幻想冒険譚:科学世界の魔法使い

猫フクロウ

最低世界の最強魔道士

魔法の世界

うっそうとしたジャングルの中、その巨大生物は逃げていた。


「ティア!行ったよ!」


「了解!」


応答と同時に一筋の閃光が走る。


閃光が地面に達すると同時に大きな爆発が起こる。


爆発に驚いた巨大生物は逃げる方向を変えた。


「よし、予定通り!ファイゼン、後は頼んだわよ」


「おう、任せとけ」


「さってと」


向き直した先で爆発が起こる。相手はあそこだろう。


そして後ろの山にいる仲間に話しかける。


「ティア、加勢するわよ」


「火災の兆候なし。了解、支援する」


身の丈ほどの銃を構えると先程の爆発が起きた場所に一発を放った。




ギンッ。


大きな爪を剣で抑えると隣から拳が飛んできた。


競り合いをせずに軽く身を引き相手を拳の前へ誘導する。


拳は顔面に命中し相手は大きく吹っ飛んだ。


その拳の主にもう一体が飛びかかるが、拳の主は振り向きざまに裏拳をお見舞いする。


飛びかかったやつの顔面に命中すると、振り向きの回転を利用し地面に叩きつける。


さらにもう一体拳の主に飛びかかるやつが現れたが、拳の主で出来た死角から剣が突き出て大きな口に刺さる。


剣が炎に包まれると同時に全身が瞬時に燃え上がり炭となった。


「予定より多いな」


拳の主がそう言うと


「雑魚ばかり向かわせるのはいい加減にしてほしいわね」


そう返事をすると足元に倒れてるやつに剣を刺し炭へと変えた。


一息ついていると草むらから先程吹っ飛ばしたやつが飛び出した。


即座に構えるがチュンという音と共に額に風穴が空き燃え上がった。


狙撃?となれば山にいる味方か?そう山の方を向くと


「下よ!逃げて!」


そう叫ぶ通信と共に地面が盛り上がる。


「囮か」


今まで雑魚を向かわせたのはこのためだろう。


地中から出たそれは大きな口のような形で二人を包もうとした。




ドン!


