3章。国王との決戦

39話。国王に宣戦布告

「ああっ! ル、ルカお姉様。ステキ……ステキです!」


 ミリアがヨダレの出そうな顔でボクを見つめている。

 ボクは侍女に化粧をしてもらい、ドワーフ王の鎧を着て、中庭に立っていた。


 魔竜王との戦いで鎧は損傷したが、自己修復魔法が付与されていたため、三日ほどで元の状態に戻っていた。


「こんな最高に美しいお姉様の姿を見せたら、民衆はイチコロですね!」


「もうっ……恥ずかしいからジロジロ見ないでよ」


 この鎧は、下半身部位がミニスカート状になっており、胸の部分も開いて白い肌が見えている。

 いくら魔法効果によって防御力を高めるためとはいえ、理解に苦しむデザインだ。


 正直、これを作ったドワーフ王は変態なんじゃないかと思う。


「ハイ! 次は【光翼(シャイニング・フェザー)】を出した状態で、聖剣を構えて。横にはユニコーンをひかえさせてください。表情は、やや憂いを帯びた顔でっ!」


「やや憂いを帯びた顔というのは、難しい注文だな……」


 それは一体どういう表情だろう? イ、イメージができない。


『国王に対して宣戦布告をすると聞いたけど、具体的に何をするつもりなんだい?』


 ボクの隣にやってきたユニコーンのフェリオが疑問を口にする。


「よくぞ聞いてくれたわ! これから王国内のすべての都市の上空に、ルカお姉様の姿を映し出して、そこで暮らす人々に直接声を届けるのよ! これぞティアルフィ公爵家の秘技『投影魔法』!」


 台本を手にしたミリアが得意満面で胸を張る。

 ボクはリクエスト通り【光翼(シャイニング・フェザー)】を展開。


 手にした聖剣【スター・オブ・シェラネオーネ】の光の刃が、地上に降りた星のごとく、あたりを照らした。

 イルティアと戦った時より、その輝きは、はるかに増していた。


「ああっ! 【光翼(シャイニング・フェザー)】と聖剣とユニコーン。この三つを備えたお姉様はどこからどう見ても天使! 台本と演出を考えたこの私ですら、あまりの神々しさにひれ伏したくなってしまうわ!」


 ミリアに付き従う侍女や聖騎士団の少女たちも、深く頷いている。

 そんなふうに言われて、こそばゆい。


「フェリオ。あなたにも協力してもらうんだけど。この台本、読める?」


『……人間の文字はわからないから、読み上げて欲しい』


 ミリアはフェリオを呼び寄せて、何やら打ち合わせをしている。

 ボクも台本にもう一度目を通して、セリフや流れを頭に入れた。


「それじゃ、ルカお姉様! 台本通り、行ってみましょうか! この水晶玉に向かって話せば良いですからね」


 緊張するが、これも王家を倒すのに必要なことだ。

 イルティアでは、フェリオが懐かないし、究極の聖剣も使えないため、ボクが王女を演じるしかない。


「はい。それじゃ本番開始まで……3、2、1。スタート!」


 ボクは投影魔法の触媒となる巨大水晶玉に向かって話しかけた。


「ボクは女神様より究極の聖剣【スター・オブ・シェラネオーネ】を与えられた勇者。アルビオン王国第二王女、ルカ=ミレーヌ=アルビオン」


 屋根の上に登った聖騎士の少女たちが、ライトの魔法を発動させてボクに光を当てる。

ボクの姿がより魅力的に映るように演出する照明係だ。


「もうすでに知っていると思うが、イルティアの名は捨てた。この国の第二王女の名はルカだ。よく覚えておいて欲しい」


 フェリオが側によってきて、ボクの顔に鼻先を寄せてくる。

ボクは彼の頭を優しくなでてやった。


 幻獣ユニコーンと心通わす美しい聖女の構図になっているハズだ。


「ボクはアルビオン王家を倒し、この国を共和制にすることを宣言する。王家はこれまで勇者の権威を利用し、自らの繁栄のためにやりたい放題をやってきた。

 エルフの国は、魔王に内通したなどと事実無根の罪で滅ぼされ、エルフたちは奴隷にされてしまっている!」


 ボクを見守っていたハーフエルフのエリザが表情を固くした。

 国王に囚われたエルフの王女の救出と、エルフの奴隷解放こそ彼女の悲願だ。


「魔王領への遠征は、アルビオン王家が魔王の財宝を得るために、他国を巻き込んで起こしたものだ。国王は魔王に逆襲されると民を見捨てて、王都に立て籠もる始末だ。このような王家に民を導く資格はない!」


