熱き教育実習と登校拒否⑦




熱司が向かった先は不登校の生徒である琉生の家。 調べてはきたが、本当にごく普通な場所に住んでいるため手こずってしまう。 不登校だからと言って特別なことは何もない。 

普通の生徒が学校に来れなくなっている。


「ここで合っているよな?」


琉生の家は一軒家で、表から見て二階のカーテンが閉まっていた。 そこが琉生の部屋とは限らないが、カーテンの柄がテレビでよく見るキャラクターものだったため当たりをつける。 

熱司は家の前でもう一度資料を確認した。 傍から見れば不審人物に見えそうだが、格好は教師っぽい格好のままのため大丈夫だろう。 一度深呼吸をしチャイムを鳴らした。 

不登校の生徒に教師として接するのは当然初めて。 それでもデリケートな状態であることは分かる。 熱司は熱くなりやすいタイプなため、冷静に自分を諫めてやる必要もあった。


『・・・はい』


インターホン越しの声はとても不安気でか細い。 女性の声のため、おそらく琉生の母なのだろう。


「懐小学校の4年1組で、教育実習をさせてもらっています。 熱司です」

『・・・はぁ』


斎藤先生が琉生の家とどういった付き合いをしているのかは分からないが、教育実習生が来ているということは知っていてもおかしくない。


「お宅の琉生くんが長期で休んでいると聞いて伺いました」

『・・・斎藤先生から、今日実習生の方が来るなんて聞いていませんが?』


言っていないのだから聞いているはずがない。 言ったところで快く肯定されるとは考えてすらいない。


「自分の判断できました」

『・・・ちょっと待っててください』


待っていると家の中から母が出てきた。 疲れているのか痩せ細って見える。


「・・・本当に教育実習生なのですか?」


怪しむようにそう言われたため、学校からもらった名札を見せた。 それを見ると不満気だが信じてくれたようだ。


「・・・それで、伺った理由は?」

「琉生くんとお話させてもらってもいいですか?」

「・・・きっと無理ですよ。 私やお父さんでも、まともに口を利いてくれないので」

「部屋からは出てきていますか?」

「・・・いえ。 いつも自分の部屋に閉じこもってばかりです」

「最近外出などは?」

「・・・外へも出ていません」

「外へ出るよう、促してはみましたか?」

「・・・いえ。 息子の気持ちを優先したいので」


その言葉にどこか引っかかるものを感じた。 話していないのに気持ちが何故分かるのだろうか。 確かに熱司は琉生のことは何も知らないと言っていい。 

だからといって、この様子では母親も琉生のことをよく分かっていないのではないだろうか。


―――息子の気持ちを優先、か。


「学校へ行かなくなった原因を伺ってもよろしいですか?」

「・・・息子は発達障害だということを知っていますか?」

「はい。 存じております」

「・・・障害があるということから周りからはからかわれ、それが嫌になって引きこもるようになったんです」


―――やはりそうだったのか。

―――そこは想定していた通りだったな。


「なら、尚更琉生くんとお話させてください」

「・・・でも」

「お願いします」


粘ると渋々許可を出してくれた。 家の中へとお邪魔し、琉生の部屋の前へと誘導される。 母が立ち止まったことを確認すると静かにドアに向かって言った。


「琉生くん、初めまして。 今教育実習生として4年1組を任されている熱司だ」

「・・・」


何も反応はない。 それは分かり切っていたことだった。


「俺は君を学校へ行くよう言いにきたんじゃない。 君の将来を明るく照らしに来たんだ」


―――無理矢理『学校へ行け』と言うのはよくない。

―――お母さんのその判断は正しい。

―――だけど学校と琉生くんの両親は、琉生くんをあまりにもほったらかし過ぎなんだ。

―――放っておくのと彼の気持ちを尊重するのとでは、全然違う。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る