熱き教育実習と登校拒否③




三時間目の算数の授業を挟み、四時間目となった。 調理実習後になる体育の授業で少々不安だったが、流石は子供というべきか案外平気そうだ。 

あまり無理をさせるわけにはいかないが、この授業でも考えていることがあるためそうはいかない。 着替えてグラウンドへ向かう。


―――まだ秋だというのに寒いな。


そう思いながらも熱司はタンクトップに半ズボンを履いている。 斎藤先生は完全防備のジャージのため対照的だ。


「寒くないんですか?」

「もちろん寒いですよ。 でも、指導する側が見本を見せないと話になりませんから」

「?」


斎藤先生は頭に疑問を浮かべながらも、またしても熱司が何かをやらかすのではないかと不安そうだ。 今日のことについて斎藤先生とはほとんど話し合いをしていない。 

もちろん基本的なことは決めてあるが、指導方針については全て任せてもらっているのだ。


―――よしッ、いっちょやるか!


気合を入れ直すとグラウンドへ向かって走る。 階段を駆け下り、ジャンプしてポーズを決めると生徒たちから歓声が上がった。 ほとんどの生徒が既に体操服に着替え集まっている。


―――男子は見るからに寒そうだ。

―――その反面、女子はとても温かそうにしている。


その理由は女子は身体が冷えないようにジャージを着ることを許可されているためだ。 誰だって寒いのは嫌だから、ほとんどの女子が斎藤先生と同じようなジャージを着込んでいる。 

もっとも斎藤先生は年配であるが男性なので一人不公平と思えなくもない。


―――そんな男女差別、俺が許すわけがないだろ?


「よーし! 授業を始める前に、まずは女子! ジャージを脱ごうか!」

「「「えー」」」


熱司の提案に初めてブーイングが来た。 もちろんそれは女子からだけで、男子生徒たちも思うところはあったのだろう。


「熱司先生! ジャージを脱いだら寒いです」

「そりゃあ、当たり前だな。 でも男子を見てみろ。 凄く寒そうだろ?」


女子生徒は男子を見る。 男子は半袖半ズボンで手を擦り合わせている。


「男子だけに寒い思いをさせていいのか?」

「でも先生! 男子は寒さに強いんじゃないんですか?」

「同じ人間なのにどうしてそう思うんだ?」

「・・・」

「寒さに強い男子もいるのかもしれないが、もちろん弱い男子もいる。 さぁ、女子もジャージを脱いで。 大丈夫! 動いたらすぐに身体が温まるから!」


女子は不満を露わにしながらもジャージを脱いだ。


「もちろんジャージを着ることが悪いわけではない。 怪我もしにくくなるしいいこともある。 だが、今すぐ男子生徒にジャージを用意しろって言うのは無理なのが分かるだろ? 

 だから、申し訳ないが女子にジャージを脱いでもらったんだ」

「そういうことなら・・・」


とりあえずそれで納得してくれたようだ。 それにまだ真冬ではないため体罰になることもないだろう。 相変わらず斎藤先生の視線は鋭いが、熱司は気にしないことにしている。


「よしッ、まずは準備運動からだ! みんな、俺をよく見て真似をしてくれ!」


柔軟体操を終えると、熱司オリジナルの準備運動を始めた。 最初から少々ハードな動きだが十分に温まる。 終わってから女子を見るともう寒くなさそうだった。


「どうだ? 温まっただろ? 身体を動かせば気分もよくなる。 いいことだらけだ」


生徒たちの笑顔が戻ってきた。


「さて! 今日の授業だが、好きなものを各々一つ選んでもらう」


そう言って用意した『竹馬』『ボール』『フラフープ』を見せる。


「竹馬は乗りながらグラウンド五周。 ボールは蹴りながら五周。 フラフープは一人連続100回回す。 これが課題だ」


自分が好きなものを遊べるように考えた授業だった。 


「同じ種目のメンバーはチームになる。 苦手そうな子がいたらチーム内でフォローし合え。 終わったチームから、自由時間にしていいぞ」


それに加えチームでの協力を目的とした授業だ。 ただ順調に始まると思ったところ、突然教頭先生がグラウンドに現れたのだ。


―――斎藤先生が言ったのか・・・。


やろうとしていることに対して文句をつけることはない。 ざっと見渡し見ているのは服装のことだ。


「熱司先生! 困りますよ! 女子の身体が冷えたらどうしてくれるんですか!?」


校長先生と教頭先生が女性だということは知っている。 この学校において、女子が優遇されるところがあるのはそのせいなのかもしれないと思っていた。 

もっとも今のような方針になったのがいつからかは分からない。 ただ調べたところここ数年から十数年くらいの話で、学校設立当初はそんな方針はなかったようなのだ。


「こんなに動いていたら大丈夫ですよ」

「女子が風邪を引いてしまったら!?」

「男子は風邪を引いてもいいと言うんですか?」

「ッ・・・」

「では俺は見回りに行ってきますので」


何も言えなくなった教頭を見て背中を向ける。 別に悪いことをしているわけではない。 学校の方針はともかくとして、生徒指導において不適切なことは何もしていないのだ。 

授業が半分くらい進むと先にフラフープのチームが終わり自由時間となった。 元気にジャングルジムで遊ぶ生徒たちに気になったことを聞いてみる。


「みんな! 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


ジャングルジムにいる生徒たちは熱司に注目した。


「いつも学校へ来ていない子って、どんな子か分かる?」

「琉生(リュウキ)くんのことかな? いつも静かで大人しい子ですよ。 何か言う時は何も聞き取れないですけど」

「ふぅん。 琉生くんね、ありがとう!」


気になっていた生徒のことが少しわかり、少しずつ男女平等も達成できている。 怪我をする生徒もおらず、体育の授業も満足な結果に終えることができたようだった。


―――・・・ただ教頭先生にマークされたのは、少し面倒かもしれないな。



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