第2話 死

目の前に広がる光景に思わず目を疑う、黒フードの男の手に握られている刃渡り30cm程のサバイバルナイフ、

それはまさしく悪夢ー現実だとは到底思うことの出来ない光景。

そんな事を呆然としながら考えていた時、更なる光景が目に飛び込んで来る。


「・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」


男は3メートル程離れた所立っていた高校生位の少女の腹部を刺した。少女は小さい声を漏らしてその場で倒れる。

迫り来る死の気配、その恐怖に思考は現実に引き戻される。


(マジか・・・・・・通り魔?・・・・・・どうすればいいんだ?逃げるか、逃げきれるのか?)


どうすれば良いのか必死に思考していたその時、男がこちらに向かって走って来るのが見える、その男の視線の先にはーー


「ッ!!結梨ッ!!」


俺は呆然と立ち尽くしている結梨を押し飛ばす、次の瞬間ーー


「ウッ!!」


右肩をナイフがかすめ、鮮血が飛ぶと同時に右腕に痛みが走る。


「相真!!大丈夫!?」

「ああ、かすっただけだ」


俺は心配そうに叫ぶ結梨に苦笑しながらそう答える。


「おいおい俺はその娘を刺したいんだよ。だから邪魔しないでくれないかなぁ〜」


男はなんとも軽い口振りでそんな事を言って来る。


「結梨、俺があの男を引きつけるから朱音を連れて逃げろ」

「そんな事出来るわけないでしょ!」


俺は後ろにいる結梨に向かって小声でそう言うと、結梨は怒った様な口調で睨みながらそう答える、しかしその瞳からは怯えているというのが確かに感じられた。


「いいから逃げろ!この中で1番喧嘩強いのは俺だろ?」

「そういう問題じゃ・・・・・・」

「朱音!結梨と一緒に逃げろ!」

「ッ!?ああ分かったよ!」


俺の言いたい事が通じたらしく、朱音は苦い顔をしながらも俺の指示に従ってくれた。


「だからさ〜邪魔するんじゃねえよッ!」

「クッ!!」


一瞬で距離を詰てきた男によるナイフの一撃を、さっき買ったバッグでが咄嗟にガードするが、予想より遥かに強い男の筋力に押し倒される。


「うぐっ・・・・・・とっとと逃げろー!!!こちとら体力ねーんだからよ!!!」


俺は倒されながらも2人にそう叫ぶ。


「今の内だ!逃げるぞ結梨!」

「相真を置いて行くなんて出来ない!」

「ここで私達が死んだら相真君が命張った意味ないだろ!」

「それは・・・・・・確かに・・・・・・」

「行くぞ・・・・・・」


(行った・・・・・・か、後は出来るだけ時間稼ぎするだけだな)


俺は2人が逃げたのを確認するとバッグを持つ腕に一層力を入れる。


「やるねぇ!お友達の為にここまでするなんて」

「あいつらは死んでも守りたいんでね・・・・・・偶にはカッコつけてもいいだろッ!!!」


俺は男に右手でボディーブローをかますがしかしー


「カッコイイねぇ〜、でも今の俺にはそんな攻撃きかなくてね〜」


俺の本気の一撃は受け止められるまでも無く男の身体に当たり虚しくも止まる。


(あー、やっぱダメかぁ)


俺の悔しんでいるのも束の間ーー


「じゃあ・・・・・・死になよ」


男による死の宣告に全身が強張る、しかしそんな事は関係無いと言うかの様に、非情にも死の刃が俺の身体を貫く。


「・・・・・・カッ・・・・・・ハッ・・・・・・」


脇腹に突き刺さる感じた事の無い様な鋭い痛みと遅れてやって来る死の感覚で身体がほとんど動かない。


「フッ!これで終わりだよ」


男はそう言うと同時に血で染ったサバイバルナイフを俺の心臓に突き刺した。


(ハハ・・・・・・もう痛みも感じ無いな・・・・・・)


全身の感覚が無くなり、目蓋は段々と重くなり、意識は遠のいて行く。


(ここで目を閉じたら・・・・・・俺、死ぬだろうな)


だがもう目蓋を開ける気力すら残っていない。

そんな事を考えていると目の前が暗くなり、意識が途切れる。

俺の人生はここで終わる筈だった。

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