第5話 疑惑の二人

 朝食を食べ終わって洗い物をしていると優乃が二階から降りてきた。少し機嫌が良さそう? いや、気のせいか。


「顔は洗ったの? 歯は?」

「洗ったよ。今食べたばかりだから歯はまだだし。つーかお前は俺の母さんかよ」

「やめて。そんなこと言われると不愉快よ」

「あ、悪い。まぁ、一応妹だもんな」

「…………それも不愉快よ」


 家族でいるのも嫌ってどんだけなんだよ。それなのに買い物付き合えなんて訳が分からない。まぁいいか。とりあえず時間まで部屋で暇つぶしでもしていよう。


「ちょっとどこに行くの? 準備は?」

「え? いや、だってまだ7時過ぎたばかりだぞ?」

7時よ。早く着替えてきて。私はもう準備出来てるんだから」

「はぁ!? ちょっと待てって! こんな時間に開いてる店ないだろ? どこ行く気なんだよ」

「考えが足りないんじゃない? 行くのがお店だけとは限らないでしょう? わかったなら早く着替えてきて」

「り、理不尽な……」


 で、着替えて財布とスマホを持って下に降りて来た俺の姿を見た優乃がげんなりした表情をして口を開いた。


「……ちょっと。そんな格好で行くつもり?」

「んあ? そうだけど?」


 ちなみに俺の格好は下がジーンズ(少し破けているけどダメージ加工とも言えなくもない)で、上は肩から袖まで三本のラインが入ったジャージ(袖がほつれているけどダメージ加工──以下略)。


「信じられない。最悪」


 そんな馬鹿な。


「もう少し人の目を気にした格好出来ないの?」

「別にそんなに見られないだろ」

「ダメ。こっちに着替え用意してあるからそれに着替えて」

「なんで俺の服持ってんだよ」

「拾っただけよ」


 服って拾うものなの? 俺の服ってそこらへんに落ちてたっけ? もうコイツが何を言ってるのかよくわかんない。


「ほら、着替えたぞ。で、どこに行くんだ?」

「行きましょう」


 ……こうも会話が成り立たないことってある?


 ◇◇◇


「なぁ、ココどこ」

「テニスコートよ」


 優乃に連れてこられた場所は市の総合運動場。そのテニスコート。目の前では俺たちと同じ歳くらいの学生が──ってあそこにいるの同じクラスのやつじゃん。


「あ! ゆうたん来てくれたんだ〜!」

「ありがと高城。朝早いのに来てくれて嬉しいよ」

「夏芽に萌果、お礼なんていいのよ。友人の試合なんだもの。応援に来るのは当たり前でしょ?」


 そう優乃に挨拶した二人は、元気に言ったほうが【羽場はば 夏芽なつめ】背は小さく、明るい色の髪を肩口で切りそろえてサイドに二本編み込みを作っているロリ巨乳。

 そしてクールな感じなのが【やなぎ 萌果もか】だ。こっちは少し青みがかった長い髪をポニーテールにしている眼鏡っ娘。背は俺よりも高く、すらっとした体型で頭が良さそうだけど、テストの順位は下から数えた方が早い脳筋。教室ではこの三人でつるんでいるのをよく見る。


「高城くんは付き添いで来たの? 可愛い妹が心配だったとか?」


 優乃と話していた羽場が俺の前に来て顔を見上げながら聞いてきた。可愛い妹? そんなのどこにいるんだ?


「いや、俺はコイツに無理矢理──」

「無理矢理ついてきたのよ。きっとテニスウェアの女の子を見るのが目的ね。変態だから」

「なっ!?」

「え〜!? それはちょっと引くんですけど……」

「高城兄。いくら見たくてもその為に妹を利用するのはやめた方がいいんじゃないか?」

「ま、待ってくれ! 違っ──」

「二人の言う通りよ。私と一緒にいるんだからあまり他の子をキョロキョロ見るのはやめて欲しいわね」

「誰が一緒だろうと見ねぇよ!」

「二人とも呼ばれてない? 試合頑張ってね」


 だ、だから俺の話を聞けと……!


「そうみたい! じゃ、応援よろしくねん♪ 高城くん、変態すぎてに引っかからないようにね?」


(!?)


「高城兄、そういう趣味は隠していた方がいいんじゃないか? もしかしたらがいるかもしれないんだから」


(!!??)


「さ、応援席に行くわよ。……なにボーッとしているの?」

「え? あ、いや……」



 まさかな。あの二人のどっちかが桃姫さんなわけないよな。……ないよな?

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