 ボクは聖剣を断罪の刃のように振る。


「王家が腐敗したのは、女神の血を引く王家の者しか聖剣の力を引き出せず、勇者と王家が一体となってきたからだ。今後は王家の者には、絶対に権力を与えないようにする」


 ボクは背中の【光翼(シャイニング・フェザー)】をはためかせて、王女がこれを宣言したことを強く印象づけた。光の粒子があたりに舞い散る。


「国王はすみやかに退位し、城を明け渡せ。拒否するなら、ボクに忠誠を誓った北側諸侯連合軍と、20万の魔王軍に打ち勝った精鋭の聖騎士団が相手をする!」


 エリザと騎士隊長の少女たちが、ボクに付き従うように背後に立った。


「ボクは王家を打倒しても、王位に着くことはない。勇者は、人々を守るという本来の役割に徹するべきだ。

 奴隷にされたエルフたちは、すべて解放することを宣言する。エルフは本来、人間の良き友であり、隣人だ! 彼女たちを奴隷にするなど、許されることじゃない!

 どうか王国に生きるみんな、ボクに力を貸して欲しい。

 ボクを支持する人が増えれば増えるほど、その想いが強けれ強いほど聖剣の力は増大していく。邪悪に打ち勝つ力となるんだ!」


 最後に天高く聖剣を掲げて、締めくくった。


「はい! カット! よかったわよ。お姉様!」


 ミリアが駆け寄ってきて、ボクにタオルと飲み物を渡してくれる。

 緊張で、脂汗が額に吹き出していた。


 ああっ、しんどかった。


「すばらしい演説でした! さすがはルカ姫様!」


「ルカ様の理想の気高さに、私も胸を打たれました! 共に理想の国を作りましょう!」


 聖騎士団の少女たちも押しかけてきて、ボクに賞賛と労いの言葉を浴びせる。


「こ、これほどまでに無欲で気高い姫君が、歴史上いたことがあったでしょうか……?」 


 ミリアに仕える侍女や兵士たちも、感動した面持ちでボクを見つめていた。


 その時、ボクの心のなかに無機質な声が響いた。


=========

 勇者を支持、応援する人の数が増えたことにより、聖剣の攻撃力がアップしました。


 25600……27450……28200……さらに増大します!

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 ボクの声を王国全土に届けることで、国王を断罪し、支持者を集める。ミリアが考えた計画だった。


 大義がボクにあるとわかれば、ボクに味方してくれる貴族も増えるだろう。


 この計画を完成させるために、イルティアに直筆で、貴族たちに手紙を書かせて送ってあった。ボクに味方をすれば所領を安堵するが敵に回れば、領地を削るといった内容だ。


 大義と利で人は動くというのが、ミリアの見解だ。


 計画がうまく行ったか。聖剣の攻撃力の数値を見れば、どれほどのシンパが集まっているか、おおよそわかる。


=========

 29700…32450…35600!

攻撃力が3万5000を突破したことにより、聖剣のアビリティが解放されました。


 アビリティ【スキル共有】


 勇者と絆で結ばれた者たちのスキルを共有。自分のモノとして、使うことができます。


 ミリアのスキル【鑑定】を共有、使用可能となりました!

(手に触れた物の価値を見抜き、情報を読み取るスキル。他人のステータスも閲覧できる)


 エリザのスキル【巨人の力(タイタンパワー)】を共有、使用可能となりました!

(筋力の能力値を10秒だけ10倍アップする。一度使用すると10分間のクールタイムが必要)


 フィナのスキル【聖母の抱擁】を共有、使用可能となりました!

(密着した相手の魔力を徐々に回復させる)


 アンジェラのスキル【魔法ブーストA】を共有、使用可能となりました!

(一日に三度だけ魔法効果を1.5倍に高める)


==========


 さらに父さんのスキル【薬師B】。母さんのスキル【脱兎】も使えるようになったことが告げられた。

 脱兎は逃げ足が早くなるスキルだ。


 聖剣のアビリティのあまりのぶっ壊れ性能に、あ然としてしまった。

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