第2話 序幕② 素朴で小さな村にて

時刻は夕方。

今日のニースの仕事は午前中にパン屋のおばさんのぎっくり腰を治しに行き、帰り道で男性の家に立ち寄り風邪を治した。

帰路の途中、その他諸々、声をかけられ、やっと家に着いたと思った…途端、近所のおばさんから紹介したい女性がいると言われる。

苦笑いをしながら断り、どうにか彼女を追い払うことに成功した。


外に出るだけで色々な人から頼りにされることは良いことだが、面倒事もついでに現れる。同時に、この小さな村でニースの存在感は日に日に強まっていく。この村にニースは必要なのだ。


「今日も昼飯食えなかったわ。」


体をぐったりとさせながら、自分で作った診療所の机に頭を乗せる。

硬くなってしまったパンが頭にコツンとあたった。


「と言っても…食わなくても生きてはいけるんだけど。」


パンが入ったままの紙袋をガッと掴むと、ニースは大きな口を開けて袋ごと飲み込もうとする。

刹那、ニースの喉奥からグワっと大きな口を開けた蛇が飛び出してきてパンの袋に噛み付いた。

一口でそれを飲み込むと、蛇は一瞬でキースの喉奥へと戻っていった。


『まずい』


と、一言キースの脳内に声が響き渡る。

どうやら先ほどの蛇の声のようだ。


「悪かったね。…これから、狩りに行くから待ってろよ。」


数秒の間、緑に光るキースの瞳が赤く光った気がした。獲物の動きを鈍らせるほどの殺気を放った瞳は落陽と共に消えていった。夜の帳が下りたら彼は人知れず森へ消えて行くのだろう。

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