第4話 決戦

 俺の決意をあざ笑うかのように、ラノは何度もニスタに殺され続けた。


 彼女の微笑みと温もりに包まれ、俺の意識は途切れ、ニスタの声で追放会議の場へと戻る。


 ある時は、全てを話し、ニスタたちを止めようとした。

 ある時は、ラノ殺害の元凶であるニスタを殺そうとした。


 でも、全て失敗した。


 追放会議の場に戻ってニスタの顔を見るたびに、奴に対する憎しみを強め、今度こそはラノを救う、と心に誓う。


(あいつさえいなければ……)


 憎しみは、俺の目つきを変えた。

 ループした数を数えるのは、とっくの昔にやめた。


 呪われたニスタは、俺たちがどこにいても必ず目の前に現れた。転移先にラノ個人を指定しているためで、逃れる術はない。


 それに、狂人化したニスタの力は凄く、俺ごときの剣術では太刀打ちできなかった。

 

 悩んだ末、一つの方法を思いついた。


 ニスタが魔王の呪いにかかることで、結果的にラノが死ぬ。それなら魔王討伐の際、奴が呪いを受けないよう俺が守ればいいのではないか? と。


 あんな奴を守るなど反吐が出るが、仕方ない。


 俺はラノには内緒で、魔王討伐に向かう《エスペランサ》の後をつけることにした。 


 魔王との決戦の地。

 そこで俺が目にしたのは、魔王と戦う皆の姿だった。


 彼らは果敢に魔王に立ち向かっていく。


 仲間が守るのは、魔術師メッゾ。

 あの女が使う魔法が、魔王を倒す切札だからだ。


 メッゾが杖を構え、詠唱を始めると、《エスペランサ》の仲間たちの頭上に魔法陣が浮き上がった。


 次の瞬間、俺は目を瞠った。


(《エスペランサ》の皆が、倒れていく!)


 しかしそれ以上の疑問を抱く暇も与えず、メッゾは杖を掲げると、閃光が俺の目を潰し、あたり一面に爆音と爆風が吹き荒れた。


 物凄い力の塊が、魔王にぶつけられたのだ。


 目を開くと魔王の姿はなく、黒い肉片らしき物体が辺り一面に飛び散っていた。

 

(これが、メッゾのみが使える究極魔法か! 確か、自分や他人の命と引き換えに、強大な破壊を呼ぶ魔法だったはず。《エスペランサ》の命と引き換えに、魔王を倒したってことか⁉)


 しかしその命には、メッゾ自身の物も含まれていた。


 崩れ落ちる女魔術師に駆け寄る影があった。


 ニスタだ。

 魔法の餌食にならなかったらしい。


 奴はメッゾの上半身を抱き上げると、項垂うなだれた。そして彼女の体を横たえると、今度はメッゾの魔法の犠牲となった仲間たちの遺体に向かい、俯いた。

 

 その後ろ姿は、俺を理不尽に追放したニスタとは同一人物なのかと疑ってしまうほど、深い悲しみに沈んでいるように思えた。


 奴への憎しみが、一瞬揺らぐほどに。


 その時、後ろで砂利が鳴る音がした。

 反射的に近くにあった石を腰のポーチに入れ、振りかえる。いざというとき、石礫を食らわせるためだ。


 そこにいたのは、


「アルト! あなた、一体ここで何をしているの⁉」


 怒りで眉を吊り上げるラノの姿だった。

 どうやら俺がいないことに気づき、転移魔法で跳んで来たらしい。


 彼女の姿を見た瞬間、ニスタのことなど頭から吹き飛んだ。細い両肩を掴み、興奮気味に言葉をかける。


「ラノ! ついさっき《エスペランサ》が魔王を倒した! お前、今度こそ死ななくて済むぞ!」


「え? わ、私が死ぬ?」


 ラノが心配そうにこちらを見ている。物凄く困惑しているようだ。


 でもそんなことどうでもいい。


 ラノが死なないなら、頭がおかしくなったと思われても――


「アルト、ラノ……」


 心臓が跳ね上がる。

 頭の中が真っ白になる。


 ありえない状況でパニックに陥ったの俺が視界に映すのは、呪いにかかったニスタ。


「う、嘘だろ……?」


 魔王は倒され、ニスタは呪いにかからなかったはず!

 それなのに……


 ニスタが動く。

 俺が動く。


 そして、


 ラノの鮮血が飛び散った―― 

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