第49話 違い

「ちなみになんだが、お前のは厳密に言うと、回復能力が高いというわけじゃねぇ」

「え、それじゃ。なんなんですか?」

「お前のは回復能力じゃなくて、再生能力が備わってる。と、考えてもいいだろう。いや、むしろそっちの方がしっくりくる」


 回復能力と再生能力? 何が違うんだろう。


「回復能力は、俺達一般転生者達に備わっている能力」

「転生者は一般的ではないかと」

「そして、再生能力はお前みたいな。失ったものを元の状態に戻すことを出来るもの」


 またしても無視かい!! ひどいなぁ、いいんだけどさ。私は優しいから許してあげるんだ。


「お前は本当に学習能力が底辺だな……」

「え……、あ」


 幡羅さんは人の心が読めるんだったぁぁぁぁあああ!! これもう何回目だよ、本当に。学習してくれ……。


「もう、言うのも疲れたわ」

「なんか、すいません……」


 なんで私は謝っているんだろう。いや、私が悪いのか? 分からない。


「ひとまず、そういうことだ。俺の傷が普通より早く回復しているのは、転生者の特権を利用している。だから、無駄な心配するな」


 独特の「ニシシッ」という笑い方。それで話は締めくくられちゃった。でも、やっぱり元気がないように見える。


 体の傷が治ったのはわかったけど、でも、心の傷はどうなんですか。

 大事な仲間が一人死んでしまった。その事に、貴方は何を思っているんですか。


 私も、貴方みたいに人の心が読めたら、理解できるのでしょうか。


「やめておけ」

「え?」

「人の感情、思考は無限にある。同じ題材でも、様々な考えや想像がある。それをすべて読もうとすれば、おめぇの頭なら一瞬でパンクだ」

「そんなに、大変なんですか?」

「なれねぇ時は何度も吐いたぞ」

「そんなに!?」


 え、幡羅さんが吐く!? そんなにきついんだ。コントロールできたらいいんだろうけど、それもできないみたいだし。


 異能は自分に優位になるものだけじゃない。必ず何か代償がある。それは、仕方がないのかなぁ。


 力だけを手に入れてしまうと、こんな世界だ。人をちょっとしたことで恨んで、異能を使って殺してしまうかもしれない。そうならないためにこの世界には、バランスが存在するってことか。


「今はどうでもいい。それより、お前のもう一人についてだ」

「あ、はい。あの、どうして最近もう一人の私は入れ替わってくれないのでしょうか」

「さすがにそれは本人に聞かねぇとわからん。今できるのは、考え、予想する事だけ。だが、それをするにも情報が少なすぎる。何か他にねぇか? ほんの少しの違和感や、何か変わったこと。些細なことでもいいんだが」

「そんなこと言われても……」


 最近変わったことなんて……。特に、ないな。普通に怨呪退治したり、特訓したり。


「体調不良が気になり始めたのはいつ頃からだ?」

「えっと。肩こりなどが気になり始めたのが、獅子型の怨呪を茉季まつりさんと明神みょうじんさんが浄化してくれた時からかと」

「なるほどな。そん時、何か変わったものを見たとか。何かを見つけたとかはないか?」

「そんなこと……あ」


 確か、その時だっけ。首飾りを見つけたの。でも、首飾りぐらいでなにか変わるわけ……。いや、確か。私の首飾りに似たものを付けていた人が、やつれていたと。彰一が言っていたっけ。


「なるほどな。おめぇがつけている首飾りになにかあるのは間違いなさそうだ」

「私が声を出さなくても会話が成立するのって案外楽ですね」

「その首飾り、ちょっと見せてみろ」

「あ、はい」


 首飾りを幡羅さんに渡すと、まじまじと見始めた。見た目だけなら特に変わらない、普通の楕円状の首飾り。赤色の石が綺麗に光を反射して――……


「あ、あれ?」

「あ? どうした?」

「石が少し、黒ずんでる……?」


 おかしい。なんか、赤い石が半分ぐらい黒く濁ってる。こんな色じゃなかったはず。なんで、いつから?


「もともとこんなんじゃなかったのか?」

「違います。もっと綺麗で、輝いてました」

「そうか。これはどこでどのように手に入れた?」

「確か、石牙せきが村のお店です。一人のおばあちゃんがもうお店を閉めるからって。その首飾りをくれたんです」

「…………そのばばぁの印象はどんな感じだった」


 ばばぁって……。もう少し言葉使い気を付けた方がいいと思うのですが。


「えっと、大きなフードで顔の大半を隠し。目元も黒い布で隠していて、少し不気味な感じがしました。でも、なんか離れられなくて。それに、その首飾りも。なんかわからないんですけど、離すことができなくて。つい、もらってしまったんです」

「お前の警戒心のなさは置いとくとして。これは少し預かっててもいいか?」

「え、いいですけど……。どうするんですか?」

「ある奴に見てもらう」


 ある奴? それって一体誰なんだろう。妖裁級の誰かに見せるのかなぁ。


「あれ、立ち上がってどこに行くんですか?」

「早速見せに行くんだよ」

「え、え? 行動はやっ」


 誰の所に行くんだろう。私もこの後特に予定はないし、幡羅さんの後ろを付いていこう。

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