第18話

 数多くの魔法とスキルを覚えた数日の月日はあっという間にたち、インハルドの家であるプランダール家に行く日になった。


「いいお天気で一安心です」

「イケメン居たら連れて帰って来てくださいね」

「では、行ってらっしゃい。ご武運を」

 ダージリンさんが手配してくれた馬車に乗りいつもの3人に見送ら出発した。



「おげぇぇえ」

 時短のため整備されていない道路を馬車が通るとその揺れは半端じゃない。

 元々乗り物酔いは平気な人間だったがこのランダムに揺れるのはかなりキツく既に何回か朝ご飯を道路に撒いている。

「ああ……しんどい」

「ユウマ様見えてきました。アレがプランダール家になります」

 馬車を運転してくれてるお兄さんが親切に言ってくれた。

「やっとか……。着いたら教えてくれ。気持ち悪い」

「分かりました」


「着きましたよ。さ、降りてください」

 馬車の扉が開くと半無理やり引きずり出された。

「待ってたよユウマくん」

「ぅおげぇえ」

 インハルドを筆頭とする騎士団に出迎えられ、その重圧と酔いで俺は再び嘔吐した。



 ーーーーーー



「目を覚ましたようだね。大丈夫かい?ユウマくん」

「ああ。なんとか持ち直したよ。いきなり寝てしまって悪かったな」


 俺はインハルドの側近のメイド達に方を貸してもらいながら、この客間に通された。

 その直後疲れでベットに横たわって気づいたら目を瞑っていた。


「それは良かった」

「起きた時にそばに居るのが可愛いメイドさんだったらさらに良かった」

「ハハ贅沢者だね。けど、ちゃんとそこにメイドさんも居るよ」

「え!?あ、これは……その、どうも」

 居ると思ってなかったから言えた冗談だが、ほんとにメイドさんがいるとなんとも気まずくなる。

「お初にお目にかかります。ユウマ様。私はモカハラ家のタフィーと申します。この数日間お世話を担当させて頂きますので以後お見知りおきを」

「それは……よろしくお願いいたします。タフィーさん」

 淡い胡桃色のセミロングでやわらかな毛先はパーマがかかっていてとても可愛い。

 メーデー家でダージリンさん達が来ていた単調なメイド服とは違い、タフィーさんが身にまとっているメイド服は可愛い路線の服になっている。

 頭に布ティアラの様なカチューシャを付け、両耳上には赤のリボンが結ばれている。

 胸元にも頭に着いていたリボンと同じ色のリボンが大きさを変えて着いており、これが可愛さの象徴になっていると言っても過言ではない。

 服全体は基本チョコレートのような茶色だが、襟元は白で肩のパフスリーブがとてもメイド感が出ていて素晴らしい。

 腰から下はシマシマ模様のエプロンのような模様でダサく見えそうだがタフィーさんだからなのか製作者の腕が良いのか、ダサくなど全く見えない。

 まだまだ語れてしまうの自分がとても怖い。

 決してダージリンさんの単調なメイド服がダサいや似合ってないという訳では無い。

 どちらかと言うとあちらの方が王道のメイド服ではあるが、こっちはアキバ感のあるメイド服で少しテンションが上がってしまっただけだ。


「タフィー君長居させて悪かったね。二人で話したいことがあるから席を1度外して貰えるかな」

「かしこまりました」

 タフィーさんは紅茶を入れ終わると部屋を後にした。


「さ、ユウマくん。作戦実行日は明日なんだからしっかり体調治してくれよ」

「大丈夫だ。ただ酔っただけだからもう平気さ。それより、プランダール家に俺なんか無名の冒険者が入っても良いのか?」

「実家は入れないかもしれないけど、ここは僕の家だからね。誰かに文句を言われる筋合いは無いのさ」

