『もひかん☆えくすぷろーど』

 黒神くろがみ烈火れっかは主人公である。

 わりとバリバリで、それを自覚している。



 モヒカン/もひかん

1、ネイティブアメリカンの一部族。弓を射る際、邪魔にならぬよう頭の両側面を刈りあげていた。

2、1から転じて、頭の両側面を刈りあげて鶏のトサカのようにしたヘアスタイル全般。

3、世界の秩序が崩壊し、世紀末的な情勢に陥った際にパンデミックじみて大量発生する生物。「ヒャッハーッ」という特徴的な鳴き声を上げ、破壊と略奪を好む。


 突然であるが黒神烈火は今現在命の瀬戸際に立たされていた!

 マジでやばい!

 どんくらいやべえかっつぅと間違えて女性専用車両に乗っちまったときぐらいやばい!

 なぜなら烈火は世紀末拳法の世紀末伝承者であり、世紀末伝承者であるからには定期的にモヒカンをブッ飛ばして世紀末ストレスを世紀末発散させる必要があるからだ!

 これを怠って世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンを越えるまで貯め込んじまった世紀末伝承者の末路は悲惨である!

 あの、なんか、闘気的な、チャクラ的な、霊圧的な、血中カラテ的な、なんかそんな感じのアレが暴走を引き起こして体内をぎゅんぎゅんぎゅんぎゅん回った挙句、超絶世紀末大爆発を引き起こして世紀末跡形もなく世紀末吹っ飛んじまうからだ!

 これはやばい!

 世紀末やばい!

 どうする烈火!


「ふえーん、ママどこー?」


 しかし幸いなことに!

 烈火の目の前にはちょうどいい感じにモヒカンがいた!

 なんかめっちゃ小さい!

 しかしまぎれもなくモヒカンだ!

 頭の両側がツルっぱげで、中央がニワトリのトサカみてーに髪がピーンと直立している!

 色は伝統の赤! このモヒカン、わかっておる喃!

 そしてムッキムキだ! すっごい筋肉だ! どうやってこのバルクを維持してんのか全然わからねえくらいムッキムキだ!

 でもちっちゃい! なんかすげーちっちゃい! 背丈幼稚園児ぐらいじゃねこれ!

 だがモヒカンだ! やれ! 烈火! ブッ飛ばせ! 世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンだ!

 だが!

 あぁーっと!

 なぜだ烈火!

 ブッ飛ばさない!

 ここに来て烈火ブッ飛ばさない!

 拳を固めもせずにしゃがみこんだ! 烈火しゃがみこんだ!

 ちっこいモヒカンと目線を合わせる!


「おいガキ。おめーの名を言ってみろ」


 ここで烈火話しかけた! フツーに話しかけた! 何故だ! 何を考えている烈火!


「ぐすっ、えぐっ、えぐちさくら、です。ふえーん」


 ちっこいモヒカン、フツーに応えた!

 しかし、なんだと!?

 えぐち、さくらと言ったかこのモヒカン!?

 さくらっつったらおめー日本でいちばん多い女の子の名前じゃねーか!

 なんでこんな筋肉モリモリマッチョメンのモヒカンにそんな名がついている!?

 両親は何を考えていたのか!?

 だが、何の驚きも現すことなく、烈火はモヒカンの頭にぽん、と手を置いた!

 と、ここで! 見よ! 烈火の手を! なんか妙なことが起きている!

 モヒカンヘアーが烈火の手のひらを貫通している!

 あの、なんか、3Dゲームで、描画はされてるけど当たり判定はない物体みたいな感じだ!

 烈火の手のひらにはふわふわした髪の感触だけがある!

 それもそのはず! このちっこいモヒカンは、実はモヒカンでもなんでもないのだ!

 ただのちっこい女の子である!

 では! 何故! 烈火の目にはモヒカンに見えているのか!?

 それは烈火の心身を蝕む、とある奇病が関係している!

 いや奇病っつーか、烈火以外の誰もなってないのでそもそも病気認定されてるわけでもねーのだが、とにかく奇病だ!


 一定以下の強さの人間が全員モヒカン雑魚に見える病気ッッ!


 やべー!

 まじこえー!

 ぶっちゃけ全人類の九割九分九里以上はモヒカンに見える!

 20XX年、世界はモヒカンの海に飲み込まれた!

 そう! この病気ゆえに、烈火は本物のモヒカンを見分けるのにものすげー難儀しているのだ!

 今回はわりかし迷子迷子した言動だったし、それにちっこかったので識別は簡単だったが、これがそのへんのDQNとかヤクザだったら一気にわかりにくくなる!

 まぁ別にそいつらは代わりにボコってもいいような気がするが、モヒカンと違って一応ちゃんとした人間なのであんまり無茶苦茶やると後でいろんな人からめっちゃ怒られて超めんどくせーのだ!


「よーし、えぐちさくら」


 烈火は野性的な相好を崩し、笑顔を見せた!

 さすが主人公! 泣いてる迷子に救いの手を差し伸べる! すさんだ現代社会でも優しさを忘れない人間の鑑だ!

