第24話 兄弟

「ん? あれ? なんで拳銃持っているんだい?」

「今の言葉、撤回してください」


 彰一の二丁ある拳銃のうち一つを借りて、京希さんの前に立ってしまった。


 だって、許せなかった。京夜さんと京希さんがどのような関係なんて知らないし、興味もない。でも、今の言葉だけは駄目だよ。

 家族にそんなことを言うなんて、ふざけるな。


「京希さん、私には兄弟がいません。なので、貴方達の関係がどうなのか。兄弟というものがどういう物なのか分かりません。ですが、今の言葉は、絶対に弟に向ける言葉ではない」


 この人は実の弟に──


『人を守ると言う心がお前の邪魔となる。お前の優しさは、人を殺す。昔のように、兄に従っていればいいんだよ。そうすれば、お前はもっと強くなる。考えるな、俺に抗うな。お前の意思、思考は必要ない。俺の、操り人形になれ。お前は、その為だけに生まれた、ただの人間人形だ』


 それを面と向かって言ってた。


 操り、人形。そんなこと、人に対して絶対に言ってはいけない。


 あぁ、なんだ。視界が歪む。思考が闇の中に入りそうになる。これ、もう一人の私が表に出ようとしている時の感覚と似てる。出してしまおうか。もう一人の私なら、この人を。


 殺してくれる──……


「おいクソガキどけ。これは俺達の話だ」


 っ! いや、落ち着け私。そんなことをしても意味は無い。もう一人の私、今は出てこないで。今は、話し合いの方がいい。だって、この人も私達と同じ隊士なんだから。


 京夜さんの声、今までと変わらない。怒ってもいなければ、悲しんでもいない。多分、言われ慣れているんだ。それはそれで、悲しいけど。


「……クソガキじゃないです。私は楽羅輪廻です。京夜さん」


 名前、しっかり呼んでよ。まったく……。いや、今は京夜さんより京希さんだ。

 おそらく、普通に話しても意味は無い。銃口を向け、牽制しながら話す。

 弾はしっかりと抜いているため、私の恨力である凍冷も使用可能だ。


 ────いつでも撃てる。


「シシッ、怖いねぇ。でも、俺はそこの役立たずより強いぞ。そいつに勝てないお前さんが、俺に勝てるわけないと思うけどなぁ?」


 赤色の双眸を私に向け、下唇を舐めながら刀を手に取った。余裕な笑みだな。

 勝てるわけないと体が訴えている、それでも、引くわけにはいかない。


「輪廻、どけ。お前には本当に関係の無い事だ。さっさと帰れ」

「嫌です、絶対に嫌だ」


 後ろにいる京夜さんは、私の返事を聞くと大きくため息を吐いてしまった。

 すいません。でも、本当に許せなかったんですよ。


「お前に勝てる相手じゃねぇよ。俺に負けてるお前に、あいつは倒せない。いいからどけ」

「いやです、絶対に嫌」


 どんなに言われても、私はこの人を許さない。京夜さんがなんと言っても。


「すいません。輪廻一人が駄目なのなら、僕も一緒ならどうですか? 優位になるとは思いませんが、少しは力になると思いますよ」


 彰一? もしかして、私に加勢してくれるの? 下に降りてきて、残りの拳銃を右手に持ってる。


「若いっていいねぇ。そう思わないかい、京夜」

「めんどくせぇだけだろ」

「それにも同感するよ。だから、すぐに終わらせようか」


 すぐになんて、終わらせなっ――……


「っ! 輪廻!!!」





 ――――…………。






 な、なにが起きたの……? いつの間に、幡羅さんが私の前に立ってる。


「は、幡羅さん……?」


 な、にが。なんで、幡羅さんの横腹に京希さんの刀が刺さってんの? 


「ぐっ……」

「やっぱり、甘いねぇ。その甘さを捨てなければ、今みたいにやられてしまうよ? 京夜」


 急所は外れてる。でも、血が……。


「う、るせぇよ。おめぇみてぇに、人を、簡単に殺せる人間になんて、死んでもごめんだ!!」


 幡羅さん。もしかして、私をかばって……。


「そうかい。なら、本当に、死んでみるかい?」

「っ!!」


 え、まっ――……


「がは!!」


 京希さん、何を考えてんの!? 怪我している幡羅さんのお腹に膝蹴りなんて。


「まだ多分、わからないよねぇ。お前自身のその、弱さ」


 ちょ……待って。


 刀を地面に投げ捨てて、お腹、顔面に膝蹴り。それだけじゃなくて、髪を引っ張って無理やり顔をあげさせ、拳で殴るなんて。

 幡羅さんも何とか防いでるけど、意味をなしてない。サンドバック状態。


「お前は弱い。だから、こうなっているんだよ。まぁ、体格に恵まれなかったというのもあるけどねぇ。今のままだと、いずれ死ぬ。お前のような弱者は、ただ強いものに従っていればいいんだよ。昔は従順だったんだ、出来ない訳では無いだろう?」


 ────もう、我慢できない。


「っ、おい!! 待て、輪廻!!」


 ごめん、彰一。もう、止められない。


「やめろぉぉぉぉぉおおお!!!」

「っ、お前さんは……」

「な、にして……」


 くそ。思いっきり腰に突っ込んだのに微動だにしないのかよ。少しくらいぶれてくれてもいいじゃん!!


 やめて、もうやめて。実の兄弟でそんなことしないでよ。せっかくの家族なのに。お互い、大事な家族なのに!!!


「俺に抱き着いて来るなんてねぇ……」

「っ、おい。とっとと、ごほっ。そ、いつから、離れろ!! お前には、何もできねぇよ!!」


 幡羅さん、やっぱり貴方は、優しい人だ。

 どんなに攻撃されても防ぐだけで、反撃をしようとしない。それだけじゃなくて、私の心配までする。


 ごめんなさい、ごめんなさい。酷い事沢山言ってしまった。貴方は気にしないと思うけど。それでも、ごめんなさい。


「やめて……、お願いします。幡羅さんにもう、酷いことを、しないでください。もう、やめて……」


 お願いだから、これ以上無駄な血を流さないで。


「…………はぁ。仕方がないねぇ」

「えっ……」


 あ、京希さんが幡羅さんを地面におと……すんかい!! 優しく下ろしてあげてよ!! 怪我してんだからさ!!


「こんなに必死に言われてしまえば、こちらもやめるしかないからねぇ。それより、今はどっちの人格なんだい?」

「えっ、どっちって?」

「輪廻、お前……目の色、左右非対称になってんぞ……」


 ……え。彰一、何を言って……。

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