第20話 どうしても気になること

「あ、闇也、起きてる?」

「起きてねーよ……」


 久々に牛さんとゲームをして、人と関わる気分を味わった翌日。


 俺が起きるか起きないかという昼のギリギリのタイミングで、風無は部屋にやってきた。


 鍵を開けると、特にパソコンも何も持ってない状態で風無は部屋に入ってくる。

 最近、風無はこの時間帯に意味もなくやってくることが多い。


「なんだ最近の早い時間に来る流れは……嫌がらせかよ」

「いや、だって、来てたことすみれに知られたら大変だし」

「不倫かよ」


 別にその妹は夫でも何でもないんだからいいだろ。

 そもそも今日の場合は俺のところに来る必要もなさそうだけど。


「で……今日は何の用だ」

「え? バイトないから来ただけ」

「めっちゃ暇人じゃん」


 そんな理由で俺の睡眠って邪魔されんの?

 というか。


「……そういえば、風無ってバイトしてたんだな」

「えぇ……? 今更ぁ……?」


 八坂がただの帰宅部の女子高生なのは知ってたけど、風無もただのニートだと思ってた。


「金足りないのか? こんなところに住んでしまったばっかりに」

「いや、別に極貧生活してるわけじゃないけど! 世間体的に困るでしょ……大学も行ってないのに、何もしてなかったら」

「Vtuberで稼いでるって言えば」

「言えない人もいるでしょ!」

「ふーん」


 人付き合いがある奴は大変だな。


「逆に……闇也が大丈夫なのが不思議なんだけど」

「俺の場合Vtuberやってるって言えない相手がいない。金も今は足りてる。外に出る必要がない」

「……少しだけ羨ましいかも」

「風無もやろうと思えばできるだろ」


 同じ事務所なんだから。友達全員に『さようなら』ってメッセージ送れば世間体とか気にせずできるだろ。


 まあ、普通の会社と違って自分の人気が何年持つかわからないし……普通の人はやらないだろうけど。


「……あー。チャンネル登録者1000万人ほしー」

「なにどうしたの急に……」

「そうすれば確実に一生働かずに生きられる」


 1000万人もいたらその中に石油王が一人くらいいるだろうし。

 もし何十年か後にYoutubeがなくなってもその人に養ってもらえる。


「最近、牛さんに言われたんだよ……俺がコラボで伸びてるって」

「ああ、なに……一応真面目な話になるんだ」

「実際八坂と案件やってから登録者の伸びはいいんだけどさ……それでコラボばっかやって人気伸ばしたいかっていうと、どうなんだろうなって」

「まあ……闇也はソロ配信も人気だしね」

「コラボやって人気を伸ばしたところで俺の寿命は縮む気がするんだよな」

「あ、そういう話……?」


 もしそれで俺の生活が安泰になるならやるべきなんだろうけど、人見知りが頑張ってコラボして人気が伸びたところで、ストレスで寿命は縮んでいくと思うんだよ。


 人気を手にして早死にするか、細々とやって長く生きるか……。


「っていうか……闇也にも、人気伸ばすとか考えることあったんだ」

「……失礼だな。俺なんて毎日どうしたら何もせずに生きられるのか考えてるってのに」

「ああ、考え方の根本から引きこもりなんだ……」


 俺だってこの生活がずっと続くと信じ込みたかったけど、八坂みたいなトラブルは人生に付き物だと学んだ。


 それがなくても、Vtuberなんて次々新しい人がデビューして、人気が移り変わっていくものだし。

 贅沢を言えば一生一人で配信して生きてたいけど、それで人気が落ちるかもしれないなら俺だって考える。


「大体、風無もいつまでVtuber続けられるかわからないから、バイトして金貯めてるところもあるんだろ」

「え、私は……そこまで考えてないけど」

「風無……?」


 あれ……? 風無って俺より真面目なキャラだと思ってたんだけどな……?


 今思えば、風無より八坂の方がよっぽど真面目だし、一見一番しっかりしてるように見えた風無が一番ポンコツだって可能性も……?


「でも、なんだかんだ言って風無はわりとコラボしてるだろ」

「ああ、それはまあ、楽しいからね」

「コラボビッチが」

「コラボビッチってなに!?」


 てっきり考えての行動だと思ってたのにコラボまで大して何も考えてなかったし。

 思った以上に風無って何も考えないタイプだったんだな。初めて知った。


 今思えば、俺の部屋に遊びに来た理由もポンコツっぽかったしな。


「……いや、元々ポンコツだったか」

「ポンコツってなに!? コラボビッチは!?」


 デビューしても配信できなくて最初から困ってたし。

 俺が勝手に、俺よりはしっかりしてると思い込んでただけか。


 ただ、そういう奴だから、俺も何も考えずに風無とは喋れてる可能性もあるな。

 人間って不思議。


「だから……牛さんは風無に間に入ってもらえばスムーズにコラボでもできるんじゃねーかって言ってたんだけど」

「えぇ……? 普通に話戻るの……?」

「その場合、風無の知り合いとコラボすることになるだろうから、って……――」

「…………? 闇也?」


 そこで急に、牛さんが昨日話していたことを思い出した俺は、当たり前のように俺の部屋の中に座る風無の顔を見る。


「え、ど、どうしたの?」


 そういえば、俺とこいつって普通に仲良いな。本名も知らないけど。


 通話とかならともかく、風無以外が相手だったら、同じ空間でここまで気軽に、支離滅裂な会話も気にせず喋ってないだろうし。


 昨日、牛さんの『どう思っているんだい?』って質問には、『同期のゲーム仲間』って答えたけど、今思うと、ただのゲーム仲間よりは、俺と風無は仲が良い気がする。


 にしては、俺は風無のことを何も知らないけど。


 バイトしてることすら忘れてたし。

 相手が接してくるなら話してやってもいいって王様みたいなスタンスだったし。


 ただ、もし、俺の人気のためにコラボ関係のことに利用されてくれと風無に頼むなら、もう少し俺は風無に興味を持った方がいいような気がしなくもない。


 風無に愛想尽かされたら、俺はコラボすらできないわけだし。最低でも喧嘩はしないようにしないとな。


 それはそれとして。


「…………ああ、風無」

「え、なに?」

「今俺がどうしても気になることが一つあるんだけど、配信内だと聞きにくいから今聞いていいか?」

「え、私のこと? なになに?」


 そこで何故か少し嬉しそうな顔をする風無。

 そんな風無に対して、俺は昨日からずっと気になっていたことを口にした。


「風無って彼氏いんの?」


「…………へっ?」

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