 烈火はそのまま包み込むような笑顔で言った!


「俺は天才だァーッ!」


 いや聞いてねえ!

 唐突なアミバ様に地の文も困惑!


「天才はあのーなんかいろいろ忙しいんだ!」


 ぽむぽむと頭をなでる!


「だからママは自分で探せ! 幸運を祈る!」


 立ち上がってスタスタ歩み去った! 再び泣きだすえぐちさくらちゃん!

 前言撤回! こいつ人間の屑だ!


 いやしかし今回は仕方ないと強弁できなくもない!

 世紀末ストレスが世紀末レッドゾーンなのだ! まじやべーのだ! のんびり迷子のママ探しやってる余裕がないのだ! このままでは超絶世紀末大爆発で日本にでっかいクレーターができちまう! 早いとこ手頃なモヒカンをブッ飛ばさなきゃ!(使命感)

 と!

 そこで!


「ヒャッハーッ! 迷子だァー!」

「ヒャッハーッ! 奴隷にしてやるぜェー!」


 MO☆HI☆KA☆N!

 モヒカンだァァァァァァッ!!

 この特徴的な鳴き声! 間違いねえッ!

 やったぞ烈火! 今度こそ本物だァーッ!

 見ると、二人の屈強で大柄なモヒカンが、ちっこいモヒカン(えぐちさくらちゃん)の首根っこをひっ捕まえて調子こいているッッ! もちろん棘付き肩パッドも標準装備だッッ!


「やだやだ、はーなーしーてー」

「ヒャッハーッ! 連れ帰って、あの、なんか、横向きの棒が八方に伸びててみんなで押してグルグル回す感じのよくわかんねえ装置を回す係にしてやるぜェーッ!」

「ヒャッハーッ! 隣には当然鞭持ったこえー監督役がいるぜェーッ! あの装置マジでなんなのかよくわかんねえぜェーッ!」


 おまえらもよくわかってねえのかよ!

 それはともかく烈火のツラが見る見るヤベーことになってってる!

 頬が歪みィー? 口の端が吊りあがりィー? 尖った歯列が覗きィー? 三白眼が三日月状に細められェー? 眼球に血管が絡みつきィー? お茶の間の良い子が見たら号泣不可避なレベルの凶悪邪悪極悪スマイルだァーッ!


「あひゃらららららららららららららっ!!」


 興奮のあまりわけのわからない奇声を上げながら、烈火は即座にアスファルトを蹴り砕いて突撃ィッッ! 口の端から涎がこぼれているッッ!

 一足一刀の間合いに踏み込んだ瞬間、右脚が跳ね上がったァァァッッ!!

 爆速で一閃ッッ!!


「あぱぺらぱっっ!」


 モヒカンAは胴を斜めに両断されてそれぞれのパーツがぎゅるぎゅる回りながらぶっ飛んでいくッッ!


「アッヒャアッッ!」


 烈火は蹴りの回転のまま完璧な後ろ回し蹴りを放つッッ!!


「でっべるるばっっ!」


 モヒカンBは胴を真横に両断されてそれぞれのパーツがぎゅるぎゅる回りながらぶっ飛んでいくッッ!

 ちなみにその瞬間モヒカンどもは赤い背景で黒いシルエットになっているのでゴア表現対策もバッチリだッッ!!

 さすがギャグ時空である!

 次の瞬間、烈火の腕の中にぽふん、とえぐちさくらちゃんが落ちてきた!

 それを合図にしたわけでもねーだろうが、二人のモヒカンはしめやかに爆発四散!

 後には何も残らない! モヒカン特有の消滅現象! 環境に優しい!

 烈火は蹴り足をゆっくりと戻し、残心する!

 生の充足が、体中を駆け巡る! ああすっごい俺今すっごいマジ生きてるわぁマジマジすっごいこれ!

 世紀末ストレスもちょっとだけ余裕ができた感じだ!


「えへへ、おにーちゃん、たすけてくれてありがとー。ぎゅーっ」


 えぐちさくらちゃんも輝く笑顔で烈火にしがみついてくる!

 しかし思い出していただきたい!

 烈火が患う奇病によって、現在彼女はムッキムキのモヒカンに見えている!

 それが輝く笑顔で抱きついてくる! 極めておぞましい光景だ!

 目の下に青い線が何本も現れる!


「あぁ、おう……」


 すっげぇゲンナリしてる! テンションだだ下がりだ!


「あっ、あにきだ!」


 と、そこで甲高い声が聞こえた!

 新たなモヒカンが元気よく駆け寄ってくる!


「おっすーあにき、なにしてんのー?」


 小柄なモヒカンだ! つってもさっきのモヒカンズ(本物)や烈火に比べればの話であり、さくらちゃんよりはずっとでっかい!


「ああん? コータか。わかってんだろおめー世紀末ストレスがやべーんだよマジマジどっかでモヒカン見てねえかこの野郎?」

「あー、世紀末伝承者って大変だねー。ごめんけどオレは見てないよ。というか最近モヒカンあんま出ないよねー」


 こいつはコータ! あの、なんか、幼稚園時代からあにきあにきと後ろをついてくる烈火の舎弟的なアレだ! 烈火から世紀末拳法をさわりだけ教わってて、伝承者ってほどでもねーけどけっこう強い! タイマンならモヒカンでも余裕だ!

