第5章 JKが社畜の部屋に上がり込む

第44話 第5部 プロローグ

「英ちゃん、待ってたよー。さぁ、帰りましょう!」

「あ・・・あぁ・・・」


 通用口から外に出るとかおりが待っていた。

 すでに時刻は夜の10時近く。


「女子高生がこんな遅くに出歩くんじゃない・・・」

「え?心配してくれるの?」


 ニコニコと笑顔のかおり。

 まぁ、普通の暴漢であればかおりの相手にはならないだろう。


「あぁ。武器を持っている奴もいるかもしれないからな。気を付けないと」

「はぁ~~い」

「おいおい、ちゃんと聞いてるのか?」

「さ!おばあちゃんが晩御飯作って待ってるよ。早く~!」


 英一は、ため息をついてかおりの自宅である道場に向かった。





 英一が合宿から帰って来てすぐに、仕事が忙しくなった。

 急な仕様変更が舞い込んできたため、職場中大騒ぎである。


 安藤先輩は、海に行けなくなったとぶつぶつと暗い目をしながらモニターをにらみつけながら猛スピードで仕事を処理している。

 眉間にしわを寄せたその姿は鬼気迫るものがあり、みな声を掛けられずにいた。


「澄子さん。いつもすみません、こんな遅い時間に」

「いえいえ、いいんですよ。たくさん食べてください」


 ニコニコと料理を出すかおりの祖母の澄子。

 英一の向かいには、むすっとした顔で勘治が晩酌をしている。


「英ちゃん、そんなに毎日遅くまで仕事していたらカロー死したりしない?」

「いや、前ほどじゃないから大丈夫」

「え・・・もっと忙しいって・・・マジ・・」

「あはは・・・マジだ」


 夕食を食べ終えた英一。

 手を合わせて、ごちそうさまと言う。


「さて、それでは帰りますね」

「え~?泊まって行けばいいのに」

「いや、帰らないと着替えも必要だから」

「え~~~」


 口をとがらせるかおり。

 すると、急ににっこりと笑って言った。


「もう、いっそのことうちに引っ越せば?部屋もあるし、こっちの方が職場に近いでしょ?」


 ぶふっ!!

 山本勘治はビールを噴出した。

 凶悪な顔で英一をにらみつける。


「いや、さすがにそういうわけにいかない」

「え~?どうして?」

「どうしても」


 英一は困ったように言う。

 だが、引越す気は全くないようである。



「それでは、お邪魔しました」

「いえいえ、また来てくださいね」

「英ちゃん、週末は練習につきあってね~!」


 澄子とかおりに見送られて、深夜に家路につく英一。

 まだ終電には間に合うだろう。


「英ちゃん、引越してくればいいのに」

「引越せない事情があるのでしょう。無理強いは良くないですよ」


 澄子にたしなめられるかおり。


「そういえば、英ちゃんって・・・どんな所に住んでるのかな・・・?」


 おそらくは独り暮らしであろう英一の自宅。

 興味が出てきたかおりは、ニヤッと笑みを浮かべた。

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