第19話 主人公に必要なもの その1

 帰りは行の半分の時間もかからなかった。

 学園の校門前にゆっくりと降り立つと、メルセや教師たちが待ち受けていた。


「オネス! 無事だったか……」


「はい。大丈夫です」


「敵はどうなった? 探知魔術からは影がすべて消えたようだが……」


「追い払いました」


「追い払った……? まさか、君ひとりで、すべての敵を?」


「はい。この箒と魔導人形たちのおかげで」


 誰もがぼくを見て絶句していた。

 どうもこの世界に来て、こういう反応ばかり受けている気がする。


 すると、一人の女子生徒がぼくのもとに駆け寄ってきた。

 シリンだ。


「オネス先輩! 無事でよかった……」


「シリン、ルッカと一緒じゃなかったの?」


「あ、はい。あの、ロイドって人がルッカ先輩を迎えにきて一緒に……」


「え、ロイドが?」


 ぼくは予想外の返答に面食らった。

 ロイドがルッカを心配して、傍に付いていてくれたのだろうか。

 

 ともかく、彼なら安心だ。

 ロイドはぼくより――オネスよりもはるかにすごい魔術師なのだから。

 それに彼の並々ならぬ正義感も、ぼくはよく知っていた。

 ロイドなら安心してルッカを任せられる。

 

 なのに、なぜだろう。

 ひどい胸騒ぎした。


 それはしだいに収まるどころか、どんどん強くなっていった。


 そのとき、地面が激しく揺れた。

 誰もが立っていられないほどの衝撃だった。


「なっ……!?」


 学園の中心から、巨大な光の柱が出現していた。

 マグナル魔術学園校舎で最も背の高い、中央塔がある辺りだ。


「いったい、なにが……シリン、大丈夫!?」


「は、はい。あそこって……地下に魔術結晶があったあたり……ですよね」


 シリンのなにげない呟きに、ぼくの不安はいよいよ確信に変わった。


「メルセ先輩、みんなを頼みます!」


 ぼくはシリンをメルセに預け、再び箒に跨った。


「オネス、なにを――」


 彼女が制止するのも聞かず、ぼくはその場から飛び立った。


 *


 空から中央塔の頂上に近づき、見晴らし台の上に降り立つ。

 ぼくは終焉のローブをまとい、アルテマロッドを展開しながら、近づいた。


 そこに、誰かの気配がした。


「そこにいるのは……誰だ」


 ぼくの言葉に、隠れていた人物が姿を現す。


 そこにいたのは、テロリストと同じ漆黒のローブをまとった人影。

 フードを目深にかぶっており、素顔は見えない。


 彼の足元に、誰かが倒れてている。

 それを目にした瞬間、ぼくは凍りついた。


「ルッカ……!」


 ルッカはぐったりとしている。意識がないようだ。

 咄嗟に駆け寄ろうとしたぼくを、ローブの人物は杖を突き付けて制した。


「近づくな。貴様は招かれざる者だ」


 どこかで聞き覚えがある声。


 いや、ぼくはそれが誰なのかもうわかっていた。

 ただ、認めたくなかっただけだ。 

 人影がローブのフードを払う。

 その瞬間、心臓が締め付けられるような驚きがぼくを打った。



「ロイド……どうして」



 そこにいたのは、この物語の主人公――ロイド・アーサーだった。


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