 それでも烈火にはモヒカンに見えてしまうあたり、奇病の要求基準は高すぎだ!


「それよりその子どしたの? あにきの隠し子?」

「なわけねーだろおめー迷子だよ迷子。ママンとはぐれちまってんだよ。なー?」

「ねー?」


 肯きあう烈火とさくらちゃん!


「つーわけで、ほい」

「わわっ」


 烈火はさくらちゃんをコータに手渡した! アイテム扱いか!

 そして最高にいい笑顔でサムズアップ!


「任せた!」

「爽やかな育児放棄……!! 日本はどうなってしまうのか……!!」

「いやお前違うんだよ馬鹿野郎お前育児放棄とか人聞きの悪い、あのー、あれだよ馬鹿野郎、ほらあるだろほら最近さ、いろいろさ馬鹿野郎」

「特に何も言い訳を思いついてないけど適当な言葉を繋いで時間を稼ごうとしている!」

「正論やめろ殺すぞ! めんどくせーなオイこいつも育児も!」

「オブラート!! この子も聞いてるオブラート!!」

「つーわけでじゃーな!」

「あっ、こらっ!」


 烈火はダッシュで逃げてゆく!

 実にクズい!


「もー、あにきいっつも勝手なんだから」


 コータはぶすくれている!

 烈火もどっか行ったことだし、ここらでコータとさくらちゃんの本当の姿を明らかにしておこう!

 まずさくらちゃん! ふりふりした感じの服を着た五歳くらいの女の子だ! でっかいどんぐりまなこがひょこひょこ動いている! ちょっと茶色っぽいふわふわした髪も相まって、なんかぽややんとした子だった!


「おにーちゃん、いっちゃったねー」

「行っちゃったねえ。えっと、とりあえずオレは織咲(おりさき)小歌(こうた)ってゆーんだけど、お名前聞いてもいいかな?」

「うん。えぐち、さくら、ですっ」

「ちゃんと言えたねー。えらいえらい」

「えへへ~」


 コータはさくらちゃんを地面に下ろして頭をなでる!

 白くほっそりとした指先がふわふわの髪を梳いた!

 脱色した白髪の間から、くりくりとした悪戯好きそーな目がのぞく! 目の下には涙滴をイメージしたメイクがあしらわれていた!

 首には黒革チョーカー! 手首には黒革バンド! ドクロ柄の黒タンクトップ! シルバーチェーンのアクセ! 赤いフリルのついた黒いミニスカート! そこから伸びるふとももに沿うようにガーターベルト! んでもって赤と黒の縞々ニーハイソックス! 黒革ベルトで締め上げられたブーツ!

 そして特に注目すべきは黒タンクトップを窮屈そうに押し上げるパイオツであり、ドクロ柄に「三」の形の皺ができるレベルでむちむちと張り詰めておりますぞデュフフフフこいつぁ最低でもGカップいやいやことによるとHカップいくかもしれませんぜ旦那!!


「なんかそこはかとなくやらしい視線を感じるなー……」

「ほえ?」


 さすがギャグ時空! 第四の壁の規制がゆるい!

 ……ともかく、パンク娘だった!!

 しかしこめかみあたりでウサギのあみぐるみがついたヘアピンが髪を留めていて、そこだけ無闇やたらとファンシーだ!


「あっ、そのウサちゃんかわいいねー」

「お、さくらちゃんは目の付けどころが良いですな~。ちょっと前にあにきにもらったの。いいでしょ」

「いいないいなー。どこでうってるのかな?」

「うーん、オレもちょっと探してみたけど、見つかんないんだよね。シリーズあるなら揃えたかったんだけど」


 小歌は身をかがめてさくらちゃんのほっぺをぷにぷにした!


「でもさくらちゃんの方がかわいいよー」

「やう~、くすぐったいよぅ」


 ――なにこの天使持って帰りたい!


 などと危ない方向に行きかけた自分の思考をせき払いで中断させる!


「こほん。んじゃまー、とにかくママ探しにいこっか」

「うんっ」

「最後にママを見たのはどこー?」

「んーとね、えっとね……しょうてんがい!」


 そんなわけで小歌とさくらちゃんの、ママを捜して三千里が始まったのであった!

 などと壮大な冒険が始まった風な言い回しになったが、普通に商店街の交番に行って普通に聞いたら普通にママと連絡がついた! 所要時間十分!


「あらあらまあまあ、うちのさくらが本当にお世話になりました」

「あっと、えっと、そんな、た、大したことじゃ……」


 なんとなく良識的な大人からは白眼視されそうな出で立ちであることは自覚しているので、ちょっとしどろもどろってる小歌!


