第5話 早弥香の気持ち

 私は、今、幼馴染のユーちゃんと喧嘩中。

 こんなに長い間、喧嘩をするなんて、いったいどうしたらいいの?


 彼は、なぜ、部活にも道場にも顔を出さなくなってきたんだろう?

 そして、なぜ、私を敬遠するのだろう?




 私「ユーちゃん!何で昨日、部活に来なかったの?」

 勇人「・・・ちょっと、用事があって・・・」


 私「ユーちゃん、昨日も部活来なかったよね?」

 勇人「あっ・・ああ、ちょっと、腕を痛めちゃって・・」


 私「ユーちゃん、明日、道場に行こうよ!」

 勇人「あっ、ごめん・・明日は、やらなくちゃいけない事があるから・・」


 こんなやり取りが続き、やがて・・・・。

 私が話しかけても、うわの空か、どっかへ行っちゃうし。

 絶対、私を避けてるよね。


 ある日のこと。

 私「ユーちゃん、ちゃんと聞いて!」

 勇人「聞いてるよ、あっ、ごめん、トイレ行ってくる」

 私「さっき行ったじゃない?」

 勇人「またしたくなったんだよ!」


 またある日のこと。

 私「ユーちゃん、あのね」

 勇人「あっ、ごめん。先生のとこに質問に行くから、今はムリだわ」

 私「いつから真面目になったのよ?」

 勇人「オレは、いつも真面目だから」

 私「真面目だったら、私の話も真面目に聞いてよね!」

 勇人「善処します」


 またまたある日のこと。

 私「ユーちゃん!捕まえた!」

 勇人「なんだよ~」

 私「あのね、なんで私を避けるのかな?」

 勇人「それは、君が眩しくて、綺麗だから」

 私「それはホントのことだけど、心がこもってないわよ!っていうか、何を隠してるの?この早弥香お姉さんに白状しなさい!」

 勇人「・・・・あのな・・サヤちゃん」

 加山「サーヤ、田中君が困ってるじゃないか。手を放してあげなよ」

 私「ユートは黙っててよ」

 勇人「そうだ、黙ってろよな、加山。お前には用はねーんだよ!」

 私「ちょっと、ユーちゃん、そこまで言わなくてもいいんじゃない?ユートが可哀そうだよ」

 勇人「はあ~?なんでコイツが可哀そうになるかな?意味わかんねーし!そもそも何でコイツがオレらの話に入ってくるのかってことだよ!」

 私「なんか、ごめんね、ユート。ユーちゃん、機嫌が悪いみたいだから」

 加山「うん、そうみたいだね。ごめんね、サーヤ」

 ユートはどこかへ行った。


 勇人「・・・はあ?何がごめんねサーヤだ!恥ずかしくないのか?なんでサヤちゃんのことをサーヤなんて呼ぶんだよ!バカじゃねーの!サヤちゃんもサヤちゃんだよ!何で、サーヤなんて呼ばれて喜んでるんだよ!バカじゃねーの!」

 私「バカですって!たしかに、ユーちゃんよりもおバカですよ!バカで悪かったわね!」


 勇人「ああ、バカってのはあくだ!おバカなサーヤ!ハハハッ!」

 私「なんだとーー!このーー!!待てーーー!!」


 など、最初は可愛いものでした。


 私「なんで部活休んだの?」

 勇人「あっ、ちょっと爺さんが入院してさ~~、仕方ないだろ?」

 私「爺さんって、一緒に暮らしてないよね?」

 勇人「うん」

 私「じゃあさあ、どこに入院されてるの?」

 勇人「〇〇市だよ・・・」

 私「嘘つき!ユーのおじいちゃんは、もう、この世にはいないよね!」

 勇人「大当たり!」

 私「茶化さないで!なぜ、部活を休んだんですか?」

 勇人「本気でそれ、僕に言わせる気?」

 私「はあ?本気に決まってるじゃない。言ってよ、理由」


 勇人「・・それは、サヤちゃんを見たくないからだよ!(加山としゃべってるサヤちゃんを)」

 私「・・・どういう事?何を言ってるの?どうしちゃったの?」

 勇人「もう、キミと話したくないってことだよ!・・もう、僕に構わないでくれる?ウザいんだよ!」

 私「・・・・・・・・」

 私は言い返すことができなかった。

 どうしてそんなことを言うの?その疑問だけが頭の中を何度もリフレインした。



 もう、〇インもしてないし、一緒に登校もしていない。

 あれほど、好きだったのに。

 あれほど、一緒の高校を望んだのに。


 いつもなら、笑顔で、僕が悪かったって言ってくれるのに。


 どうしてなの?

 わたし、なにか彼を怒らせることをしたのかな?

 わからない。

 私のこと、もう嫌いになっちゃったのかな?




 それから、3年生になり、総体の予選が近づいてくると、ユーちゃんは部活に来るようになった。

 それだけで嬉しかった。


 そして、そして、間も無くして、「お疲れー」って声を掛けてくれた。

 とても嬉しかった。ドキドキした。


 そして、少しずつ少しずつ話すようになった。

 でも、何を話せばいいのかが、よくわかんなくなっていた。

 こんなこと、喧嘩する前にはなかった。


 いっぱい話したいことはあるのに・・・彼の顔を見ると、勝気だったと思っていた自分がおとなしくなってしまう。

 彼の顔が、まともに見られなくなり、目がうるうるしたり、目を泳がせてしまう。

 あれ?わたし、乙女になってる?

 やっぱり、こんなに好きだったんだ。

 大好きだ、この気持ちをはっきりさせたい。

 はっきりと口に出したい。

 そのうち、きっと・・・・。


 それでも、まだ、あの時のケンカを引き摺ってはいるけど、だんだんと距離感が以前の頃に近づいてきているとは感じていた。


 そんな中、総体予選が始まった。



 



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