第7話 ファンタジーの花形

 だいぶ視界が開けてきた。


 空を見上げると、まだ大量に砂が舞っているようで、雨の日のように薄暗い。

 前方は、スライムに攻撃を当てたあたりから、大地がえぐられている。


 これ、もっと角度が低かったら、大変なことになったんじゃ……。


 俺は高温で深く溶けた大地を見ながら、スライムへの攻撃が少し上を向いていたことに安堵した。

 もし角度を間違えていたら、この星が削られていたんじゃないかと思うほど、凄まじい光景だ。


 ただスライムを殴っただけなのだが、俺は悪事を働いたあとのように居づらい気持ちになり、すぐに出発することにした。


 もしかしたらパンチは必殺技だったのかもしれないな。

 もう殴る攻撃はしないようにしよう。できれば戦闘そのものも。


 俺は地図を開き、赤い点と遭遇しないよう気を付けながら、南にあるアドリーヴェン大森林に向かって歩き続けた。




 スライム戦から三日が経った。

 やはりこの広大な荒野には青い点はいないようで、たまに赤い点を見かけると、避けるように回り込んで歩いた。


 三日間、飲まず食わずでも全然平気だったが、代わり映えのしない景色に少し飽きてきた。

 羽ぐらいは描いておけば良かったと、キャラクターを考えていたときのことを後悔した。


 だいぶ後で気づいたのだが、走れば早く着いていた。

 どんなに歩いても、どんなに走っても疲れないこの身体だったが、高校の体育以来、走ったことがない俺にはその発想がなかった。


 そろそろ真ん中あたりか。


 地図によると、このだだっ広い荒野の真ん中あたりにやっと来ていた。

 これほど何もなく、人間も魔族も来ないので、中立エリアなのではないだろうか。

 名前も思い出せないあの魔族が、ここではなく大森林を教えてくれたは、より暮らしに適しているからなのかもしれない。


 あれで良い奴だったのかもしれないな。


 俺は見た目の先入観で決めつけないようにしようと思った。

 見た目で言えば、こちらの方がよっぽど恐ろしい姿だし。


 次に会ったらお礼でも言っておこう。


 なんか勝手に気持ちが和んだ。


 それから少し歩いていると、赤い点がこちらに向かっているのに気づいた。

 かなりの高速で動いていて、このままだと鉢合わせしてしまう。


 ちょうど大きな岩が近くにあったので、俺はやり過ごそうと、すぐに岩陰に隠れた。

 そのまま地図で状況を確認していると、赤い点は通り過ぎずに、こちらの位置と重なった状態で止まった。


 どういうことだ?


 俺は辺りを警戒しながら覗き込んだ。

 何の音もしなかったし、何の姿も見えない。

 とても小さいモンスターでも近くにいるのだろうか。


 すると上空に気配を感じた途端、何かが俺に命中した。


 --------------------------------------------

 古代竜ジオルドラードはあなたに攻撃をした。

 あなたはスキル「ブレス攻撃ダメージ軽減」を自動発動させた。

 あなたはスキル「炎属性ダメージ軽減」を自動発動させた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 --------------------------------------------


 あたりは激しい炎に包まれたが、少しも熱くない。

 感覚がないだけか、ダメージを受けてないからなのか。


 見上げると、ファンタジー世界の大スター、ドラゴンが舞い降りてきた。


 やべえ、ドラゴン格好いい!!


「我の領域に魔族が足を踏み入れることは許されぬ。滅びるがよい!」


 ドラゴンは再び炎を吐いたが、先ほどと同じログが流れ、俺はダメージを受けなかった。

 ドラゴンのステータスを確認してみる。


 --------------------------------------------

 名前 古代竜ジオルドラード

 レベル 164

 種族 古代竜

 HP 38815/38815

 MP 23521/24170

 攻撃力 11837

 防御力 10194

 --------------------------------------------


 さすがに凄いな。

 今までとはまさに桁が違う。


「汝。我の炎に耐えるとは、まさか魔王クラスか?」


「ちょ、ちょっと待ってください。俺は魔族ではなく、ハーフ魔族です!」


「問答無用」


 ドラゴンの尾が俺を弾き飛ばした。

 数百メートルは飛ばされたが、痛みもなく、ログを見るとダメージもゼロだ。


 おいおい、自分から話しておきながら、問答無用って……。


 俺は立ち上がると、ドラゴンが飛び立ち、こちらへ向かってくる光景が見えた。

 地図を確認するとドラゴンは赤い点で表記されているので、知能は高いがモンスターの扱いってことだろう。


 少しムカついたこともあり、俺は反撃してみることにした。

 殴る攻撃は控えた方がよさそうなので、どうしようか。


 スキルウィンドウを出してみる。

 何事も面倒くさがりの俺は、いまだにスキルを確認してない。


 この世界では、魔法はスキルの一種のようだ。

 スキルの一覧の中に魔法らしきものがある。


「飛んでる敵に攻撃できそうなスキルは……」


 --------------------------------------------

 マジックミサイル

 魔法の力で作った矢を放ち、相手一体にダメージを与える初級魔法。

 --------------------------------------------


 よし、これにしよう。

 名前からすれば、どうみても矢が飛んでいくっぽいし。


 俺は『マジックミサイル』をタップした。


「……」


 何も起きない。

 ここへきて、スキルの使い方が分からなかった。


 タップじゃ駄目なのだろうか。

 発動するのに条件があるのだろうか。

 相手を選択してないというのもあるかもしれない。


 俺は右手の人差し指をドラゴンに向け、左手でもう一度『マジックミサイル』をタップする。


 またも何も起こらない。

 ダブルタップをしても、長押しをしてもマジックミサイルは発動しない。


 そうこうしているうちに、ドラゴンは猛スピードで近づき真上まで来ると、炎を吐く態勢になっている。



 声に出して唱えるんじゃ!



 突然、頭の中でそう聞こえると、俺は大声を上げた。


「マジックミサイルっ!!」


 すると指先から、矢と言うにはあまりにも太すぎる、光の柱が空を貫いた。


 --------------------------------------------

 あなたは古代竜ジオルドラードに『マジックミサイル』を使った。

 あなたは古代竜ジオルドラードに99999ダメージを与えた。

 あなたは古代竜ジオルドラードを倒した。

 --------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る