第17話 殺し合い
「よーいスタート」
いきなりかい!! それに全くやる気が感じられない?!
「あ、しまった。どこに──」
始まりと同時に幡羅さんが姿を消した。どこだ、どこにいる。
「――あ」
竹刀の、
「ニシシ、やっぱり出てきたな。やはり、傷付けたくはないってことか? 怨呪野郎」
「残念だけど俺は野郎じゃねぇ。性別なんて存在しねぇわ」
まったく、世話かけさせやがるな輪廻。俺が咄嗟に出てこなければ気絶させられてただろうが。俺が寝てなくてよかったな、おかげで何が起きてんのかもわかる。
つーか、この竹刀、硬すぎねぇか? 下から上に刀を振り上げて切ってやろうとしてんのに、ギリギリと竹刀と刀が押し合いになるのみなんだが。
いや、押し合いなら俺の方が上のはずだ。体格的に。
「こんのっ!!!!」
力任せに上へと刀を振り上げると、簡単に押し返す事が出来た。が、思ったより軽い。思わず前のめりになって膝をついちまったわ。
京夜は押し返された勢いのまま、空中で体を縦回転させ上手く着地しやがったクソが。そのまま足を挫いたりしろよ。いや、あんなに軽いわけがねぇか。自分で後ろに跳びやがったな。
「怨呪にしてはなよなよだなぁ。直ぐに浄化できそうだ、ニシシ」
「表に出たばかりで上手く体を操ることが出来ないだけだ」
人を苛立たせる天才かよこいつ。とりあえず立ち上がらねぇとすぐに動けねぇし、刀を構えるか。
つっても、刀の使い方なんか全く知らねぇんだが、振り回していれば当たるか? 数打ち当たるでいくか? 無理だな。こっちがやられてゲームセットだ。
「お前、刀使いじゃないだろ。得意な武器を使っていいぞ」
「お、まじか。なら、お言葉に甘えて」
京夜がそう言ったので、では遠慮なくと。刀を壁にポイッと投げ、彰一の元に。
今は女二人が手当てしているみてぇだが、俺には関係ねぇわ。
「借りるぞー」
彰一の拳銃はしっかりと手入れされてっから使いやすいんだよなぁ。えっと、中に弾は──入ってんな。ちっ、出すか。
カラン……コロン……
床に拳銃の弾を落として準備完了。さっきの所に戻るか。
あぁ? なんか。後ろの二人から何かを訴えるような視線を感じるが、まぁ。無視だ無視。無視が一番だ。
「人の物を勝手に借りて弾を抜き取る、僕は実物を見た事ないから分からなかったけれど、もしかして報告書は本当だったのかな?」
「知らないわよぉ〜。見ていれば分かるんじゃない??」
女二人の会話が聞こえるが、無視していい内容だな。とりあえず、京夜の前に立っていつでも動けるように準備準備。
「…………」
な、なんだよ、なんか、無言で京夜が俺を見てくるんだが……。きもちわりいな。
…………あいつが妖裁級、幡羅京夜。気配だけでもわかる。普通に強そうだな、勝てる気しねぇわ。だが、倒せねぇ奴なんて存在しないはず。必ず弱点はあるだろ、そこを見つけることが出来れば──
「なるほどなぁ〜。お前も銃使いか」
「あ? 人が考えている時に……。あぁ、そうだ。ただ、これと刀しか扱ったことがねぇから、とりあえずこっちの方が扱いやすいってだけだ」
そういや、こいつ。彰一の弾に一回もかすってなかったんだっけか。どうやって当てるか。動きを封じ込めようとしても、それ以前にやられそうだし。かといって、数うち当たるも無謀だろうな。
あれ? あいつには、どうやって勝てばいいんだ? まぁ、考えても仕方がねぇし。やるか。
グリップはしっかりと手になじんできたし、右手で持って銃口を京夜に向けてやる。
絶対に外さない──とは言いきれねぇが少しは掠めたい。こいつは強い。油断してしまえば直ぐに殺られるな。
「すぅ、ふぅ」
息をゆっくり吐き、意識を集中。
「油断しないんだなぁ〜。良かった良かった」
京夜も楽しそうに笑い、竹刀を構えた。
体がちいせぇからでかく見えんな、竹刀が。
「梓忌、言え」
第二ラウンドってやつか。さっきのはバッサリなかったことにしやがったな。どうでもいいが。
「…………よーい、スタート」
っ、またしても姿を消した――いや、消えたように見えただけか。
「こっちだろ」
咄嗟に後ろを振り返り銃を向けると、思った通り京夜は空中で竹刀を片手で持ち、胸あたりで水平に構えてやがる。
反対側の手は袖で隠れてるから見えねぇが、関係ねぇな。
「もらった!!」
京夜の頭に狙いを定め、引き金を引いた。
────バンッバンッ
あた――るわけねぇよな、やっぱりよぉ。
「ニシシ。甘い甘い」
どうやって俺の弾をよけやがった。
