バレンタインデー

第44話

「お待たせ、小春ちゃん」

「いえ、私も今来たところです」


 土曜日、私は悠斗くんのお家から最寄りのお洒落なカフェに奈那子先輩と来ていた。

 昨日の夜、奈那子先輩から『明日もし時間があったら一緒にカフェでお話しない?』と連絡が来た。

 私も奈那子先輩と久しぶりに二人っきりでお話がしたかったので直ぐに行きたいということを伝えた。

 

「久しぶりだね、こうして二人っきりでお話するの」

「そうですね。久しぶりで楽しみでした」

「私も楽しみだったよ。昨日は突然誘っちゃってごめんね。本当に用事とかなかった?」

「はい、何も用事はなかったです」


 今日は本当に用事は何も無かった。


「それなら良かった! じゃあとりあえず何か飲み物とか頼もうか」

「そうですね」

「あ、すいません。注文良いですか?」

 

 すると奈那子先輩は丁度横を通りかかった店員さんに声をかけた。

 その店員さんはお洒落で綺麗で凄い魅力的な女性だった。

 

「はい」

「じゃあ、私はカフェラテでお願いします。小春ちゃんは?」

「私はカフェモカでお願いします」


 私は悠斗くんと一緒に猫カフェに行ったときに飲んだカフェモカを頼んだ。あの時悠斗くんと一緒に飲んで凄く美味しかったから。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員さんは軽くお辞儀をして厨房へと向かって行った。

 

「よし、それじゃあ何からお話しようか」


 奈那子先輩は両手を合わせて笑顔でそう言った。

 奈那子先輩の笑顔はいつ見ても可愛らしい。


「私は奈那子先輩とお話できるならなんでも」

「うーん。じゃあこの間聞けなかった悠斗くんのどこに惹かれたのか教えてよ」

「い、いきなりですか⁉」

「あ、でも小春ちゃんが話したくなかったら無理に話さなくても良いんだよ?」

「あ、いえ。大丈夫です。私が悠斗くんのどこに惹かれたかですね。でも多分、奈那子先輩が思ってるよりも凄く単純な理由ですよ?」

「良いよ。ただちょっと興味があるだけだから」

「なら、言いますね。私、悠斗くんと席が隣なんです。だから知ってるんです」

「何を?」


 奈那子先輩は頬杖をつきながら私の目をじーっと見つめる。

 本当に興味があるみたいだ。


「悠斗くん、一人暮らしなんです。両親が仕事で良く海外に行ってて、滅多に帰ってこないんです。なんか、私と少し似ているなって思って、話しかけてみたんです」

「そっか、小春ちゃんも一人だもんね……」

「はい」


 奈那子先輩は勿論私が家に一人だったのを知っている。

 中学生の頃は良く私の家に遊びに来てくれて寂しさを埋めてくれていた。だから私は奈那子先輩が凄く大好き。


「それで悠斗くんに興味がわいて、いつの間にか悠斗くんの方に視線が勝手に行っちゃってて」

「うんうん」


 奈那子先輩はそう言って相槌をする。


「そんな日々を送っていたら、悠斗くんの良いところが沢山知れて、悠斗くん凄く優しいんです。優しすぎるくらい優しいんです」

「悠斗くん優しいよね~」

「はい、誰に対しても優しく接しているんです。そして家に帰っても私一人なので、ぬいぐるみをよく抱いているんです。その時に悠斗くんが頭から離れなくて」

「それで悠斗くんが好きって気づいたんだ」


 私は奈那子先輩の言葉に小さく頷く。

 いくら奈那子先輩にとはいえ、悠斗くんの事を好きになった時の事を話すのは恥ずかしい……


「こ、今度は奈那子先輩のお話聞かせてくださいよ!」

「うん。良いよ」

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