「そうなのか。すごいな」

「これも父上の功績で手に入れた様なものだ。故に失う覚悟もしてる」

 こちらを見ながらだがどこか遠くを見てるように呟くように言った。

「俺だったら権力と富に走っちゃいそうなのにすごいよなインハルドは」

「ハハありがとう。……本題だが今回の敵は父上だけじゃなく、ソウルイーターと言う悪魔も多分出てくると思う。奴は強い」

 そういえばアリスも悪魔が関係すると言ってたな。

「それはどのくらいだ?」

「僕は1度負けた」

 インハルドは少し神妙な顔をして言った。

「そうか。ちなみにインハルドはどのくらいの強さなんだ?」

 言うてもこの世界に来てまだ数週間。

 知らないことがとても多い。

「騎士団長って肩書きを貰えるくらいには強いかな。けど、歴代の騎士団長の中だと弱い方だけど」

 インハルドは謙遜するように頬をかいていった。


 その後も作戦を煮詰めていくと、他の用事の時間らしくインハルドは部屋を出て行った。

 急に静かになった部屋に違和感を覚えながら明日の作戦を復唱するようにイメトレする。


 プランダール暗殺後悪魔たちが現れたら倒す。現れなかったらわざわざ倒す必要は無い。

 けどアリスを助ける為にはソウルイーターも倒す必要が必要との事。

 たった2人での決行。

 軍隊とか率いていきたいがそんな事をしたらしっぽ巻かれて救出のチャンスも失ってしまうから仕方ないか。


 悪魔相手ならやっぱ神の力……光系の魔法が強いのかな。

 試してみたいが悪魔はそうそういないし。

 ぶっつけ本番になっちゃうか。



 ーーーーーー



「御二方様。お気を付けてください」

 時刻は深夜0時を回った所。

 太陽は沈み街を照らすのは電気とはまた違ったこの世界独自の灯篭のような物だけになった。

「直ぐに戻るから屋敷のことは任せたよ」

「はい。暖かいお風呂とお食事を準備しておきますので生きて帰ってきてくださいね」


 見送りに来てくれたコフィーはメイドとしての願いより1人の乙女としての目でインハルドを心配しているように見えた。

「作戦は覚えてるねユウマくん」

「ああ!バフスキルはもうかけまくったし、作戦も頭に入ってる」

「では行くよっ!」

 インハルドの言葉に合わせて俺とインハルドは飛び立ち、夜の街に消えていった。



 ーーーーーー



 作戦はこんな感じだ。

 プランダール伯爵は毎回この時間に神に祈りを捧げる為教会に向かうらしい。

 そこを強襲しアリスの居場所を履かせ殺害後死体を信用出来る仲間に回収して貰いソウルイーターが現れたら戦うと言った感じだ。

 あくまで今回の目的はアリスの奪還とプランダール伯爵の殺害だ。



 民家の屋根を転々とし背の高い煙突に飛び進めていくと一つの馬車が人気の無い道を走っていた。

 その先に目をやるといかにもな中世の教会が立っていた。

「あの馬車か?」

「間違いない。あの馬車はプランダール家の物だ。それにあれは上位の人間しか乗れない……確定だな。行くぞ」

「あいよっ!」

 俺はスキルによって何倍にも速度が上がった脚で一気に民家の屋根を駆け下り馬車が通る道の脇に先回りして飛び立つ。

 フードを被り御者にバレないようこっそりと息を潜めて茂みに隠れる。

 そして馬車が目の前に来た瞬間、その何倍にも上がった脚力で一気に地面を蹴りあげ馬車に近ずき御者を蹴り落とた。

「……すまないな」

 膨れ上がった脚力から放たれた蹴りは凄まじかった。良くて瀕死ってところだろう。

 俺は直ぐに手綱を握り暴れる馬を宥めると何事もなかったかのように馬車を進めた。

 ここにきてフレイとアリスの教えが役に立つとは思わなかった。