不意に背中を強く押され吹っ飛び、口の外へ転がり出た。


「リーシャ!!」


助け出されたことを理解すると同時に取り残された彼女の名を叫ぶ。


「うぉぉぉぉぉ!」


取り残された彼女は叫ぶと同時に炎をまとう。


「はぁぁっ!!」


地面に拳を叩きつけると同時に爆発が起き、火柱が立つ。


あぁ、助けたんじゃなくて邪魔になるから退かしたんだな。


そう理解すると同時に、一瞬でも心配したことに損した気分になった。


地中にいたやつの灰が舞い、大きな穴が空いたがここは事後処理で埋まるだろう。


穴から飛び出した彼女と共に足につけた装置を起動し宙を舞う。


少し上がった場所に通信してきた彼女がいた。


「さすがリーシャね。瞬間火力ではセレスをも超えると言われるだけあるわね」


咄嗟とっさに突き飛ばしちまったが大丈夫か?」


「問題ないわ。あんたの火力ならこれがもたなかったかもしれないし」


セレスは持っていた剣、もといレイピアを見せる。そのレイピアは少し反っていた。


「粗悪品ね」


やれやれと首を振るセレス。


「帰ったら武器屋直行ね」


「その前に報酬の肉食おうぜ」


仕事後の話をしてると通信が水を差す。


「みんな、盛り上がってるとこ悪いけど第二陣が来たみたいよ」


遠くで宙を舞う飛行型の機械と、地上にはさっきの雑魚より屈強で素早く動く人のような形をした機械が押し寄せる。


「地上は引き続きセレスとリーシャ、私とティアは飛んでるのを落とすわよ」


「「「了解!」」」


不気味な機械と少女たちの戦いはまだ続く。




○○○●●●○○○●●●○○○●●●○○○●●●


輝くような赤身、キラキラと輝きながらあふれ出る肉汁。


数年に一度しか味わえない食材に、厨房を囲む人々から歓喜の声が湧く。


生でも焼いても美味しく食べられ、まるでこの世の幸せを詰め込んだ宝石箱のようだと評される肉。


その獲得者がタダで味わえるとしてこの肉を捕獲するクエストは人気があるが、

ここ近年そこに加えて不気味な強敵と戦わなければならなくなった。


クエストランクはAAAトリプルエー


強敵のおかげで昔のA-エーアンダーからランクが上がってしまったが、このクエストはいつも話題の中心になる。




「相変わらずよく食べるねぇ」


ティアは感心半分、呆れ半分だ。


「うるせぇ、そういう体質なんだよ」


リーシャは子供と間違えられるほど小柄な体格だが、食事量は普通の大人の数倍はある。


そういう特別な体質であることは理解しているが、食事姿を見ると呆気にとられてしまう。


「お前もあいつらと一緒に報告に行けばいいじゃねぇか」


先に食べ終えクエストの報告に向かった仲間の話をする。


「立場の違う人間がついてってどーすんのよ」


「それもそうだが、わざわざうちの食事に付き合わなくてもいいんだぜ?」


食事を終えカランとフォークを置きナプキンで口を拭くリーシャ。


それを見てティアは言いづらそうに話をする。


「まあポーラがいないところで話とかないとなって思ってたことなんだけどさ…」


「ならさっさと言え。うちはあいつらみたいに気の利くタイプじゃねぇんだから」


はぁと溜息を吐き、腹をくくる。いつまでも黙ってるわけにはいかない。


「新メンバーの事よ」


「あぁ、なんか科学の国のやつをスカウトしようとしてるのは聞いたな。

めちゃくちゃ頭良くて、なんかカンフーとか言う格闘技が得意だとか言ってたな」


リーシャは両手の拳を合わせて嬉しそうにする。


「うちも格闘技が得意だからな。今から手合せするのが楽しみだぜ」


そんな嬉しそうな顔をするリーシャを見て気持ちが沈む。


(あぁやっぱり話していないんだ…)


そう心の中でつぶやく。


見た目は体質の影響で子供のような体格、目も釣り目で愛想笑いとかも苦手でよく知らない人間は彼女を敬遠しがち。


でもそんな彼女は格闘一家の人間で幼少期から格闘技を習っていた。


その腕前は周りも認め、いろいろな人から師事を請われるくらいだ。


そして格闘技の師事に関しては面倒見がよく、教え方も的確で解かりやすいと評判になるほど。


その彼女の欠点といえば、少々ガサツで短気なところとある人種を毛嫌いしているところだ。


ここ数百年、その人種がここに住むどころか世の中がその人種と関わりを持とうとしていないので、

大人達も昔話しか知らないが、名を出せば誰もが知っている人種“地球人”。




この魔法都市メリオルも自国の事だけで手一杯だった頃、転移魔法で現れた他国の者の侵入を許した。


しかしそのよそ者は侵略ではなく協定を求めた。その国は国土が小さいのに人が密集していたのだ。


そして転移魔法で移り住める土地を探しメリオルに現れたのだった。


人手不足に悩まされていたメリオルは移り住む土地を与える条件とし転移魔法の使い方を教わった。


そして互いの監視と協力を行うために中立的な組織“時空管理局”を作り魔道士たちをそこに集めた。


しかしお互いが似た気質だったのだろう。監視というのは名ばかりで時空管理局は順調に機能し大きくなった。


そして互いの国が豊かになり、新たな魔道が生まれたりと順風満帆な流れとなった。


これを良しとした国はさらに拡充させるため、さらに別の国を探し始めた。


そしていくつか見つけたうちの一つに地球があった。


地球は魔法を使うには大変厳しい環境であり、魔道士が生きていくには厳しい環境でもある。


魔法の源である“魔力マナ”が大気中にほとんどない為、魔法を使うことが出来ない。


さらにメリオルと比べると重力が高く酸素濃度も低い。そして何よりメリオルよりも早く時間が流れる。


だが奇跡は起きた。この厳しい環境下でも魔道士は存在した。


数十億いる人間の中から指で数えるくらいの数の魔道士を見つけた。


そしてその中の数人を仲間に迎えることに成功した。


そこからは奇跡と呼んでも足りないくらいの出来事が起きた。


より厳しい環境で育った地球人にとって、メリオルは子供の遊び場のようだった。


難しいと言われた仕事も難なくこなし、逃げるしかないと言われるモンスターも平然と倒した。


その後地球にある知識“科学”というものが伝わり、魔法と魔法を科学のように合わせ大きな力とすることが広まった。




数年後、突如地球人がいくつかの国を我が物とした。


今までの仲間などを全て捨て、自らが王となり国民を奴隷のように扱い手中に収めた。


もちろんメリオルを始めとする多くの魔道士がその暴挙を止めようとしたが、

地球人の力は強大なものとなり誰一人として止めることが出来なかった。


しかし地球人にも弱点があった。地球人は他の人間よりも早く老いたのだ。


いや、それしか弱点が無かった。


老いることで力を失った地球人は呆気なく倒され、魔法世界にはまた平穏が戻った。


そして後世に伝えられた。


地球人は強い。そして裏切る最低の人間だ。世界が変わるほどに。

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