「ほら、さくらもお礼言いなさい?」

「こうたちゃんっ、ありがとー!」

「ふふ、ママに会えてよかったねー」

「お礼と言ってはなんだけど、小歌ちゃんって映画見る?」

「え? まぁけっこう行きますけど」

「ふふ、じゃあこれ、はい」


 映画のチケットを手に入れた! コメディ映画だ!


「えっ、いいんですか?」

「主人と三人で行こうと思ってたんだけど、あのひとったらまたどこか行方不明になってるから」


 さくらちゃんといい、離散しすぎだろこの一家!


「当分見つかりそうにないし、もったいないから受け取ってちょうだい? ふふ、彼氏でも誘ってみるといいわ」

「か、彼氏なんていませんよ!」

「あらあら、うふふ」


 ●


「う~~~モヒカンモヒカン」


 今、モヒカンを求めて全力疾走しているこの男は、世紀末ストレスを溜めたごく一般的な世紀末伝承者! 強いて違うところをあげるとすれば、一般人も全員モヒカンに見えちゃうってとこかナ――!

 名前は黒神烈火!

 そんなわけでモヒカンのリスポン地点を捜してあっちゃこっちゃ彷徨った挙句駅前の商店街にやって来たのだ!

 ……時はまさに世紀末!!

 老いも若きも男も女も、全員モヒカンだ!!

 らっしゃいらっしゃいと威勢よく客を呼び込むモヒカンに買い物袋片手に井戸端会議を開くモヒカンに駄菓子屋の前で車座になってモンハンやってるちっこいモヒカンどもに腕を組んでくっつきながら微妙に頬を染めて歩いているモヒカップルに、ってイチャついてんじゃねええええええええぞテメェらァァッッ! いやイチャつくなとは言わんがせめて視界に入ってこない場所でイチャつけよバカヤロウなんなのマジキモすぎんだろモヒカン×モヒカンとか誰が得するんだよそのカップリング! 真剣にSAN値がゴリゴリ削れるわ!!

 みたいなことを考えながら烈火は脂汗を流して必死にスルーする!

 と!

 そのとき!


「ヒャッハーッ! 爺さん! この新米あきたこまち10キログラムパックは貰っていくぜェーッ!」

「た…たのむ! 後生じゃ。見逃してくれ!!」


 モヒカンがモヒカンの酒屋から米を略奪している!


「そのパックを定価で売れば、さらに多くのあきたこまちを仕入れることができる! 今日より明日なんじゃ~!」


 それにしてもこの爺さん、ノリノリである!


「ヒャッハーッ! ますますこのあきたこまちを食いたくなったぜェーッ!」

「あひゃはああああぁぁぁぁぁッッ!!」


 烈火、背後から槍のごとき抜き手! 心臓貫通! モヒカンはしめやかに爆発四散!


「おう、烈火かいな。相変わらず暇そうじゃのう。うちでバイトでもせんか?」

「うるっせえええええよ礼の一つぐらい言えやクソジジイ! あと午後ティーくれ!!」

「126円な」


 購入した午後ティー(レモン)をゴッキュゴッキュ飲み干しながらさらなるモヒカンを求めて全力疾走!

 しかし――少ない!

 妙に少ない!

 いつもならもっと大量に徒党を組んで略奪に精を出すのがモヒカンという生き物だ! この少なさは一体どういうことか!

 モヒカンが沸く地域というものはだいたいの傾向があり、世紀末伝承者たちはそれぞれの縄張りを決めてモヒカン狩りを行っている! お互い無駄な衝突をしないための知恵である!

 してみると――つまり!?

 烈火の縄張りを侵すアホがいるというのか!?


「おいガキ! 最近俺以外の世紀末伝承者がこのへんうろついてなかったか!?」

「え? あー、それっぽいのいましたよ。なんか肩アーマーとマント装備でいっぱいモヒカン引き連れてました」

「SO☆RE☆DA!! どっちに行った!?」

「あそこの角を曲がって行きました……ってうわっ食らってる! 誰か粉塵!」

「もうないよー」


 烈火、モヒカンどもをかきわけて全力疾走! 角を曲がる!

 すると!


「強者は心おきなく好きなものを自分のものにできる……いい時代になったものだ」


 銀髪! ロン毛! 高そうな白スーツ! 肩アーマー! そこから伸びるマント! 優美な長身!

 イケメンだ!

 イケメンがそこにはいた!

 ……イケメンだと!?

 それはつまり烈火の奇病フィルターを通してすら元のままの姿で映る超希少人種であることを示していた!!


 ――世紀末伝承者!


 この世の食物連鎖の頂点!

 はっきり言おう! こいつらは軍隊でも止められない! 冗談抜きで一国を単独で制圧しかねない超絶ブッちぎり最強バイオレンス野郎どもなのだ! どんな法も奴らを縛れない!

 そんな絶対強者がここに! 烈火の前に現れたのだった!

 だが、烈火はぶっちゃけイケメンには興味なかった!

 興味があるのはパイオツとモヒカンだけだ!!

 そしてイケメンの周囲には大量のモヒカンがいた!

 ものっそい徒党を組んでた! 三十名はくだらない!


