第17話

Cap015


“空を越えて〜♪ラララ♪星のかなた〜♪ゆくぞ〜♪アトム〜♪ジェットのかぎり〜♪心優しい〜♪”


「何してんですか?」

「アトムに“アトムたるは”を教えとる」


 アトムはテレビの前に座り、白黒の世界を飛び回る自分の姿を、熱心に観ている。

「なんか変な感じですね」

「何がぁ?アトムにも、しっかりと自分の役目っていうのを覚えて貰わんと困る」

「はぁ」

「なんじゃい、その不満そうな返事は」

「いやぁ、自分でも分かりませんけど、あくまで漫画の世界でしょ。なんていうか、現実で同じ事されても、なんか違うような」


 そう、何とも釈然としないのである。


 考えてほしい。急にウルトラマンが目の前に現れて、怪獣と戦っている姿を。

正直、混乱してしまう。

また、その足元でルパンは銭形のとったぁんから逃げ、ゴレンジャーは数名、ウルトラマンに踏まれ、スパイダーマンは孤独なのである。


「はぁ?」

「いや、それに急にアトムが空飛んでたら、ヤバイでしょ」

「なんでぇ?」

「なんでって、一種の未確認飛行物体ですよ。UFOですよ。レーザーに引っかかって、自衛隊は、スクランブル発進ですよ。来ますよ、きっとMIBみたいなのが」

「お前、MIBが怖くて、悪をやっつけれるか!」

「だから、その悪って何なんですか?」

「そりゃ、悪は、悪だろうよ」

博士は、少し口ごもると、プイッと僕に、そっぽを向いた。


そう現実には、そうそう鉄腕アトムが活躍するようなシーンはない。


 世界が恐れる絶対的悪は存在しないし、存在するとしても、彼らは異質な姿をして街を破壊するような事はしない。現実の悪というのは、決して表に現れない。僕達の見えない所で暗躍し、隠れたプログラムを書き換えたりするものである。


「あっ、そうか!そうか、そうか…」

その言葉に、僕は、一気に嫌な予感に包まれる。

「なんですか、博士」

「作ればいいのか」

「何をですか?」

「アトムと戦う悪者を」


“あぁ、いらん事、言うたぁ”


「何、バカな事、言ってんですか!」

「だって、絶対的正義には、絶対的な悪が必要じゃろ。3日で作ります」

何かの映画で、聞いたことがある台詞だ。


博士は、そう言うと、地下の研究室に意気揚々と向かう。

「待ってくださいよ!」

「えぃ、放せ!チョップ!チョップ!」

「そんな事したら、誰が悪役か分からなくてなるじゃないですか?」

「いいの、見たいの!アトムが活躍する所、見たいの!」

「そんなの絶対ダメですよ!」

「息子が活躍する場を作るのが親心だろうが!」

「いや、アトムの生みの親は天馬博士で、お茶の水博士じゃないですから〜!」


『から〜!から〜!ら〜!ら〜!ら〜!〜!〜!』


「…………えぇ〜!そうなの〜!!」


 天才という部類は、そこに至る理由など深く考えない。

ただ、作りたい欲求を満たす大義名分を適当に探すだけである。

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