第一章 高校バスケの始まり

第1話 主将との出会い

 



 俺、伊織英太郎(いおり えいたろう)は今、川島高校の門をくぐり、学校の敷地に足を踏み入れた。


 中庭にある校内案内図を見てから、バスケ部の体育館へと向かう。

 ここの高校にはそれぞれ1階建てのバスケ部専用の体育館とバレー部専用の体育館、2階建ての他の部活が使ったり全校集会を主に行う大体育館と、計3つの体育館が存在する。


 案外簡単に校内案内図を見つけられたのはラッキーだったな、と思いながらバスケ部専用体育館へと辿り着く。外から見るとかなり綺麗で、良く掃除がされていることが窺い知れる。


 なぜか体育館の鍵は空いていた。無用心な人もいるんだなと思いながら少し重い扉を開け、誰もいない早朝の体育館へ入る。


 体育館は非常に広く、メインコートが1つと、サブのコートが3つあり、昇降式のメインゴールが2つと、非可動式の据付ゴールが6つある。フロアもよく手入れされており、朝の日光が床に反射して光っている。観覧席も用意されていて、公式試合ができるようになっている。


 うろちょろしていると、体育館内で部室を見つけた。しかし、覗いてみようとしたがこちらは鍵がかかっていたので諦める。


 バッグを肩から下ろして、フロアを見回す。

 深呼吸をし、体育館の空気を肺いっぱいに取り込む。

 俺はこの空気が昔から好きだ。


 時刻は午前7時前。入学式にはまだ時間がある。

 受験勉強でなまった体を少しでも戻しておこうと考え、バッグからバッシュを取り出す。実に約半年ぶりのバッシュと体育館になる。ブレザーを脱ぎ、袖を捲る。


 バッシュの紐を結び終わると、もう一度深呼吸をして、これまたバッグからバスケットボールを取り出し、床に叩きつけるようにボールを弾ませ、走り始めた。


 手始めにレイアップシュート(ボールをゴールに置くように走りながら打つシュートの事。最も基本的なシュートとされる。)を放つ。ボールは綺麗にリングを通った。

 床に跳ねたボールを拾うと、次にミドルシュートを打つ。リングに触れず、スウィッシュで入る。


「結構入るもんだな……」


 俺は頭を掻きつつ呟いた。


 その時、体育館の扉が開いた。俺はビビって空いた扉を凝視する。

 現れたのは、川島高校バスケ部の主将、河田明人(かわだ あきと)だった。


 __________


 川島高校 背番号4番 河田明人 高校三年

 181cm 71kg ポジション パワーフォワード


 彼は、毎日自主的に朝練をしている。大体の部員はバスケ部全体での朝練が無い日も、体育館で練習をしている。今日は一年の入学式で、バスケ部は勧誘のために動くため、朝練は原則無しとなっていた。だが、彼は昨夜観たネットで紹介されていた、練習メニューに取り組みたかったため、少しだけだ、と考え、体育館へ向かうことにしたのだ。


 学校につき、バスケ部の体育館へ早足で歩く。

 その時、違和感に気づく。

 ドリブル音とバッシュのスキール音が鳴っているのだ。

(誰かいる……?今日は誰もいないはずだが……。あれ、俺鍵閉め忘れたかな……?)

 扉を開け、中を見ると、そこでは知らない奴がバスケをしていた。


 __________


 俺は入っていた時こそ驚いたが、強豪校の主将なので、テレビで目にすることもあり、顔は知っていた。そのため、すぐに落ち着き挨拶をした。


「お、おはようございます。河田主将ですよね? 僕は伊織英太郎です。新入生で、バスケ部入部希望です。よろしくお願いします。あと、勝手に体育館使ってすみません」


「ああ、体育館は別にいいよ。けど、なんで俺を知っている?」


 素直に答えることにする。

「去年のウィンターカップ観させてもらいましたので。3位、すごかったです」


「あれを観てたのか……。本当は優勝したかったんだがな……」

 心なしか、河田先輩の顔が引き攣っているように見える。


「ま、まあいい。改めて自己紹介をする。俺は河田明人。知っての通りここの高校のバスケ部の主将をやっている。よろしくな」


 挨拶からしてめっちゃいい人だなと俺は感じた。同時に、声も主将らしくはっきりしていて、威厳があって強そうだなと思った。ついでに言うと背も高いのでs少し威圧感もある。


バスケの実力は、試合を見ていたのである程度認知しているが、言動だけで「強そう」と感じる人間に出会うのは初めてだった。


「あー、せっかくだし、一緒にやるか、バスケ」

 河田先輩に誘われる。

「いいんですか……!? やります!」 


 その後、入学式の時間ギリギリになるまで一緒にバスケをした。だいぶ体が動くようになったなと感じていた。やはり河田先輩は上手かった。1on1なんてとてもじゃないが無理だと思った。


 また、俺はダンクシュートを初めて間近で見た。河田先輩の跳躍力は、近くで見るととんでもない迫力がある。河田先輩はパワーフォワードなので、リバウンド(外れたシュートを取ること)によく跳ぶが、どんなボールでも取ってしまいそうだ。公式戦で一緒にプレーできるか不安になってきたが、自分のロングレンジシュートにはかなり自信があるため、チーム内で勝ち上がっていこうと決意した。


 色々考えていると本当に時間ギリギリになってきたため、河田先輩と別れ、自分の教室へと慌てて向かう。クラスは事前に知らされている。なのでそこへ向かって一心不乱に急ぎ走る。


 結果、遅刻寸前となった。


 教室のドアを開けると、大勢から注目された。

 明らか変な目で見られていて、高校デビューは部活以外失敗だなと感じた。(部活も成功したわけではない)


「おい伊織、遅えぞ!」

 この声は中学から一緒の武田である。バスケ部員ではなかったが、仲が良く、良く一緒に遊ぶ。なぜかわざわざ志望校を俺に合わせて一緒に受験してくれた。

 一緒のクラスでよかったと思った。孤立せずに済む。

「伊織君? なぜそんな汗だくなのですか?」

 担任の教師に指摘された。なぜ俺の名前と顔が既に一致してるのか謎で、怖くなった。それから、担任の教師の俺への第一印象も最悪だと思った。


 ただし、一切朝に体育館でバスケをしたことは後悔していない。


 バスケ部専用体育館とは違う場所の、一般用体育館での入学式を終わらせ、自教室に戻り簡単なホームルームが終わる。


 仮入部期間は明日からだと告げられた。今日は帰って公園でバスケをするかと考えながら、続々と教室から出ていくクラスメートと共に教室を出ると、そこは部活動の勧誘を行う先輩たちの群れができていた。


 校舎から出て行くのも一苦労なほどで、先輩たちの執念を感じた。もちろんバスケ部の勧誘もすごかった。


 校門から出ようとする時、河田先輩に声をかけられた。

「お!伊織じゃないか。バスケ部には入ってくれるよな? ……あ、そうだ。明日も朝自主練するんだが、よかったらお前も来るか?」

「は、はいっ!行きます!」

「多分他の部員も来るがな」


 お、おおう……。マジデスカ……。

 めちゃくちゃ緊張する……。

 行くって言っちゃったじゃん。

 でも、強豪校の空気に触れられる!と考え、やる気に満ち溢れながら校門を出て、帰路についた。


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