第6話 動き出す運命

例の事件から2週間が経過した。東京都内での通り魔事件としてテレビなどでかなり話題になっていたが2週間も経ち、もう噂をする人もほとんどいない。


「あーもうすぐ退院か、長かったなぁ」


怪我も完治し明日ようやく退院出来る。しかし通院中は本当に暇だった、最初の頃は少し身体を動かすだけで全身に激痛が走り何も出来なかった。


『あれだけ無茶すればしょうがないですよ』

『痛みの原因の半分はお前から貰ったんだけどな』

『お、随分『念話』が上手くなりましたね』


(・・・・・・話逸らしたな)


暇なこの2週間で俺は『念話』をルナに教えて貰った。

ルナと普通に話すと、俺が1人で喋っているやばい奴みたいになるから『念話』を習得した。

ルナの言葉を直接脳に送る『念話』とは違って、俺が覚えた『念話』は伝えたい事を頭に思い浮かべて、それをルナに読み取ってもらうというだけなので習得するのはそこまで難しくなかった。


「暇だしゲームでもするかね」


俺は暇つぶしするためにスマホを取り出した。





現在の時刻は午後の3時を回った所、スマホゲームにも飽きてルナも寝てしまって本当にやる事が無くなった。

まぁルナは寝てる訳では無く俺の脳処理を手伝ってくれてるんだけど(どの様な事をしてるかは詳しくは知らない。魔力でどうたらこうたらするってのは聞いたけど)


(俺も昼寝でもするかね)


俺はあくびをして身体を横にしようとしたその時、トントンと扉をノックする音が聞こえて来る。


(看護師さんかな?)


「はーい」


俺がそう返事をすると見覚えの無い5人の男女が病室に入って来る。

ザ・ボディーガードって感じの黒いスーツでサングラスを付けたガタイの良い男性が3人と、黒スーツを着崩している細身の男性、そしてその4人に守られている二十代前半と思われる女性だった。


「初めまして黒木 相真君ですね」

「えーと・・・・・・まぁ初めまして?」


女性が笑顔で挨拶してくれる。初めましてって事はどうやら俺がこの人達と知り合いで忘れている訳ではないらしい。


「あの、どなた様ですか?」

「我々はこういうものです」


女性はそう言って名刺を渡してくれる。


国立東京軍事高等学校 

     校長 風間 真美かざま まみ


「はぁ・・・・・・そうですか」


(軍事高等学校って随分と物騒な事書いてあるんだが)


「えーと・・・・・・それで俺に何か御用ですか?」

「ええ・・・・・・単刀直入に言うと貴方をスカウトしに来ました」

「スカウト?どういう事ですか?」

「その名刺にも書いてある通り私達は国立東京軍事高等学校という所こら来ました。この学校では兵隊になり得る人間を養成する学校です」

「・・・・・・は?兵隊を養成?ちょっと意味分からないんですが」


いきなり物騒である事しか分からない話をされ混乱して来る。

ていうか最近一般常識が通用しない話が多すぎだろ。


「黒木君なら分かっていると思いますが、この世界には能力や魔力というものが存在します。それは言わなくても分かってますよね」

「いや、何のことだかさっぱりです」


(能力とか魔力を知ってるってことは一般人じゃ無さそうだな、鎌かけてるかもしれないし知らないフリしとくか)


能力と魔力を知っている事には驚いたが、そもそも国立東京軍事高等学校とかいうヤバそうな組織から来ている時点で今更か。

取り敢えず「能力とかのことは他人には言うな」とルナに言われているので黙っておく。


「隠さなくても良いんですよ、君が能力者だという事は分かってますから」

「いやマジで何のことですか?俺は普通の中学生ですよ」


とは言ったがどうやらバレてるようだ、そういやもう4月だし俺はもう中学生じゃなかった。


「とことん認めませんか・・・・・・まぁ知らない人に能力者だと教えないのは正しい判断です。でも今回は嘘をつく必要はありませんよ、2週間前の通り魔事件で君が心臓を刺されてなお生きていることも、身体能力を強化した犯人を殴って気絶させたことも調べがついますからね」


そう話す女性がニヤッと笑う。流石にこれ以上知らないでは通せそうに無さそうだなぁ。


『随分と悩んでますね相真君』

『起きたのかルナ』

『そもそも寝てはいませんよ。というかいつでも君に助け船を出す事は出来ましたよ。つい親心で頑張ってる相真君を見守ってしまいましたけどね』

『いや、そこはすぐに助けてくれよ』


『念話』によるルナとの高速会話、まぁ俺はルナみたいに魔力による脳処理の高速化は出来ないのでそこまで速くは無いけど。


『それでルナ、どうすれば良い?』

『もう認めちゃって良いんじゃないですか。今のところ敵意は感じませんし』

『りょーかい』


「ああ、そうですよ。貴女の言う通り俺は能力者ですよ。と言ってもつい先日なったばっかりですけど」

「やっと認めてくれましたね。はぁ、これでやっと本題に入れます」


俺がルナに言われた通り能力者だと認めると、女性は一瞬だけ疲れたという表情を浮かべるがすぐにさっきまでの不適な笑みに戻り、


「さっきも言いましたが、我々の所属する「軍事高等学校」通称「軍校」では魔力が高い子や才能のある子をスカウトしているんです。その中には当然君のような能力者も含まれます」

「何のためにそんな事?」

「この国を守る人間を養成する為ですかね。日本が平和主義を掲げているのはあくまで表向きだけです。実際は他国と同じくらい武力を使用しています。まぁこれは後々教わるでしょうから省きますね。で、その武力を使ってこの国を守ることが出来る人間を育てるのが軍校だからです」


なるほど、つまり将来の兵隊を育てる学校ってことか。


「で、そんな学校の校長先生が俺なんかに何の用ですか?」

俺の問いに女性は強い眼差しで俺を見つめ、

「黒木君、君には軍校に入学して欲しいんですしたいんです」


そう言って俺の事をスカウトした。

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