「アッヒャアアアアアッハッハハアアアアアアアッッ!!」


 残虐無惨スマイルで飛びかかる烈火! 血走る三白眼! 長い舌が犬みてーに口の端から垂れている! 知性の欠片も感じられねえツラだ!!

 だがッ!!


「ふん、下郎が!」

「どあっ!?」


 烈火の眼の前に白い影が立ちはだかったかと思えた瞬間、腕と肩を掴まれ視界が凄まじい勢いで回転ッ! 回転ッ! 回転しつづけるッ! 終わらないッッ!!

 客観的に見るとなんかもう小型の竜巻かと言いたくなるような勢いで烈火の体が超回転しながら宙を舞っていた!


「――散華せよ」


 イケメンがスカした仕草でクンッと指で地面を示すと、それに引っ張られるように烈火がアスファルトに垂直軌道で叩きつけられるッッ! 衝撃波が爆散して周囲の人々が騒然となったッッ!!


「ぐぎゃあ!!」


 めり込んだッ! 烈火地面にめり込んだッッ!! ていうか周囲はもうクレーターだッッ!!

 そのタイミングで画面がモノクロになったッ! テロップが入り、劇画調のフォントで「罪斗輪天舞」と技名が表示されるッッ!

 説明しようッッ! 罪斗輪天舞とは! あのーなんか合気道の相手をクルッて回して投げ飛ばす感じの技の、えーと、なんか、凄いバージョンであるッッ!!

 モノクロが解除され、時間は再び動き出したッッ!


「っっっってぇぇぇ~なクソがッ! あにすんだテメー!!」


 烈火跳ね起きる! 頭にはタンコブだ! 冷静に考えてそんなクソデカいタンコブが出来たらつべこべ言わず病院にダッシュすべきだがギャグ時空だったッッ!!


「ほう、今のでミンチにならんということは、貴様世紀末伝承者か」


 イケメンは頬を歪める!


「おうおうおう、テメーコラ、この超・天・才! 黒神烈火様のシマでなにやってんだテメーコラ。あん? 答えろや、おん? やんのかコラ?」


 よくもまぁここまでザコ臭い名乗り口上ができるものである!


「はっ! 我が名を問うか。相当な無知蒙昧と見える」


 ファッサーとマントを翻し、イケメンは凶悪な笑みを浮かべた!


「俺はツソ! 罪斗惨円拳のツソだ!」


 は?

 ツソ……?

 え、それが名前……!?


「ツソって……いやわかるよ? 何をパロってんのかは重々承知してるよ? でもおめーツソはねーだろ何その欠片も音読することを考えてないネタありきの名前は。何なの? お前の両親は子供の人生を何だと思ってんの? なんか抱えてんの? 嫌なことでもあったの? 食卓で会話とかあんの? 核家族なの?」

「……いや、なんで急にカウンセリング風なことになってんだ」

「ヒャッハーッ! ツソ様! 目的のブツを発見しやしたぜェーッ!」


 その時! モヒカンが手になんか持ってツソに駆け寄って来た! ていうかホントにツソなんだ……


「ククク、ごくろう。貴様らも適当に好きなものを略奪して良しッ!」

「ヒャッハーッ! さっすがツソ様! 話がわっかるゥー!」


 見ると、レンタルビデオショップがモヒカンどもの略奪を受けていた!


「ヒャッハーッ! このナウシカはもらっていくぜェーッ!」

「ヒャッハーッ! トトロも外せねえぜェーッ!」

「ヒャッハーッ! こいつゲド戦記なんて隠し持ってやがったぜェーッ!」


 謎のジブリ押しだ!


「フハハハハッ! 奪え奪え! 見ろ黒神! これが世の真理よ!」

「あー……まぁジブリおもしれえよな」


 違う! そうじゃない!

 しかし烈火の奇病は恐ろしいことに絵や写真やアニメも問答無用でモヒカン化させてしまう!

 ジブリ作品の中でモヒカン化を免れたのはアシタカとユパ様とハウルだけだった!!

 ナウシカはギリ駄目だった!! ダムシット!!

 そんなわけでわりと気のなさそーな烈火であった!


「ククク……それにしてもなんというパイオツか。滾ってきおるわ!」


 ツソはさっきモヒカンから献上されたブルーレイのパッケージを眺めてニヤニヤしている!

 そこには一人のモヒカンが写っていて、雌豹のセクシーポーズをしていた! 大胸筋がムッキムキだ! 頬を染めて微妙に唇を突き出している! 嘔吐不可避!

 烈火、ドン引きである!


「わざわざモヒカン従えてやることがAVの強奪かよ!」

「貴様ァ! 篠原ゆりの乳を愚弄するかァー! 巨乳こそ正義! 貴様にはそれがわからんのかァー!」

「んなこたねェーッ! わかるッ! わかるぞォーッ!!」


 ガシィッ、と。

 二人の漢は手を握り合った! そこには奇妙な友情があった! 男の歌があった!

 だが!


「あ、あにきだ。やっほー、さっきぶり。さがしたよー」


 いきなり手が捻られ、視界がグルリと一回転!

 地面に叩きつけられる! 砕け散るアスファルト!


