって来ており、老若男女のクマたちが静かに集結。

 そうこうしている内に、何やら眼鏡を掛けたクマがやって来る。


「それでは開廷します。被告人は前に出て下さい。名前は何といいますか?」


 開廷??被告人??質問されるがままに答える。


「空沢詠悠です」

「エイユウ?英雄?本当の名前を言いなさい」

「本名ですよ!」


 傍聴席にいる人たち、改めクマたちはガヤガヤと騒々しくなる。


 本名だわ!!!!文句があるなら親に言え!!


「傍聴席は静粛に」


 裁判長と思われる眼鏡クマが場を収めるために声を張って鎮めた。


「では次へ。住所は?」

「・・・・・・。」

「黙秘ですか?」


 こんな異世界で本当の住所を言うの無駄、ケレス村という現在地しか分からない。どちらにしても詰んでいる。


「まあ、いいでしょう。それでは、これから被告人に対する強盗未遂被告事件について審議します。村長は起訴状を朗読してください」


 強盗未遂~~~~~???身に覚えがないんですけど!


 眼鏡クマが村長と言ったクマへ目線を向けている。


「えー。公訴事実。被告人は6月12日午後20時15分ごろ、宿屋『アルクトス』にて少女が宿泊する部屋へ押し入り、金品の強奪・暴行を加えようとした。「星が、綺麗ですね」などと脅迫したものの、被害者によって拘束されたのち現行犯逮捕されました。罪状、強盗罪。以上について審議願いします。」


 村長クマはスラスラと読み上げる。続いて眼鏡クマが開口した。


「被告人、この法廷では何も答えないでいることもできるし、発現することもできます。ただし、被告人が発言した内容は、それが被告人に有利なことも不利なことも、すべて証拠となりますので注意してください。今、村長が朗読した公訴事実について被告人にお尋ねしますが、どうですか。内容はそのとおりですか?それとも、どこか違うところがありますか?」

「全て身に覚えがありません」


 傍聴席は再度騒がしくなり、「嘘をつくな!」「女の子の部屋へ押し入ったのに!」「無罪になると思うなよ!」などと言いたい放題。


 それでも俺はやってない。


「静粛に。村長、証拠の取調べを請求してください」

「証人としてエルヴィラさんの尋問を請求します」

「では、エルヴィラさん前に来てください」


 名前を呼ばれたエルヴィラという少女、あの時205号室で着替えていた女の子!着替え途中の水色の下着で、健康的な身体をした女の子だ!言い方がギルティ。


 エルヴィラが前に立つと眼鏡クマが続ける。


「6月12日午後20時15分ごろ、あなたが宿泊していた部屋に強盗が入りましたか?」

「はい、「星が、綺麗ですね」と言って、私に対して脅迫してきました」


 この世界では星が綺麗ですね、は脅迫なのか・・・?


「事件の遭った時間帯、この男性以外に誰か見ましたか?」

「いいえ、この人だけです」

「そうですか、ありがとうございます」


 言い終わるとエルヴィラが自席へ戻っていく。着席するのを確認したあと村長が一言付け加える。


「終わりです」

「村長、ほかに証拠調べの請求はありますか?」

「ありません」


 淡泊に村長クマが言い終わると眼鏡クマが続いて話し出す。


「これで証拠調べを終え、双方のご意見をうかがいます。では、村長から論告をどうぞ」


 眼鏡クマに促されると起立し、眼鏡クマや傍聴席に座るクマたちに聞こえるよう大声で字面を朗読しはじめる。


「被告人に対する本件公訴事実は、当公判廷において取り調べ済みの証拠によって、その証拠は十分にあります。本件犯行当時、宿屋『アルクトス』の205号室へ押し入り、強盗犯として取り押さえられています。紛れもないエイユウと名乗る少年が犯人でしょう。また、魔導書を用意するなど計画的で悪質な犯行であります。被害者のエルヴィエラさんの心の傷は計り切れないでしょう」


 村長クマがそこで言い止めると、エルヴィエラはポロポロと涙を溢し目頭を押さえる。幼気いたいけな少女が泣いていると村長クマだけでなく、傍聴席のクマたちも慰めるかのように頷いている。

 というか、あの本は魔導書だったの?初耳です。


 村長クマが正面に向き直ると字面を読み上げる。


「以上の事情を考慮すると、被告人を死刑に処するのが相当であると思います」


 死刑だと~~~~~!?


「いやいやいやいや!俺はただ自分の部屋に入ろうと思っただけだよ!おかしい!ちゃんと鍵も受付の人から貰ったし!」

「被告人、静粛に。落ち着いて弁論をどうぞ」


 傍聴席からは「こんな時まで嘘を言うなんて」「恐ろしい子」「悪魔の子みたいだわ」などとブーイングされる始末。


「俺はちゃんと受付のヒト・・・から、鍵を貰ってきました!それで宿泊しようと、あの部屋に入ったら、この子が居たんですよ!」

「嘘言わないで!どうせ私の身体が目的だったんでしょ!」

「違う!!!」


 弁論しろって言われたものだから、本当の事を言うも信じてもらえない上にエルヴィエラには暴漢扱いされている。周りのクマたちには、こんな少女に辛いことを言わせる仕方のない男、みたいな目で見られている。


 完全に詰んでいる。突然村にやってきた男に、信用を寄せる存在もいない。

 俺はガクッと俯いて地面を見つめるも更に言い返せる言葉が見つからずに居る。


「これ以上の弁論はないと見えますので、これで審議を終えます」


 よくありがちな、木槌で叩く音が鳴り響く。


「判決を言い渡します。主文、被告人・エイユウを死刑に処す」


 え??????コメディ番組かこれは!


