第四章 継承 8

 ずっと待っていた記憶しか無い。この記憶はいつ頃の物だろう。その頃から私は一人だった。


 待っていても帰ってこないことは薄々気付いていた。私は愛されていないのだ。それが当然のことだと分かったのは随分後になってのことだ。


 孤独なことには慣れっこだった。私は他人とは違うのだから、一人だろうがまるで気にならなかった。


 私はある日、生きがいと言える物に巡り有った。それだけで生きていく意味が出来たと思ったくらいだ。過去の嫌な出来事など、どうでもよくなったかのように頭の中から消え去った。


 私は新しい人生を何事も無く平穏に暮らしていくものとばかり思っていた。


 そう、あの日が来るまで。


 私は、私の中から消え去ったと思っていたどす黒い燃えかすのような物に付いた小さな火種に気が付いてしまった。


 その日を境に、その火種は次第に大きくなり、抑えようも無い程大きくなっていた。


 もはや、この炎を消す術は一つしか無かった。

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