わたし 1

 ねえ、どうしてSNSやらないの?と聞かれると、途端に私はしぼんでしまう。

 単純に始め時を見失ってしまったということもある。私の家では、中学生の間はキッズ用携帯電話を持たされてたが、恥ずかしくて仕方がなく、友達の間では何も持っていないということにしていた。しかしその反動だろうか、高校入学を機に私がはまってしまったのは、出会い系のアプリだった。

 初めてネットで知り合った男はやけにタバコ臭いスーツを着たモルモットのようだった。身長165ぐらいの三十半ばの男で、決して美形とは言えなかった。

 実際に会うまでは強面のヤクザだったらどうしようとか、無理やり突き倒されるんじゃないかとか不安に思っていたが、いざ会うと「カフェでも行く?それか映画でも見る?」などと言ってきたので、私からホテルに行きましょうと言い出さざるを得ないほどだった。

「ぼく結婚してるんだ。言っておかないとじゃないと思ってね」 

 モルモットは「フェア」というところにアクセントを置いた。

 結婚していることを事前に言えば、勝負はフェアになるのだろうか?しかもラブホテルに入ってシャワーを浴びた後だというのに。それはサッカーの授業中に、ハンドをしてしまった白井くんがいきなり「俺、実はゴールキーパーだから」と言い出したときと同じような滑稽さを感じさせた。

 それならば私は年齢を偽って19歳ということにしていたが、実はまだ高校一年生なんです、処女喪失はついこの前の夏休みにゴールキーパー白井で済ませました、と今ここで白状したらそれはフェアになるのだろうかなどと考えてしまった。

 私は自分なりにフェアの形を考えてこう言った。

「そしたら一万円ください。私、それで我慢できます」

 モルモットは黙って一万円札を三枚くれた。

 それからと言うものの私は一週間に一度は新しい男と出会って身体を重ね続けた。そして厳格な風俗嬢がそうするように、部屋に入ったらすぐにお金を貰うようにした。実際のところ、私にとって金銭は重要なファクターではなかった。むしろまやかしだったと思う。私は彼らの身体が欲しかっただけなのだ。私は自分の性欲に対して激しい恐怖を感じていて、金銭を貰うことはある種の免罪符のような働きをしていた。

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