第12話 フリースロー

スパッ! パス! ゴン、ポス! 

スパッ! スパ!!


 体育館に、ボールがリングに吸い込まれる音が鳴り響いていた。


 リングに一回バウンドしてから入ったシュートもあったが、指先でボールを回転させながらシュートを放っているため、リングに弾かれたボールも回転しながらネットに吸い込まれる。


「ふう、次で30本だ!」


  スパ!!


 【30】


「いいね、全然疲れねぇ! このままノーミスでクリアしちまうか。」


  シュッ! 

  ガン!


 放たれたボールはリングの中心の手前で落下し、リングに弾かれた。


「だあー! やっちまった! 調子に乗っちまったか! クソっ!」


 30本というキリのいい数字で集中が乱れた。


   【9999】


「ん? 残りの回数もカウントしてくれるのか!?」


 入ったシュート数が表示されていた隣に、残りの回数も表示される。


2時間経過


   【9841】


「はぁはぁはぁ……だめだ。100本きつすぎだろ。最高67本……3分の2か。もう無理、集中力きれたわ。」


 俺は、コート上で大の字になって横たわり、右腕を目の上に置いて目を閉じて呟いた。


「思ったよりもきつすぎる。クリアできっかなぁ……。」


「随分リラックスしてるニャ、終わったニャ?」


 アズは大きく伸びをすると、寝ている俺に近づいてきた。


「いや、思ったより厳しいわ。電光掲示板見ないようにしてるんだけど、ゴールの先にあるからどうしても目がいっちまうんだ。んで数を意識すると、集中が切れちまう。」


 俺の弱音に、アズは呆れたような声を出した。


「あれだけ自信満々だったのに、情けないニャ。」


「悪い……ちょっと一人ではクリアできそうにないわ。アズ、ちょっと手伝ってくれないか?」


「猫の手も借りたいとはこのことニャ。」


「うまい事言うなや。俺が10本決める毎に数字を言ってくれないか?電光掲示板は見ないようにして、10本区切りで集中しようと思う。」


「めんどくさいニャ…自分で数えろニャ」


「どうせやる事もなくて暇なんだからいいだろ。」


「仕方ないニャ。そのくらいなら手伝ってやるニャ」


「わりいな。よし、じゃあちょっと休憩したら再開だ!」


5時間経過


   【9479】


「外しすぎニャ、もう止めるニャ」


 俺は疲れ果て、フリースローラインの上にへたり込んだ。


「プファ! ああ、もう無理……。立つのも辛いんですけど……。」


「後半全然入ってなかったニャ。」


「いや、何か体が重くなってさ……ってか普通に疲れるんだけど?」


「ここで肉体的な負担はないニャ、でも精神が疲れると肉体もヘトヘトに感じるニャ。」


 あれから5時間もやってみたものの、結局最高記録は67本を超えなかった。


「寝たら疲れってとれるのかな? ちょっと限界っぽいわ。」


 俺はかなり疲労しており、少し休んだくらいでは回復できそうもない。


「当然寝れば精神は回復するニャ、肉体の疲れもとれるニャ。」


「そっか……じゃあ寝ることにするわ。」


 今日一日、精神をすり減らし切った俺は、すぐにその場で泥のように眠ってしまった。


俺は夢をみた……。


 俺は、部活帰りにコンビニでジュースとポテチを買って、くだらない話をしてる。

 当時好きだった娘の話や嫌いな奴の話。

 一緒に話している友人の顔にモザイクがかかっていてよく見えないが俺は楽しそうに笑っていた。

 家に帰ると優しい母親が大好きなハンバーグを作ってくれた。

 でも母親も顔がはっきりと見えない……。

 気づくと俺は一人で泣いていた。

 何がそんなに悲しいのだろうか?

 わからないけど俺は、ずっと泣いていた……。


「帰りたい……。」


「ん? 起きたニャか?」


 俺はアズの声で意識が戻る。


「あぁ? おはよう。なんか寝たらスッキリしたわ。夢を見た気がするけど思い出せないな。」


「ニャ? 帰りたいってつぶやいていたニャ。起きたのかと思ったニャ。」


「帰りたい? そっか、帰りたいよな……。ん? なんかいい匂いがする!?」


 俺は近くにいるアズの方を見ると、ハンバーグとコーラにポテチまでが置いてある。


「アズが用意してくれたのか!? どっからこんなものを……お前最高だよ!」


 俺のテンションはMAXに上がった。


「にゃあは何もしてないニャ、シンが目覚めたら出てきたニャ。ここは精神の世界と繋がっているから、心から欲した物が現れたりするニャ。」


「まじ? 最高かよ! っつかそんな大事な事は最初に言ってくれ。なんか急にお腹が空いてきたわ! 空腹は最高のスパイスだぜ!」


 俺は、試しにフォークとナイフを想像すると、手元に現れる。


「うお! まじで出た! すっげぇ!」


 俺は、フォークとナイフを使ってハンバーグを勢いよく食べ始める。


「うめぇ! これ、母親の味だ! うまいよ……かぁさん。」


 こんなに美味しいのに、何故だか涙が止まらない。

 もう、あの頃には帰れないんだ。

 ふと、そんな事を考えて、悲しくなる。


 それを誤魔化すように、がむしゃらにハンバーグをむさぼった。


「慌てなくても、誰もとらないニャ。」


 そういうアズはいつのまにかササミを食べている。


 こいつも出せるんかい!

 何でもありだなここ。


「いやぁ、なんかめっちゃ回復したわ。俺、復活!!」


 心身共に回復した俺は、再びフリースローの試練に挑戦するのだった……。



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