 俺の役目は務まった。

 あとはインハルド次第だ。

 そう思い新しく覚えた魔法を使い覗き見る。


「いつの間にここに来た。我が息子よ」

 これがプランダール伯爵か。噂通りの見た目だな。

 どうすればインハルドみたいなイケメンが産まれるのかとても気になる。

「簡単な話です。テレポートってご存知ですよね。それよりも私はとある少女を探しているのですがご存知ですよね」

「なんの話だか」

「シラを切るおつもりですか?」

 インハルドは鞘から剣を抜きプランダール伯爵の喉元に突き付けた。

「貴様この行為がどれだけの重罪か勿論分かってのことだな?」

「ええ、それは勿論」

「この剣を今すぐ降ろすというのなら極刑は辞めてやろう。さあ降ろせ」

「そのような脅しは何一つ通用しませんので。御自身の身が可愛いのなら早めに白状した方がいいとお思いですよ父上」

 インハルドは剣を降ろすどころか喉元を掠め、赤い血が1本垂れ剣を伝った。

「まさか実の息子にこうやって剣を突きつけられる日が来るのは……なんということか」

「それで少女の居場所はどこだ」

「お前も言ったことがあるだろ。この先の教会だ」

 肝が据わっているのか、泣き喚いたり無様に抵抗するとこなく居場所を吐くプランダール伯爵。

「そうか……ユウマくん。この先にアリスくんが居るみたいだ。それと魔法を切りたまえ」

「……分かりました」

 俺が通話を切るように魔法を切ると、断末魔が聞こえた気がしたが春の夜風がそれを包み捨てた。


「馬車で行くより走った方が早いから走っていくよ」

 客車から身を乗り出しそう言ったインハルド。

「でもこの馬車は?」

「仲間に纏めて持って行ってもらうよ」

「分かりました」

 俺とインハルドは馬車を止め走り出す。


 前世もこれだけ足が速ければ小学校の頃モテたんだろうな。

 世界記録を軽く超えてしまうような速度で軽い山道を走り抜け教会の入口に着く。

 辺りを確認し敵らしき物体が居ない事を確認する。

「いやあああっ!!!」

 甲高い少女の悲鳴が教会奥の方から聞こえ、俺の足は走り出した。

 スキルの効果はもう切れただの一般人が走った。



 ーーーーーー



 深夜0時を回った頃教会では真っ白の服に身を包んだ不気味な人型の物体ソウルイーターが祭壇に寝かせた少女……アリスの横に立っていた。

 2人を照らすのは月明かりのみで誰がどう見てもやばい光景だ。


「さて、そろそろ来るはずだが……もう時期失ってしまう少女のせめて最後の1滴を頂くとするか」

 ソウルイーターはナイフを取り出すとアリスに切り傷を与え血液をコップに入れる。

「ふんふんふんふっふん」ノリノリでまるで人のように鼻歌を歌いながら血液をコップに溜める歪な姿。

 そんな悪魔は悪魔すら恐れそうな悪魔的思考を思いつき口に出した。

「そういえば人間の女には処女と言う大事な物があるらしい……確かそこの膜を破ると血液が出るとか……」

 ソウルイーターは一旦手を止め近くに置いてあった本を取り無作為にページをめくる。

「やはりだ!……なになに、好きになった人に上げるのが一般的でレイプなどによって失った場合ショックで自殺したりする者が出る程に重要視する人間も多いか。そうかそうか……流石に我もそこまでの鬼では無いが……どうしよう本当に気になってしまった」

 ソウルイーターは葛藤し祭壇の周りを唸りながら歩き回る。

「寝込みを襲うと言うのはなんというか倫理的にアウトな気がするがこの探究心を放置プレイするのも違う気がしてならない……悪魔の我が何を倫理的だと思うかもしれないが……待てっ!我はいつからこの少女が処女だと錯覚していた!?」

