第4話 もう、お嫁さんですね

「私、冬馬くんの専属の家政婦さんになりたいの……ダメ、かな?」


 それはもう、お嫁さんなのでは?


 俺は実際にツッコんだし、心の中でも改めてツッコんだ。


「……あの、俺はまだ高校生なんですけど」


「そ、そうだよね、ごめんなさい」


 お互いに顔をうつむけて、少し気まずい空気が流れる。


「……けど」


「え?」


「俺も桜田さんのことが……好きだと思います。まだ会ったばかりで、美人でスタイルが良いことしか知らないけど……作ってくれる料理の温かさから、桜田さんの人柄が伝わって来たし」


「冬馬くん……」


「だから、今すぐお嫁さんにもらうとか無理だけど……もっと、あなたと一緒に居たいです」


 自然と、お互いに手が触れ合っていた。


 桜田さんの手はしっとりと滑らかで、大人の女性の手だと思った。


「私も、もっと冬馬くんと一緒に居たい……」


 自然と、お互いに見つめ合って、顔が近くなっていた。


 そこでハッとなり、さすがに距離を置く。


「……私ね、理想の旦那さまを探していたの」


「えっ?」


「そのために、家政婦の仕事をしていたの。下心満点で恥ずかしい女よね」


「いや、そんなことは……」


「でも、おかげで、ようやく出会えたの」


 桜田さんはきれいな瞳でジッと俺のことを見つめて来る。


「俺、そんな大した男じゃないですよ? まだ子供だし」


「大丈夫、これから私と一緒に大人になれば……って、これ何だかエッチなお姉さんのセリフみたいね」


「さ、桜田さんは、エッチなお姉さんなんですか……?」


「こら?」


 コツン、と軽く頭を小突かれる。


「でも、冬馬くんが望むなら、私はいつだって……」


 と言いながら、桜田さんはエプロンを肩から外す。


「だ、大丈夫です、まだ!」


 俺は必死に止めた。


「ふふふ。まだ、ね」


 桜田さんは意味ありげに微笑む。


 この人、意外としたたかかもしれない。


「とりあえず、私はもう家政婦の仕事はやめるの。別のパートでも始めようかな」


「桜田さん、今は一人暮らしですか?」


「うん、そうだよ」


「だったら……一緒に暮らしませんか?」


「えっ?」


「何だかんだ、俺も一人じゃ寂しいし、桜田さんが一緒に居てくれたらきっと……すごく楽しいと思います。まあ、こんなに美人なお姉さんがそばに居たら、舞い上がって学業がおろそかにならないか心配ですけど」


「冬馬くん……安心して。私がちゃんと管理してあげるから」


「か、管理ですか?」


「だって、旦那さまの健康管理は嫁の仕事でしょ?」


「そ、そうですね」


「……他にも色々と管理したいけど」


「えっ?」


「ううん、何でもない」


 桜田さんは笑顔で首を横に振る。


「じゃあ、桜田さん……」


「可奈子」


「へっ?」


「名前で呼んで欲しいな」


 美人にずいと迫られて、俺は少したじろぐ。


「わ、分かりました……可奈子さん」


「冬馬くん、これからお世話になります」



 こうして、まだ仮みたいなものだけど。


 桜田さん……いや、可奈子さんが。


 俺の専属家政婦さん、というか嫁になってくれた。







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