「モヒカンども! そこの女を捕えろ!」

「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」


 左右から小歌に跳びかかるモヒカンども!


「うりゃっ!」


 しかし小歌は右のモヒカンを腰の入った正拳突きで撃墜!


「とりゃー!」


 そして振り返りざまに左のモヒカンを蹴り飛ばす!

 本来ならばここでミニスカートが翻って蛍光グリーンのパンチラが拝めたはずであったが奇病フィルターのせいですべて台無しだった!

 ガッデム!

 吹っ飛ばされたモヒカンどもはちょっとビビりながら起き上った!


「ヒャ、ヒャッハー……お、お前行けよ」

「ヒャッハー……お、お前こそ」


 さすがモヒカン! 自分より強い者に抗う気概など欠片もない!

 それでもツソの方が怖いので、数を頼みに押し寄せる!


「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」「ヒャッハーッ!」


 何人か吹っ飛ばすが多勢に無勢!


「わっ! こらっ! はなせ……いやっ! どこさわってんだばかぁ!」


 烈火、跳ね起きる! その勢いのまま地面を強烈に踏み込むッ! 駆けあがってくる大地からの反動を体内で練り上げ、縒り上げ、炎熱エネルギーに変換ッッ! ぐっと仰け反り――


「天ッ! 才ッ! ビィィィィィィィムッッ!!」


 ――跳ね戻りざまに両目から白熱した光線が発射されたァァッッ!!

 眩く輝く熱線は小歌の周囲を薙ぎ払い、モヒカンどもを一掃ッッ!! 一斉に爆発四散ッッ!! 超爽快ッッ!!

 説明しよう! 天才ビームとは! あのー、こう、あれだ、剄力的な? サムシングを? なんか眼球の水晶体で? どうにかして? ええと、なんとかして、ビームに変換して撃ち出す感じの拳法の技である!

 ……拳法の技であるッッ!!

 いやだってお前胸に七つの傷がある男だって手のひらからビーム的ななんかを出してたんだから目からビームぐらいでガタガタ言うなって話になるでしょうが!!

 本当は「泰斗炎劫烈波」とかなんとかいう技名なのだが烈火は全然覚えちゃいなかった!! 漢字書き取りテスト赤点常連!!


「あ……ありがと、あにき……」


 後ろで手を組んで、ちょっともじもじしながら礼を言う小歌! でもモヒカンだ! 世界滅びろ!


「なにやってんだテメーえぐちさくらのママ探しはどうしたこの野郎」

「あ、うん、もう見つかったよ。お礼に映画のチケットもらっちゃった」

「へいへい、そらよござんしたな。あぶねーから離れてろ」

「うん……あにきもあんまムチャしちゃやだよ?」


 走ってその場を離れる小歌! モ○バーガーの中に入ってゆく! モス○ーガー店舗が対世紀末事象の要塞として完璧な機能を有していることは、現代人の間ではもはや常識であった!

 ざん、と音がした!

 振り返ると、ツソが憤怒の形相でこちらを睨んでいる! 足元のアスファルトは抉れてめくれあがっていた! 地団太(強)!


「貴様……オレのパイオツ狩りを邪魔するとは、覚悟はできているのだろうな?」

「あァ? テメェこそ俺の舎弟に手ェ出してタダで済むと思ってんですかコラァ」


 凶悪な眼光メンチを切り合う!


「くっくっく、身の程を知らん猿め。よかろう――世紀末空間を展開する!」

「上ォ等ォだコラァ! そのスカしたツラをハンバーグにしてやるぜ!」


 二人の世紀末伝承者が闘気を全開放射!

 強烈な風圧が両者を中心に広がり、ゴミや埃やポチやタマが乱れ飛ぶ!


 ――そしてッッ!!


 世界が、塗り替えられたッッ!!

 烈火とツソの間を中心に、何かが流出する! 溢れ出る! それは商店街の風景を塗り潰し、球状に遥か彼方まで広がっていった!

 そこは、暗雲立ち込め、風吹きすさぶ荒野だった!

 海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた!

 崩れかけたビルがところどころに建っている! まるで人類の墓標のごとく!

 あらゆる世紀末伝承者の深層心理に眠る、闘争の原風景!

 ありえたかもしれない終末の未来ポストアポカリプス


 ――世紀末空間ッッ!!


 そこは、世紀末伝承者たちが強大過ぎる力を振るうために構築する異空間であるッッ!!

 現実空間で全力を出すと、もうめっちゃ建物とかぶっ壊していろんな人に超絶怒られるからだ!! ひどいときには自宅の電気と水道が止められることもある!! 超こええ!!

 殺伐空間のただなかで、二人の修羅が対峙していた!


「泰斗魔狼拳伝承者――黒神烈火!」

「罪斗惨円拳伝承者――劫星のツソ!」


 名乗りを終えて!

 いざ尋常にッッ!!


「ククク……貴様を殺し、この世のすべてのモヒカンを独占し、ただひとりの世紀末伝承者として永劫に君臨してくれよう!」

「さァせェるゥかボケェェェェッッ!! ブッ殺しゃらあああああああああッッ!!」


 ――勝負ッッ!!!!