 そう言ってソウルイーターはアリスのスカートの前に立ちパンツを眺めた。

 ナイフをカランと床に落としスカートの中に手を入れパンツの指先で掴むとゆっくり降ろす。

「お、おうおうおっほほ」

 気味の悪い声を立てながらパンツは下がっていく。



 ーーーーーー



 風が冷たい。

 段々と覚醒していく意識の中で最初に感じたのは風の冷たさだ。

 そしてその冷たさは特に下半身……なんなら秘所がやけに涼しいと言うか……。

 寝すぎでだるい体を持ち上げ上半身を起こすと、鼻息荒くスカートの中に手をかけパンツを引っ張る私を拐った悪魔が鼻息荒く居るではないか。

「……え?」

 と言う悪魔と目が合うとソウルイーターは何事も無かったようにパンツを下にずり下げた。

「いやあああっ!」

 私はたまらず叫んだ。

「ま、待つのだ魔法使い。これは決して貴様ら人間で言うセクハラや痴漢という訳では無い!わかってくれるよな」

 剥ぎ取ったパンツを片手に醜い弁明を始めるソウルイーター。

 こいつはどう殺してやろうか。

「おい悪魔」

「はい。なんでしょう」

「正直に話せ。なぜ私のパンツを脱がした」

「興味が湧いたから」

「パンツに?悪魔にもパンツ好きは居るのですね。より救えないです」

「誤解をしているようだが、我はこんなちんけでどうしようもないパンツなどなんの興味もないのだ。ただその奥にあるとある膜に興味が湧いてな」

「ぶっ殺しますよ?」

 手に魔力を集めメラメラと煌めきいつでもお前を殺せるぞとアピールする。



 ーーーーーー



 頼むから無事でいてくれ。

 俺は心からそう願うしか無かった。

 無力な俺には神に祈ることしか出来ない。

「アリス!アリス!アリス!……アリス!」

 部屋を一つ一つ手探で開けて探していく。


「アリス!大丈夫か!」

「ユウマッ!」

 最奥の部屋でアリスとどう見てもやばい悪魔がそこには居た。

 パンツ片手に佇む白色服を身にまとった人型の悪魔?は、こちらを見るとゆっくりと近ずいてくる。

「初めまして。我の名はソウルイーター。最近読んだ漆黒聖典とかいう本に影響され我と読んでいるが気にしないでくれたまえ」

「お前がソウルイーターか」

「その通りだ、はるか遠い世界を渡り2度の死を遂げ今に至る可哀想な男よ。我がソウルイーター。貴様の目的は分かっているそこの少女を取り返しに来たのだろ?」

「2度の死とか世界を渡ったとか意味のわからないこと言ってないで早くアリスを返してはくれないかな。そいつは俺の大事な仲間だ」

「もちろん返すさ。依頼主が既に息絶えてるのでは捕まえておくメリットが無いのでな。そんな訳で行っていいぞ、そこの少女よ」


 ソウルイーターは抵抗や暴れること無く素直に従いアリスを解放した。


「ユウマ。お久しぶりです。ありがとうございます」

「おう。久しぶりだな待たせて悪かったよアリス。……なんか凄い傷だらけだな」

「これはあいつが私の血を飲む為に切り付けた後です」

 アリスはソウルイーター睨み指さした。

「ああ大変美味だった」

「うわぁ……」

 俺は思わず心の声が漏れてしまった。


「では我はここらで退散させてもらう。さらばだ。遠い世界のもの達」

 その言葉を残し瞬きするとその場にはもう奴の姿は無かった。


 遠い世界の者。

 俺とアリスが転生した人間だってことを知っているのだろうか。

 ひとつの事を考えると他にいくつもの可能性が生まれ考えるのをやめたくなってしまう。

 その感情に従い何かを考えるのは辞めた。

 追いかけてもいいのだがアリスはこの傷だし、ソウルイーターの討伐は絶対ではないし……。

「それじゃ帰るか」

「そうですね」



 ーーーーーー



「アレがユウマと言う人間か。実に興味深い」

「1週間ぶりか?ソウルイーター」

 空を飛ぶソウルイーターの動きはピタリと止まった。

 下を見下ろすとインハルド姿を目視したソウルイーターは地上に降り立つ。

「何か用かな?」

「お礼を言いたくてな」

「お礼?」

「ああそうだ。父上を殺す決意と実行に移せたのは少なからずお前のおかげだ。ありがとう」

「……なんと悪魔で普段人間から恨まれることをしている我がこうしてお礼を言われるとは……だまくらかされたな」

 少し悔しそうにしたソウルイーターは唇をかんだ。

「それと、1つ聞きたいことがある」

「なんだ?」

「何故毎回俺を見逃し今日もユウマくんとアリスくんを見逃した?」

「前にも言ったように未来視だ。我には未来が見える。我が望む未来を手に入れる為には、お前も先程の2人も必要な人材と未来が言っている。それ以外に理由が居るか?」

「お前の望む未来ってのはなんだ?魔王に支配された世界か?」

「質問は1つとお前が言ったのだろ?答える義理はないな」

 その言葉を言うとソウルイーターは再び宙に浮き、「我は魔王が嫌いだ」そう言うと光の速さで飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る