第47話
「ねぇ、小春ちゃん」
「なんですか?」
バレンタインの話を数十分した後、奈那子先輩は頬杖をつきながら凄く優しい声で私の名前を呼ぶ。
「私、四月から三年生でしょ? 小春ちゃんたちは二年生」
「はい」
もうすぐ一月も終わる。長かったような、短かったような高校一年目が終わろうとしている。
「私、大学に行きたいから、来年受験生なんだ。受験勉強もしないといけないし、今もしてるんだけどもっとね。だからこうして今みたいにゆっくり小春ちゃんとか、翔琉とか悠斗くんとかとお話したりあったりできる機会が少なくなっちゃうの。翔琉とも付き合えたのに、来年はデートしたりする機会も減っちゃう」
「そうですね……寂しいです。せっかく二年ぶりに奈那子先輩とこうしてまた話せるようになったのに……」
今年は悠斗くんと付き合えて、悠斗くんと一緒に住めて、悠斗くんとクリスマスデートをして、そこで奈那子先輩と会えた。そして篠原くんとも仲良くなり、奈那子先輩と翔琉くん、悠斗くんと私でデートをした。
もうすぐこうして皆で遊んだり話したりする時間が少なくなると思うと寂しく思う。
奈那子先輩はもうすぐ受験生。私たちも後訳一年後には今の奈那子先輩と同じ立場になっている。
「私も寂しい。小春ちゃんと久しぶりに会えて、こうして話せるのに、翔琉と付き合えたのに、もうすぐ機会が少なくなると思うと胸が痛い。でも、しょうがないもんね」
奈那子先輩は両手を胸の前でぎゅっと握る。
私が奈那子先輩の立場ならどうしていただろう。
悠斗くんが私の後輩で、私は一つ歳上の受験生。そして悠斗くんとは同棲していない。
絶対に悠斗くんの事が気になって受験勉強に集中できないと思う。
「それでさ、心配なんだよね」
「何が、ですか?」
「翔琉、私に飽きないかなって。受験勉強で翔琉とデートも少なくなって、翔琉に振られたりしないかなって心配なの。高校生ならやっぱりデートとかしたいでしょ? でもそれができないならって振られないかなって」
奈那子先輩は弱々しい声色で話す。
でも、私は篠原くんはそんな理由で奈那子先輩を振ったりするとは思えない。
篠原くんは奈那子先輩とデートだけがしたくて告白したわけじゃないと思ってる。
「別に翔琉の事を信頼してないわけじゃないんだ。翔琉はそんな事しないって信じてはいる。けれど少しだけそう思っちゃうんだ」
「私も、心配いらないと思います。篠原くんはそんな人じゃないです」
「ありがと、そう言ってくれて。でも少しは息抜きとして皆で遊んだり全くなくなるわけじゃないから、また遊ぼうね」
「はい! また奈那子先輩とお話したいです」
「そうだ、受験勉強で思い出した。もうすぐ定期考査があるじゃん」
奈那子先輩は「嫌だ~」と机に突っ伏す。
「そうですね」
「頑張らないといけないなぁ~」
「私もです。お互い頑張りましょう。勉強も、恋愛も」
「そうだね、頑張ろうね」
バレンタインデーから一週間後に定期考査がある。
私は勉強が凄くできるわけじゃないから、悠斗くんに教えてもらいたいな。
「そろそろ帰ろうか、今日はありがとね」
奈那子先輩はさっきまでの不安そうな表情から笑顔へと変わり、可愛らしい声でそう言ってくれた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
気づいたらカフェに来てから約一時間くらいが経っていた。
本当はもっと奈那子先輩とお話したいけど、奈那子先輩の貴重な時間を奪うわけには行かないもんね。
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