第3話 乙女ゲーム部にようこそ!③

今日から一週間、俺は新入部員として乙ゲー部に入部することとなった。……と言っても、ひとまず仮。俺みたいな野郎が「乙女」ってつく部活に参加するのは、少し奇妙な感覚だ。

なんでも今日は、部員紹介も含めて、俺のために歓迎会を開いてくれるらしい。


(部員って全員女子なんだよな。一人くらい男子で乙ゲー好きな人いても良くね?)


はぁ、と溜息をつきつつ部室のドアを開けた。するとそこは―――――

……散らかっている。昨日までは結構綺麗な部室だったのに、パソコンの周りに散乱したヘッドフォンやコードの数々、机の上にはラノベと思われる本がどっさりと積み上げられ、床にもちらほら置かれている。そしてソファには、毛布の塊?!


「あれ〜?どこぞの殿方?」


「やっぱFPSはダメだ。エイムがクソ……ん?」


「Zzz……zzz……」


「いらっしゃい廉人君。待ってたよ」


「……白雪。失礼だけど、部室の様子が昨日より、その……」


「あはは……いつもこんな感じなんだよね。そのうち慣れるよ。私も、慣れたから」


ダメだ、白雪の目が据わっている。俺は特別綺麗好きというわけではないが、それにしたってこれは酷すぎる。

俺が混乱していると、後ろのドアがガラッと開き、灰花さんが入ってくる。


「あー!また散らかしてる。今日新入部員来るから、片付けてって言ったのに……ごめんねぇ北王子君」


「大遅刻だぞ、我らがママ!」


「ママじゃない」


「し、硝子先輩。ほんとに男子連れてきたんですか……?」


「昨日グループに送ったじゃん。一つだけ既読付いてなかったの、紅愛だったのね」


「硝子ちゃん、手伝うよ」


「ありがとう白雪。白雪だけが癒しだわ……」


灰花さんと白雪は手際良く周囲を片付けていく。「俺も手伝おうか?」と聞こうとした時には、既に部室は元通り。


(この二人、手際の良さ異常だろ)



◇◇◇


「それでは、北王子君の入部を祝って……乾杯っ!」


「乾杯!」


「なんかよく分かんないけど、かんぱーい!」


「……」


「Zzz……」


ジュース片手に盛り上がってくれる灰花さんだったが、微妙に歓迎ムードじゃなさそうですね。ノリだけで来ちゃった感あるけど、やっぱ断れば良かったかなぁ。想像以上に気まずい。


「ちょっと皆、もっと盛り上がって。今日はお菓子もたくさん買ったんだから」


「む、無理……」


「オレは盛り上がってるよぉ〜!」


「Zzz……zzz……」


なんとも統一性がないメンバーである。果たして、ついていけるのだろうか。


「俺、結構邪魔じゃない?」


「邪魔じゃありません。ほんと気にしないで。いっつもこんな感じだから。皆悪い子じゃないんだけど、ね」


灰花さんの苦労が表情だけで伝わってくる。あながち「ママ」というのは間違いではないかも。お疲れ様です……!


「まあ、気を取り直して。一同、注目!今日から一週間、この北王子廉人君が我が部に仮入部してくれるとのことです。パチパチパチ〜」


「よ、よろしくお願いします……」


灰花さんに合わせて、乾いた拍手が少しだけ聞こえる。うぅっ、悲しくなんかないやい!


「北王子君には、部員の紹介をしなきゃね。まずはご存知、シナリオ担当の七条白雪ちゃんです!」


白雪は気恥しそうにぺこり、とお辞儀をする。慣れた人物なのに、こちらも少し緊張してしまう。


「次は夢路アリシア。背景グラフィックの担当。この子は、イギリスと日本のハーフなんだ」


「はーい!オレちゃんがアリシアで〜す。ハーフのくせに英語は全く喋れませ〜ん」


アリシアは、初見で外国人だと言われても違和感がない。少しウェーブがかったクリーム色のワンサイドアップに、黒いリボンのカチューシャ。コバルトブルーの丸い瞳は澄んだ空を連想させる。その見目麗しい見た目とは裏腹に、「オレ」という口調が彼女の無邪気さを象徴していた。


「この子は狼尾紅愛かみおくれあ。一年の後輩ちゃんだよ。うちの優秀なプログラミング担当です!」


鎖骨辺りまで伸びた赤茶のミディアムボブ。琥珀色のくりくりとした瞳。前髪にピンを付けており、ブレザーの上から赤いパーカーを羽織っている。背丈は小柄で、まだ中学生らしいあどけなさを残す。パソコン前のゲーミングチェアで体育座りをし、俺から目を背ける姿からして、大分警戒されているようだ。


(露骨だなぁ……)


俺の様子を察してか、灰花さんがこっそり耳打ち。ちょっと、そうゆーのドキッとしてしまうんですが!


「……実は、ちょっと男子が苦手な子で。絡みづらいかもしれないけど、悪い子じゃないから」


「了解っす……」


「次は茨先輩……なんだけど。もう、またこんなとこで寝てるんですか?いい加減起きてください、よっ!」


灰花さんはソファの上の毛布を無理矢理引き剥がす。すると中から、もぞもぞと少女が出てきた。先程の寝息は、彼女のものだったのか。


「ん〜……なぁにぃ?今ちょーおねむなんだけどぉ」


腰まであるローズピンクの髪は綺麗にカールされ、頭のてっぺんには二つのお団子。藤色の瞳と緩やかな垂れ目。耳には耳たぶの他に、トラガスや軟骨にまでたくさんのピアスが付けられている。そして何より目を引くのは、校則ぶっちぎりの服装。ワイシャツはフリル付きのブラウスへと替えられ、十字架のチョーカーに学校指定の黒い制服とリボンが相まって、見事なゴスロリ服が完成している。


「こちら茨杏くさぶきあん先輩。自前の毛布さえあればどこでも寝ちゃうの。一応副部長兼スチルとか立ち絵のグラフィック担当」


「ん〜この子誰ぇ?……まぁ誰でもいっかぁ。おやすみぃ……」


茨先輩は再び毛布にくるまってしまう。彼女が寝息を立て始めるのに、そう時間はかからなかった。


「また寝ちゃった。ほんと、マイペースっていうかなんて言うか……あ、ちなみに私はBGMの作成担当ね」


「自分で作成するのか?!てっきりそういうのはフリー素材を借りてくるもんだと……」


「どうしても時間が無い時はそうするけど、自分達で出来ることは、なるべくやり遂げたいんだ」


さすが、としか言いようがない。まず作曲やらプログラミングやらが自分らで出来ることの範疇って、チート集団ですか?

皆で力を合わせて、一から物を作り上げる。完成した暁には、凄い達成感なんだろうな。


「はい、紹介終わり!後は顧問の永宮先生がいるけど、それはまた今度でいいよね」


「永宮先生って、あのおばあちゃん先生?!ここの顧問だったんだ」


「へへ、意外でしょ」


「うん。てっきり茶道部の顧問かと……というか俺、上手くやってけるかなぁ」


「大丈夫だよ。私も白雪もいるし、何かあったら遠慮なく言ってね。それじゃ、改めまして」


灰花さんは部員達を背に、俺の方へ振り返った。


「乙女ゲーム部にようこそ!北王子廉人君」






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