エブリシング・プリペアド

「ようやくお目覚めかね」

 そこはガラス張りの部屋だった。外にはスーツを着た男が立っている。

 腹に手をやった。いつも通り、グーと鳴った。どうやら死に損なったらしい。内臓は元通りになっていた。


 調査官を名乗る男が、状況を説明した。

 内臓をばらまいたシューマは1週間の昏睡状態にあったが、その間に身体は自然に再生されていった。サドンデスによる直接の死者は2万8000人。散乱した内臓が腐敗し、疫病が蔓延したことにより、さらに37万人が犠牲になったという。


「これを調べさせてもらった。この世には存在しない鉱石でできている。つまり、君はこことは違う世界から来たということだ」

 調査官の手には青い鉱石のネックレスがあった。

「返せ!」

 エリカとの思い出の品を取られて、激高した。調査官はトレーに載せて、食事用の隙間から入れてくれた。

「わたしは敵ではない。ただ、君のことを知りたいだけなんだ」


 何日かすると、まさみが現れ、毎日、面会に来るようになった。シューマの精神を安定させるために必要な措置だと判断されたのだ。


 まさみはマンガを持ってきて、読み聞かせしてくれた。多彩な物語があることにシューマは感心した。


 お気に入りは『帽子をかぶった勇者の成金三昧』だ。防御力に特化した帽子を用いて王家の令嬢から財産をかすめ取り、放蕩の限りを尽くす、ろくでなしの話だ。帽子を奪われ、ハゲ散らかした頭をさらす場面で、いつも笑ってしまう。


 『念入り勇者 ~この勇者が俺YOEEEせいで念入りすぎる』も好きだった。念入りに準備や鍛錬ばかりしている臆病な勇者が、準備の方向性が間違っているせいで、いつもコテンパンにやられてしまうのだ。


 ある日、シューマは自分の能力をまさみに打ち明けた。

「だから、君が望むことは、なんだってかなえてあげる。復讐だって、お金だって、なんでもだ」

「すごいことができるんだね。でも……なにもいらない。だって、ズルしてまでなにかをほしいとは思わないもの」

 まさみの潔さにシューマは心を打たれた。

 けれど、あとで考えてみると、世の中や男たちのズルさによってさんざん奪われてきたのはまさみ自身のはずなのに、と気づいた。

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