第22話 理由

「なるほど、小さな影狼ですか。」


私の一連の説明をを聞いた霜花さんは話の内容を咀嚼するように復唱した。


「以前同時発現した際の影狼も大した力を持っていませんでしたが、御光を使わずに、ただ握りつぶすだけで消え去る程弱い影狼の話は聞いたことがありませんわ。トリス貴方はどう思われます?」


「・・・それが、何の目的で出たかは分からない。・・・でも、感知できなかったのは、その異常に弱い力のせいだと思う。・・・私は、影狼の持つ力の揺らぎを感知しているから、引っかからないぐらい、弱かったのかも知れない・・・。」


どうやらノアさんの持つ感知の御光は万能ではないらしい。


「そうですか。貴方でも出来ないとなると、夕太刀も動きが遅れますね。何か対策を考えないと。」


「あの、私、今日襲ってきた影狼にも何か意味があると思うんです。前回は私達の前だけに強力な影狼が、今回は今まで見た事ない程小さな影狼が私達の所に現れた。やっぱり、意図的な物があると思います。」


「・・・何か思い当たる事がある?」


「思い当たるというか、気づいた事はあります。今回の影狼は私や快兄を無視して、雪ちゃんを狙っていました。そこに、何かあると思うんです。」


「ただ綿雪だけを狙っていたのですね。だとすれば目的は綿雪の髪なのでしょうか?綿雪の御光はその髪を媒介とするものですし。」


「・・・可能性は、あるね。」


私はその二人の言葉に少し疑問を感じた。


雪ちゃんの御光の媒介が髪であるという事を襲撃者は知っていたのだろうか?


前回の戦いで気付いたのかも知れないがクマはやられるとその痕跡を残さずに消えてしまっていた。


会話の中でもそんな話は出していなかったと思う。


もし、襲撃者が雪ちゃんの御光について知っているとしたらどこでその事を知り得たのだろう。



「あの、雪ちゃんの御光の媒介が髪の毛って事、皆知っているんですか?」


私は夕太刀の中に話をリークしたもの、もしくは襲撃者自身がいるのではないかと思った。


「いえ、綿雪の力について知っている者はそう多くないですわ。共に行動する事の多かったわたくしと雪の入隊時から交友があるノアは別ですが。後は上層部の者くらいでしょう。」


「そこから情報が漏れた可能性はありませんか?」


「・・・無いとは、言い切れない。・・・けど、雪の御光を、ちゃんと知っている者なら、切られても、すぐに力を込めれば、使用出来る事も、雪の髪が、人より早く伸びる事も、知ってる。・・・力を、使わせないようにする為、とは思えない。」


ノアさんの言う通りかも知れない。今回の襲撃は、結果だけを見れば雪ちゃんには可愛そうだけど、彼女の髪が切られただけ。


しかもその髪は再利用出来る。


「分かりませんわね。意味がなさ過ぎますわ。」


霜花さんの言う通りだ。


「・・・でも、雪に心理的ショックを与えるのが目的なら、意味はあった。」


「それにも、なんの意味があるというのです?」


「・・・分からない。・・・けど、思い付くのは、それくらいしかない。」


その通りだ。前回までは危害を加えるという目的があったようだけど、今回は本当に目的が分からない。


「すいません。自分で言い出した事なんですけど、私もよく分からなくなってきました。」


「いえ、秋晴さんの言ったこと自体は間違ってはいないと思いますわ。答えは出ませんけれど。理由を探すのはここら辺でやめておきましょう。これから先は憶測が過ぎますわ。」


霜花さんに私もノアさんも同意した。


「・・・次、その影狼が現れても、分かるかどうかは分からないけど、感知に、力は入れておく。」


「ごめんなさい、秋晴さん。その小さな影狼を完璧に捕捉する事は難しそうです。あなた達ばかり大変な思いをさせてしまいますが、十分注意して下さい。」


「はい・・・。」


やはり今回気づけなかったものを次からすぐに気づけ、というのは難しいみたいだ。


今まで以上に自分達の身は自分達で守らないと。


私は一層、気合いを込めた。


霜花さんと電話をしている間に何か快兄がしたのか、雪ちゃんはだいぶ落ち着きを取り戻していた。


その事自体は喜ばしいんだけど、快兄?変な事してないよね?


快兄と雪ちゃんに内容を伝えると、二人とも理解はしてくれた様だった。


快兄は少しだけ夕太刀に不信感を抱く様になったみたいだけれど、雪ちゃんは内通者がいるとは思わなかった様だ。


「ボクの力を使えなくした所で、違う人員が快晴お兄さんの指導に当たるだけだから。」


私達と同じく、夕太刀の中に内通者がいるなら、理由がなさ過ぎると考えたようだ。


相変わらず分からない事だらけだけれど、夜もだいぶ更けてしまった。


流石に帰らないとまずい。


落ち着きを取り戻した雪ちゃんも


「二人とも遅くまでありがとう。ボクもう大丈夫だから、今日はおうちに帰って?」


と帰りを促してくれる。


先程まで落ち込んでいた雪ちゃんがそう言ってくれたとは言え、やはり気にはなってしまうが、明日からの訓練を考えればそうした方が良い。


私と快兄は後ろ髪を引かれる気持ちを押し殺し家へとむかった。

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