第33話 8年目の殺意(5)信用

 柳沢は、勝ちを確信しているのか、余裕が見えた。

「何が聞きたい。いや、どこまで勘付いた?」

 蘇芳が代表して、口を開く。

「8年前、駅で女子高生が盗撮被害を受けた。その子は被害届を出したが、犯人である柳沢さんは口封じをする事にした。官僚が盗撮だなんて、知られれば破滅だから。

 それでその女子高生をひき逃げし、盗撮の被害届をもみ消した。

 しかしその直後、うちの両親の車が通りかかった。

 柳沢さんは、見られたのではないか、何か思い出すのではないかと恐れたんでしょう。うちに入り込んで、両親を心中に見せかけて殺した。

 書斎を念入りに焼いたのは、写真とかが残っているとしたらそこだと思ったからですか。

 そして今度は、私達と高山さんがその事故と事件を調べ直している事を知った。なので、高山さんを謹慎処分にし、警告の意味で弟を襲わせた――失敗でしたけどね。

 次に警察へ引っ張ったのは、探りを入れて、尚且つ脅したかったのでしょうか。

 で、今です」

 萌葱達兄弟は柳沢をじっと見ており、柳沢も萌葱達を見ている。久保は、両者をキョトキョトとせわしなく見ていた。

「その通り。補足もいらないな。流石は望月先生といったところかな。

 ところで、わからない事があるんだが。それがわかっていて、どうしてのこのこここへ来た?」

「柳沢さんの口から、真相が聞けると思ったからですよ」

 浅葱が続いて言う。

「これに間違いはないんだな?柳沢。あんたが、女子高生を殺し、うちの両親を殺したんだな」

「ああ。そうだ」

 柳沢は微笑みを浮かべて認め、久保は悲鳴じみた声を上げた。

「先輩、どういう事ですか?何で、そう、その銃は?かれらをどうするんです!?」

「兄弟揃って、死んでもらうんだよ。警察官に射殺されてね」

 柳沢はそう言い、久保へ目をやって笑った。

「先輩!?そんな!」

 それに浅葱は嘆息して言う。

「たぶんあんたの予想とは違うんじゃないか?柳沢は、俺達を殺す警察官は、あんただって思ってるよ。

 そうだろ?」

「よくできました」

 うその反応はない。どこにもない。柳沢の言った事は、全て真実だった。

「柳沢。それがわかっていて、何の準備もしてないと思うのか?取り上げられることを想定していたとは?」

 蘇芳が言う。

「レコーダーを隠していたとしても、回収すればいいだけだ」

 萌葱はポケットに差していたペンを抜いた。

「じゃあ、これは?カメラで、パソコンとつながってるんですが」

「はったりだ」

 しかし、柳沢の視線は揺れた。

「うそをつきましたね。あなたはこれを、本当ではないのかと思った」

「何の根拠があってそんな事を言う」

「今拳銃を下ろして素直に捕縛されるなら、これ以上罪を重くせずにすみますよ」

 柳沢は視線を泳がせ、息を荒くした。

「うるさい!俺はだまされないぞ!お前は、ただ、はったりを――」

「そこまでだ!」

 声と共に、駐車スペースの方から、拳銃を構えた高山達警察官20名ほどが近付いて来る。振り返った柳沢の目を、彼らが持っていた投光器の光が射た。

 何も見えなくなり、光を遮ろうと手を上げる柳沢に浅葱が飛びついて、殴り倒し、拳銃を蹴り飛ばす。

 柳沢は、

「違う!誤解だ!私は嵌められたんだ!

 あ、あの女子高生は、そう、私が警察官だと知っていて、盗撮をでっち上げたんだ。きっと他にもやってるんだ。示談金目的で!」

と喚き、その柳沢の上に萌葱は馬乗りになって、顔を正面から見据えた。

「うそ、うそ、全部うそですね。

 ひき逃げは?」

「と、飛び出してきたんだ!話にならないからと、立ち去ろうとしたら!」

「うそですね。では、うちの両親は?」

「それは……それは……」

 柳沢は完全に狼狽え、震えていた。

「もういい。あとはこちらがやろう」

 高山が萌葱の肩に手をかける。

「今度は大丈夫なんだろうな」

 浅葱が柳沢を睨みつけながら声を絞り出す。

「これ以上、警察の信頼を失墜させる気はない」

「証拠はどうするんです」

 蘇芳も、声の震えを押さえて言う。

「全身全霊をかけて、揃えてみせる。約束する」

 萌葱は真面目な顔付きの高山を見ていたが、

「わかった。うそはついてないから」

と、柳沢の上から下りた。

「いいんですか。これだけの事を、キャリア警察官がしたなんて」

 蘇芳が皮肉気に言うのに、高山は肩を竦めた。

「悪い奴は捕まえる。それが警察だ。それに、これを隠蔽しようとしたら、それこそ、全国民からの信用を失うだろう?

 やりとりは、パソコンに送ってあるんだろう?」

「はい。信用できる友人2人のパソコンに。何かあったら公表してくれ、それまでは中を見るなと言って」

「中を見るな?見るだろう?」

 顔をしかめる高山に、萌葱は笑ってみせた。

「あいつらは、約束を守ります」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る