 ●


 オニオンフライをもそもそとかじる小歌の目の前で、かき消えるように二人の世紀末伝承者が姿を消した!

 通行人たちは「あーまたか」みたいな感じでそれぞれの日常に戻ってゆく!


「うーん、誘いそびれちゃった」


 頬杖をついて、映画のチケットをぴらぴらさせる小歌!

 ちょっと物憂げな感じだ!


「ま、とにかく終わったらもっかい声かけてみよっと。がんばれオレっ」


 でもわりとすぐ立ち直る! 烈火の影響かなんだかしらないがこの子もこの子で物事をあんまし深刻に考えないタチだった!

 あと烈火の心配とかは全然してなかった!

 バカでスケベでデリカシーないけど烈火の強さだけは信頼に値するのだッッ!!


 ●


 秒間千発以上の連撃が烈火の全身をブチ抜き、盛大に血を吐き散らしながらブッ飛んでいったァッッ!!


「ゲハァッッ!!」


 しかし空中で体勢を立て直すと、地面に二本の轍を刻みながら着地ィッッ!!

 直後に襲い来るツソの追撃を巧みに裁くッッ!! 裁くッッ!! 刀剣のごとき抜き手を横から払うことで軌道をずらし、致命傷を避けるッッ! 接触のたびに破裂音を伴う衝撃波が弾け、周囲の地面に鋭い亀裂を刻んでゆくッッ!!

 それら一撃一撃が対戦車ライフルを上回る超絶威力を秘めているのだッッ!!


「調子のんなァァァァァッッ!!!」


 火山の噴火じみた威力の膝蹴りが噴き上がるッッ! ツソはバック転で回避しざまに空中で左右の手刀を×字に振り抜くッッ!!


「罪斗殲星波!!」

「バーニング天才パンチ!!」


 蒼い斬光波と赤く燃え盛る巨大な拳が激突ッッ!! 超爆発ッッ!!

 爆光を突き破って突撃した烈火は流星じみた直蹴りをブチ込むッッ!!

 まったく同時にツソの飛び蹴りがカッ飛んできたァァァッッ!!

 空中で交錯する両雄ッッ!! 壮絶な風圧が周囲の塵芥を吹き飛ばし、激突の凄まじさを物語るッッ!!

 背中合わせに着地する烈火とツソッッ!!


「ククク……そうやすやすとらせてはくれんか」


 口の端から血を滴らせながら、ツソは凶悪に微笑む!! その胸板は烈火の蹴りによって切り裂かれ、鍛え抜かれた大胸筋が露わになっていたッ! このままでは腐女子が歓喜してしまうッッ!!


「けっ、でかい口叩くだけのことはあるみてーだな」


 口の中の血をペッと吐き捨てながら烈火は眉目を歪めるッッ!! その腹はツソの蹴りによって切り裂かれ、バキバキに割れた腹筋が露わになっていたッ! このままでは腐女子が歓喜してしまうッッ!!

 二人の姿がかき消え、一瞬後に蹴りと拳が交差した状態で出現ッッ!! 全周囲に風圧が拡がるッッ!!


「オラオラオラオラオラァッ!!」

「シャラララララララァッ!!」


 かき消え、別の場所に出現し、またかき消えるッッ!! そのたびに爆風と衝撃波が発生し、世紀末の荒野に恐るべき破壊痕を刻むッッ!!

 死合う両雄の裂帛が、淀んだ空を血生臭く切り裂いたッッ!!


 ――五分後ッッ!!


「だからちげーんだよ高知里見の乳は言うなれば宇宙なんだよわかれよボケがこの世のすべてがあそこにあんだよ人生なんだよ!」

「知らんなァ……そんなマイナー女優!」

「あ”あ”ん!? じゃテメーの推しチチなんだっつーんだよコラァ!」


 いや何の争いをやってんだよおまえら!!

 烈火とツソは手刀で鍔迫り合いしながら不毛な言い争いをしていた!

 ちなみに高知里見とは世紀末伝承者でありながらグラビアアイドルもやってるというお前それどうなんだよと言いたくなる人生を送る女であった! 言うまでもなく烈火にとってはほとんど唯一と言ってもいい心の支えであるッッ!!


「篠原ゆりに決まっとろーがァ! あの荘厳なモスクのごとき完璧な吊り鐘型パイオツはもはや人類の至宝と言ってよい!」

「篠原ゆりっつったらアレだろさっきテメーが略奪してたエロDVDのアレだろ興味ねーよそんなモヒカン!」

「貴様……言うにことを欠いてあの女神をモヒカン呼ばわりとはいい度胸だ。余程楽に死にたくないようだなァ……!!」


 激突する二人の闘気が周囲の地面を圧し、クレーターのごとくへこんでゆくッッ!!


 ――さらに五分後ッッ!!


 二人は地面にあぐらをかいてピコピコなんかやってた!