 なんで死刑が通るんですか???重罪すぎる、もっとこう、あれですよ。強盗未遂じゃないですか、いや、違うけど。それにしてもオカシイ。

 突如死刑囚になったエイユウは肩を落として驚愕している。


「少年よ、何か言い残すことはありませんか?」


 何かを言い返したいと思うが、何も浮かんでこない。俺は占星術で異世界に飛ばされた上で冤罪をかけられ死刑になるのか、こんなの間違っている。

 俺は元の世界に帰りたい、こんな所で死んでたまるか。やりたいこと、これから先の人生なにが起こるか分からない。こんな冤罪で人生止められてたまるか。


「俺は―――」


 俺は戦う意思を決め、言い放つ。戦うと言っても俺には言葉の武器しか持たない。それでも立ち上がらなきゃいけない時があるんだ。今がその時。


「あの~?どうかしたんですか?」


 宿屋で昨日、対応してくれた受付嬢が傍聴するクマの群れを掻き分けて出てくる。

 俺は決心して戦おうと決めたのに、思わぬ乱入者が現れ言葉を失ってしまった。


 受付嬢は眼鏡クマに問いかけると、話し出す。


「この少年が、キミの働く宿屋で宿泊していた少女の部屋に押し入ったんだ」

「確か、206号室のエルヴィエラさんですよね?」

「いや、205号室ですね」


 眼鏡クマが字面を掲げて眼鏡の隙間から読んでいる。老眼ですか?


「昨日エルヴィエラさんをお通し、したのは206号室のはずです。これは間違いありません」


 救世主登場!!!!俺はこの受付嬢に何度救われるのか・・・。


「その少年に渡したのは205号室の鍵です。エルヴィエラさんに渡したのは206号室の鍵のはずです」


 エルヴィエラはポケットに入れてあった鍵を確認すると、しっかり206号室と書かれてあった。


「・・・・・・・・・。」


 周り一帯が誰も言葉を発さないまま時が過ぎようとしていた。


「あのとき20時に仕事が終わる予定だったのですが最後のお客として、少年の対応をしたあと退勤しました。こんなことになるなら、もう少し残業でもしていれば良かったですね・・・」


いやいや!!それもそうかもしれないけど、ほんとありがとう!!今日からあなたは天使です。いえ、マイエンジェルと呼ばせて下さい。


「けど!!!部屋は開いていました、間違えるのも当然です!」


 エルヴィエラは、どうにも自分のミスを認めたくない為か違うベクトルへと罪を作り上げようとする。


「獣人族専用なので。獣人族は外から施錠または開錠するのは難しいのです、手が大きいので。特注に大きな鍵にしてしまっても、かさばって管理が難しいので規定の大きさなんですよね。あと、部屋を間違えたうえに施錠していなかったエルヴィエラさんの落ち度もあると思いますよ」


 マイエンジェルこと受付嬢が厳しい目でエルヴィエラに言い放つ。エルヴィエラは黙り込み言い返すこともできないでいる。



そんなことで屈強なクマが俺の縄を解くと、眼鏡クマが話す。


「では、エルヴィエラさんの間違いということで・・・。閉廷?ですかね」


 眼鏡クマがそういうも、俺は納得がいかない。こんな冤罪を吹っ掛けておいて危うく死刑になるとこだったんだぞ。おかしい、謝罪の1つも受けていない。

 小さい男だな、と思われるかもしれないが、ひとひとりの命が奪われる寸前だった。俺の命だけど!異世界に来て凶悪な化け物に襲われるならまだしも、嫌だけど。


「いや、納得がいきません。俺は死刑にされるとこだったんですよ?・・・、エルヴィエラの裁判を要求します」

「なんで!私の着替えを見ておいて何も起きずに済んだじゃない!謝って欲しいの?小さい男ね」

「なんとでも言えばいい。眼鏡クマ・・・、裁判長。冤罪で死刑執行したら、一大事ですよね?」


 眼鏡クマこと裁判長は「ああ・・・まあ、うん」などと要領を得ない返事ばかりするものだから俺は裁判長の元へと近づいていく。


 裁判長が持つ木槌を奪い取って、カツンッ!と響かせると。


「判決を言い渡します。主文、被告人エルヴィエラを」


 うわー!この木槌で一度打ってみたかったんだ!人生でやってみたいものリスト第58位くらいかな。ちなみに57位は全裸で海を泳ぐです。

 そんな57位公然わいせつの男はエルヴィエラに言い渡す。


「俺の先生と処する」

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