第6話 交流

 一二月二〇日。奏多がきて一週間以上経った。特に変わった様子もなく、彼は玉川家で過ごしている。異変がないことは玉川にとって好ましい状況ではあるが、漂流者としての目的はわからないまま。規律違反をしているにもかかわらず、収穫はゼロに等しかった。

 この日は奏多と二人で駅に隣接した百貨店へと訪れていた。開業から四五年近く続いている老舗しにせだ。町田に百貨店があるのは栄えた街であるという証拠にも思えた。


「なにがいいッスかねープレゼント」

「どうだろう? 園子はなんでも喜びそうな気がするが」

「それは考えなさ過ぎッス」

「ならなんで私を連れてきたんだか……」


 百貨店にきたのは世話になっている礼としてクリスマスプレゼントを園子に渡したいと奏多が言ってきたからである。一応休日だった玉川はプレゼント選びにつき合うことにした。


「ほら、俺お金ないですし」

「言えばくる前にお金だけ渡してたよ」

「俺よりも玉川さんの方が園子さんのことよく知ってるでしょうし、理解してると思ったから誘ったんですよ。まあ見当違いだったようですけど」


 エレベーターのボタンを押し、奏多がため息をつく。どうしてそこまでがっかりされるのか。部外者の彼に非難されたのが玉川は不服だった。


「そこまで言うなら君には妙案があるのかい?」

「まあ、それなりには。少なくともなにも考えてない玉川さんよりはマシだと思うッスよ?」


 煽りながら奏多は七階のボタンを押した。そこは家電量販店が出店しているフロアだ。

 階に着くまでしばらく二人の間に沈黙が流れた。気分を害したわけではないが、妙に突っかかってくる奏多の様子を不思議に思ったのだ。思考に気を取られて、かける言葉が見つからない。

 一分も経たぬ間に目的地へとたどり着く。目の前にはおびただしい数の家電が並んでいた。


「あ、こっちッスね」

「ああ」


 先をスタスタと歩いていく奏多へとついていく。彼が足を踏み入れたのは生活家電のコーナーであった。どうやら料理で使う家電をプレゼントしようとしているらしい。


「電子レンジ? うちにもあるが?」

「いやだいぶボロかったッスよ?」

「それでもまだ使えるだろう」

「うわーでたでた。使えるからって理由で全然買い替えない人。うちの親父も金あるのに全然買い替えないんッスよねー。よほど思い入れがあるのか」


 呆れるように肩を竦めて見せるが、こちらには見向きもしない。玉川の意見なんて聞いてないと言わんばかりに、電子レンジを見て回っている。


「倹約家のなにが悪い? 使い潰すまで使ったっていいだろ。電子レンジはいらない。なにより持ち帰るのが面倒だから」

「いやいや買うの園子さんへのプレゼントだし! 玉川さんはなにも考えてないんだから、決めるの俺だし! ちょっと黙ってて」

「とにかく! うちにあるものはいい!」


 気に食わなかったのか、玉川の語勢が強くなる。これではまるで喧嘩だ。そう思ってしまった瞬間、思わず頭を抱えてしまった。子供相手に自分はなにをやっているのかと。


「頑固なんだから、全く。はあ……それならこれはどうッスか?」


 奏多が指差した先にあったのはホットプレートだった。値が張るようなものでもない。一家に一台あっても損はないだろう。


「なぜホットプレートなのかな?」

「お子さん産まれるんでしょ? こういうので食卓囲むのも乙だと思いますよ。多分、園子さんもそういうのやってみたいんじゃないですかね?」

「なるほど」


 大口を叩いただけはある。自分以上に園子や家族のことを考えていることを知り、玉川は膝を打った。


「決定! そんじゃ、買ってきまーす!」

「お、おい! お金は!」

「あ、やべ。忘れてた」

「全く……そそっかしいやつだな、君は」


 二人は並んでレジへと向かった。

 

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