19話。王女様。近所迷惑です

「なっ!? 大罪人がエリザ様に代わって聖騎士団長になろうなど……恥を知れ!」


「そうよ! さっきから聞いていれば、ルカ姫様に対して、大言壮語の数々。無礼にもほどがあるわ!」


「聖騎士は、心技体、すべてを兼ね備えた者を言うのです! いくら強くても、あなたのような傲慢な娘は、聖騎士とは呼べません! ましてや団長になるなど、誰があなたになど従いますか!?」


 聖騎士の少女たちが、イルティアに次々と罵声を浴びせた。


「はん! 大罪? 心技体ですって? バカね。欲しい物は力ずくで手に入れる。それが勇者よ!」


 イルティアはどこ吹く風といった態度で、せせら笑う。


「私は、この世で最も偉大なルカ様の覇道をお手伝いするために生まれてきたの。

 それをはばむことこそ、大罪! ルカ様のためならいつでも死ぬことができる、この私こそ。誰よりも心技体を極めた忠義の騎士と呼べるわ!」


 まったく理解できない超理論をイルティアは、威風堂々と言い放つ。

 こ、ここはビシッと言わねばならないだろう。


「騎士団長はエリザだ! それに悪いことをしたら、まず最初に、ごめんなさいだろ!?」


 イルティアは面食らって硬直する。

 

「……ごめんなさい?」


 謝るという選択肢は、彼女の頭には無かったようだ。

 悪いことをしたという感覚そのものが、無いのかも知れない。


「そう。お前がここで暴れたせいで、怪我人が出ているんだぞ。

 まず、みんなにちゃんと謝る。いいね?」


「……ご、ご冗談を。聖なるアルビオン王家の王女である私が頭を垂れるのは、天上天下にルカ様だけです」


「王女殿下に向かって、まだ自分こそ王女であるなどとデタラメを言うなんて!?」


「そもそも、あなた。魔族じゃないの!?」


 ボクこそ王女だと信じている少女たちから怒声が飛ぶ。


 イルティアが使ったのが悪魔召喚や、魔王の剣などと称する暗黒系統の魔法であったため、彼女は魔族と思われているようだった。


「……ぐぬぬっ」


 イルティアは悔しそうに拳を握り締めて肩を震わす。

 

「わかりました! それがルカ様のご命令なら……暴力を振るってごめんなさい!」


 無論、この程度で聖騎士の少女たちの憤りはおさまらないが、もう深夜だし、これで手打ちとしよう。

 

「……もう誰かを傷つけたりしたら、ダメだめだぞ」


「はっ!」


 イルティアは素直に返事した。


「それじゃ、みんなイルティアのことをよろしく頼む」


「はっ!」


 聖騎士の少女たちも、承諾する。


 ボクはエリザに力を貸してもらった多大な恩がある。そのエリザがイルティアをボクの近衛騎士にしたいと言うなら、受け入れるべきだろう。


「イルティア殿。ルカ姫様のご命令ですから、あなたを聖騎士団に受け入れてさしあげますけど。わたくしたちは、あなたなど微塵も認めていませんわ!

 冗談でも二度と団長になりたいなどと、おっしゃらないでくださらない?」


 騎士隊長の少女が、キツイ口調でイルティアに迫る。


「ふん。聖騎士団長の地位なんか、単なる通過点にすぎないわ。

 私はルカ様のご寵愛を勝ち得て、ルカ様の妃の座につくのよ!」


「はぁ!? いや、ちょっと待て!」


 本日、最大級の衝撃がボクを襲った。


「ボクの妃って……ボクと結婚したいってことか!?」


「はい! ルカ様のお子をこの身に宿したく思います! できれば、今夜から夜伽をご命じください」


 イルティアは性格は極悪だが、外見だけは天使だ。そんな美少女からの爆弾発言に、理性がぶっ飛びそうになった。


「よ、夜伽ってなんだ!? ま、まさか、なにかエッチなことしたいってことか!? い、いや……絶対、嫌だ! 女の子を奴隷にしてエッチなことさせるとか、どんだけ鬼畜なんだよ!」


 そんなことをしたら、妹に100パーセント軽蔑される。

 ボクは妹に対して胸を張れる兄でいたいんだ。


 それにボクはイルティアのことなんか、好きでもなんでもない。


「王たる者。世継ぎを作るのも大事な役目です」


 イルティアはしれっと告げる。

 彼女はボクに歩みより、ボクの腰に手を回した。


 ドキっ、と心臓が跳ね上がる。


「私は未だ男性を知らぬ身ですが、ルカ様に喜んでいただけるよう。精一杯、ご奉仕させていただきます」


 イルティアは頬を桜色に染めて、恥じらいながら告げた。


「い、いや、ボクは女の子。女の子同士で結婚なんて、できないだろ! 女神様にも純潔を守るように言われているんだ! 

 そもそもボクは王になるつもりなんてないの!」

 

 ボクは後に下がりながら絶叫する。動揺のあまり、足を滑らして尻餅をついてしまった。


 イルティアの一連の言動に、聖騎士たちも唖然とする。


「と、とにかく! イルティア、命令だ! 今夜はもう大人しく寝ろ! みんなも解散だ! こんな夜更けまで騒いでいたら、近所迷惑だぞ!」


「はっ!」

 

 少女たちは全員、胸に手を当てて、了承の意を示した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る