バイク女子の日常~バイト編~

「ねぇー、キョウちゃん。彼氏いるのー?」

「はい! います! アタシの恋人はニンジャGPZ900Rです!」


 バイク用品店などでバイトしていると兎に角おっさんにモテる。面倒臭いから、さっきのような返しをしていたらオヤジ世代には逆にツボってしまったらしく、私目当てで来店するお客様が増えた。

 大学の同期にSMバーで女王様をしている友人がいるんだけど、彼女もまたモテはやされる。その彼女曰く「私の価値は私が決めないといけない。周りにチヤホヤされても、私がなりたい自分に成れていないと意味はない」なんだとか。

 まぁ、彼女ほどではないにしても、バイク業界の女子率の低さをかんがみると今のモテ期はまやかし。イイ気になってはいけない。


 そして、確かに私は自他ともに認めるおじさま好きではある。あるがしかし、お客様には悪いがバイク乗りのイケオジ率はかなり低い。

 私の好みを年上に変えてしまった渋い紳士バイカーは後にも先にもただ一人。ツーリング先で出会った、白馬に乗った王子様ならぬ、白いBMWに乗ったおーじさま。

 奇跡の再会を期待してもう二年以上が過ぎてしまった。


 じゃあ若いお客様はいないのかっていうと、いることにはいる。好かれているというより懐かれている印象。今日は土曜日だからやってくるかも。


「お姉さーん! なんかエイプのパーツ入った?」

 ほらね、言ったそばからお出ましだ。

「だからー、今はグロム主流だからエイプは入らないって!」

「えー、なんか入れてよー」

「そもそも君なんでわざわざこっちまで出てきてるのよ? もっと近いところにバイク用品店あるでしょ?」

「ツーリングがてらお姉さんに逢いにだよ!」

「マセるなっ! 前連れてきてた超絶美少女のJKといちゃついてなよ。こんな年増はほっといて」

「あの子は幼馴染だよー。お姉さんもしかして焼いてるの?」

「ちょっと工具コーナーにプラハンでも見に行こうか? てか、何か欲しいパーツあるの? 君のエイプCDIも入ってるしディスクにもなってるし、ほとんどレーサーじゃない?」

「最近さすがに不便を感じてて、リアキャリアは欲しいかなって……」

「買う気があるなら取り寄せるよ」


 こんな高校生が来るぐらい。まぁお店の売り上げには貢献できそうだから良しとするか。


 高校生こいつはまぁかわいい方だ。私が辟易するのはイキり系おっさんバイカー。


 タンクバッグコーナーでお客様に呼び止められる。

「このバッグはマグネットしかないの?」

「はい、こちらのメーカーですと磁石のみになります。お取り寄せになりますがもし在庫があればコロナバッグやバグスターなどゴムバンドと金具で固定のものもありますので……」

「マグネットだけだと300キロ出したら浮いてこない?」ドヤ顔で。

「えー、メーカーさんもそんな速度は想定してないですよー! お客さん飛ばし過ぎですよ!」阿保か。アンタとアンタのバイクはそんなに出せないっつーの。って、顔には出さないけどね。


 こういうやり取りの後は高校生とかつまみ食いしてやろうかとか、ちょっとだけ投げやりになる。そんなしょうもないことで捕まりたくないからやらないけどさ。


 このモテは違う。勘違い姫バイカーにならないようにしないと。

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