距離はそんなに離れていなかったはずだし、京夜は空中にいたはず。
いや、待てよ。動きが明らかに変だった。
空中にいたはずのあいつは、俺が発砲したのと同時に竹刀を握っていなかった左手をかすかに動かしていたように見えた。その直後に、京夜の体は急に空中で一瞬止まり、地面に沈んだ。何かを引っ張ったのか? でも、何を。
「戦闘中に考え事とは、ずいぶん余裕だな」
「がっ!!」
しまった。俺が考え込んでいるうちに後ろに回っていたのかよ。くそっ、頭を狙いやがって。思いっきり竹刀で俺の後頭部殴りやがったなこのクソチビ。血が出てんじゃねぇかふざけんな。
「あぁ? これで普通は気絶するはずなのに。やっぱり怨呪なんだな、お前」
竹刀を肩に担ぎ不思議そうに首を傾げてやがる。おい、俺を怨呪と呼ぶな。
「にゃろ。俺を怨呪と呼ぶな。人間ではない何かと呼べ」
「なげぇーわ」
むかつくが、こんな傷ならすぐに治せる。片膝をつきながら、両手で拳銃のグリップを握り京夜に向かって引き金をひいてやる。
――バンバン
「あめぇよ、クソガキ」
くそっ!! 全て見切ってんのかよ。かすりもせず余裕ですべて避けられる。
落ち着け、頭に血を昇らせんな。冷静にあいつを見切らねぇと。
あいつの戦い方は速さを生かした戦闘。体がちいせぇから敵からすれば狙いが定めにくい。それに加え、前髪で隠れているくせに目は良いらしく、弾の動きや、おそらく俺の予備動作まで見て動いてるな。
「拳銃使い殺しかよ」
「褒め言葉をどーもでーす」
「あっ?! 今度は上かよ!!」
バン バン バン
「ニシシ」
「腹が立つなくそが!!」
また避けやがった!! しかも今回は何かを掴んだような動きだったな。
何かを蹴り、体を立て回転させ避けたように見えたんだが。何を足場にしてやがんだよ。
……そういえばあの袖。ちいせぇからサイズが合う軍服が無かったとかではなく、わざとか? その場合、何かを隠すのには最適なんじゃっ──……
「氷だろうけど、弾である事は変わりねぇし。当たるとどっちにしろ痛いだろうな。やだやだ〜、ニシシ」
余裕の笑みを浮かべる京夜には殺意しか浮かばない。
殺してぇ〜……。あの口を引き裂いて、ムカつく腕をチョン斬りたい。無理だけど。
ん? なんだ。左手から何か、出てる? されが、反射して光ってるのか?
「傷は直ぐに治るんだな」
「っ!!」
いきなり目の前までっ!!
「ぐっ」
「ニシシ。怨呪だったらこれくらい回復しろ。いや、普通の怨呪は回復能力がないんだったな」
くそっ! お腹に竹刀が思いっきり刺さっちまった──って。いやいやいや!! 竹刀にそんな殺傷力あるわけねぇだろうが。どうなって……。
「うわ、せっこ」
こいつの竹刀、刃を隠してやがったな。通りでこんなに深々──というか突き抜けてるからな。
あぁ、だから最初。切ってやろうとしても無理だったのかよ。
刺さっている部分から血がぽたぽたと流れやがる。
いや、どんだけ体内の血を流しているんだよ、俺。鉄分不足にならないよなこれ。まぁ、その場合輪廻が困るだけか。
「結構余裕そうじゃん。どうなってんだお前」
「さぁな、俺にもわかんねぇわ」
俺に突き刺さっている竹刀を抜こうと掴み、ググッと力を入れたが──
「おい、離せ」
「こ、と、わ、る」
うざっ!!!! ならいいわ。この竹刀ごと折ってやる。
あ? なんだ? なんでこのタイミングで左手を動かしっ――
「ニシシ、終わりだな」
「ぐっ!! がはっ」
また力を入れやがった。くそ、口の中が鉄くせぇ。
口からも血が溢れ出てくる。気持ちわりぃ、呼吸がしにくい。俺でも窒息死ってあんのかな。試したくねぇけど。
「これでも死なない。ニシ、どうすれば死ぬんだよ!!」
「やっ、やめ──ガハッ」
どんだけ押してきやがる。どんどん押され、痛みは無いが血は溢れ出てくる。匂いがきつい!!! 生臭い。息が──
「生きたければ、死ぬ方法を教えろよ!!」
殺意MAXで竹刀を押す京夜。いや、生きたいなら素直に生きたい方法を口にするわ!!
死ぬ方法教えるわけねぇだろばーかばーか!! 俺でも知らねぇし!!!
つーか、マジでヤバイ。息がしにくくて意識が……。
「ここまでにしようか、京夜」
なんだ、誰の声だ。視界が薄くなってきてっからわかんねぇ。
ガシャン
あ? 刃が仕込まれていたはずの竹刀が、折れた?
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