第52話 正体

 喫茶店での出来事の後、田中みのりは怒って帰って行った。


「澤木さんがそんな人だったなんて、ひどいです!!」


 と言い残して。


 安藤先輩は、蒼い顔でふらふらと頼りない足取りで帰って行った。


「これは演技・・これは演技・・・」


 とブツブツ呟きながら。




 そして、いまは


 道場の真ん中で、半べそになって膝を抱えて座り込んでいるかおりを英一はなんとかなだめようとしている。


「なあ・・・あれは恋人の振りだってわかってるだろ・・・機嫌を直せよ」

「うう・・・・でも・・・でも・・・何にもなかったらキスなんかしない・・・」

「あれは、ひかるのいたずらだって。本気の訳ないだろ」

「でも・・・血がつながってないって・・」


 すでに、3時間・・・

 膝に顔をうずめたまま、かおりは英一を見ようとしない。


「ひかるとは何にもないって」


「・・・あんなかわいい女の子とずっと一緒で・・・そういう関係にならなかったって・・・信じられない・・」


「そんなことあるわけないって」

「なんでよ・・・」



 英一はため息をついて天井を見上げた。


「だってよ」

「だって・・・?」



 英一は、頬をポリポリと掻きながら言った。


「あいつ・・・ひかるは男だぜ。そんな関係になるかよ」



 かおりは、ようやく顔を上げて真っ赤に晴れた目を丸くしてポカンとした顔で英一を見て呆けた声を出した。


「ほえ?」




 


 

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