「テメーコラ馬鹿コラテメーまた俺をふっ飛ばしやがったなワザとかこの野郎! 拡散弾自重しろやボケ! あとヘイト稼げっつってんだろうが俺が回復のめねーだろうが!」

「やかましいわ無知蒙昧が! どっかの誰かが太刀とかいう斬属性しかない欠陥武器を担いでいるせいで効率が悪いのだ屑め! まだ尻尾が斬れんのか貴様ら太刀厨の存在価値などそれだけだろうが!」


 だからなにやってんだよおまえら! その3DSどっから出した!


「あ”あ”!? 知るかボケこちとらPSP時代から太刀一筋だボケェ!! それよりテメーなんで男ハンター使ってんスか? ホモなんですか? ねえねえホモなんですかぁ?」


 やめるんだ! いろんな人を敵に回しそうな煽りはやめるんだ!

 案の定ツソは3DSを握り潰しかねない剣幕でタッチパネルを操作し、拡散弾を遠慮仮借なく撃ち込んだ!

 爆発して吹っ飛ぶ烈火のプレイヤーキャラクター!

 唐突に始まるPvP! もろともにモンスターに吹っ飛ばされるPvP! 仲良く乙るPvP! 自明の理!


 ――とにかく五分後ッッ!!


「罪斗円侵禍ッッ!!」

「天才ラリアットッッ!!」


 両者の間で闘気と衝撃波が爆裂ッッ!!

 マジメに戦いだしたようで地の文も安心ッッ!!

 二人の足元でベキベキに割れた3DSの亡骸が散乱ッッ!! 無慈悲ッッ!!

 激突する奥義と奥義は互いに一歩も譲ることなく交差し、それぞれの前方に余波を解放ッ! 大地が盛大に抉れ、彼方の廃ビルが真っ二つに両断されたッッ!!

 弾かれたようにバックステッポし、間合いを取る両者ッ!!


「ちぃっ」


 舌打ちする!

 実力伯仲ッ! ラチが開かねえッ!

 切り札を使う時が来たようだッッ!!


「コォォォォ……!」


 烈火は口を尖らせてなんか波紋ぽい呼吸をしながら腰を落とし、両腕を交差させたッ!

 その背からは湯気のごとく闘気が立ち上るッッ!!

 大気が張り詰め、呼応したように雷鳴が轟き始めるッッ!!

 異様な雰囲気にツソは油断なく構えるッッ!!

 すると、烈火の肉体がメキメキと音を立てて膨張ォッッ!! 全身の筋肉という筋肉に大量の血液がめぐって血管が浮き出るゥッッ!!


「カァァァァァァッッ!!」


 両肘を一気に引くッッ!! 同時に闘気が爆発的に放射ッッ!!

 筋肉の超常的バルクはなおも継続ッッ!! ついには衣服がはち切れてパンプアップされまくった上半身が露出ッッ!!

 もともとツンツンしてた髪が真っ赤に染まり、倍近く伸びたッッ!!

 そして下半身の衣類も容赦なく破れ、割合かわいらしい水玉模様のトランクスが現れるッッ!!

 その瞬間、画面がモノクロになり、作画が劇画調のタッチに変わるッッ!! そして漢らしく達筆なフォントで「泰斗降神紅」とテロップが出たァァァァッッ!!


 説明しようッ! 泰斗降神紅とはッ! なんかすごい感じの呼吸法でなんかすごい力が出る感じのなんかであるッッ!!


 具体的には次に放つ攻撃の威力が百倍とかになるッッ!! スゴイ!! 実際スゴイ!!


 恐るべきハイパーモードを前にして、しかしツソは余裕の態度を崩さないッ!


「はっ、浅はかだなァ……! その形態、なるほどパワーはあるのだろうが、スピードは落ちると見た! 当たらんよ、そのような見え透いたテレフォンパンチ!」

「あ、エロ本が落ちてる」

「何ィ!?」

「隙ありゃアアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!!」

「ゲバアアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!?」


 TYO☆KU☆GE☆KIッッ!!

 ツソの顔面に弧を描く光線のごとき拳撃がブチ込まれたァァァァァッッッッ!!!!

 着弾の瞬間、天文学的な威力の衝撃波が全方位に拡散し、周囲の世紀末荒野を粉砕ィィィィッッッッ!!!! あたり一面が砕け散った砂礫の海と化し、遠くの廃ビルも次々と消し飛んでゆくッッッッ!!!!

 ツソはキリモミ回転しながらブッ飛んだァァァァッッッッ!!!!

 そのツラはもうふた目と見られない変顔だったッッ!! このままでは腐女子が離れて行ってしまうッッ!!

 白目剥いて気絶ッッ!!


 決 着 ! !


 世紀末空間解除ッ!!

 空が晴れ渡り、街の喧騒が一気に押し寄せてくる!!


「ッシャコラ―! どんなもんじゃいコラー!」


 顔面がなんかすごい変形して倒れ伏すツソの胸ぐらをつかみ、がくがく揺さぶる!


「あっ、もどってきた!」


 小柄なモヒカンが○スバーガーから駆け寄ってきた!


「あにきだいじょうぶ? ケガとかしてない?」

「あぁん? よゆーよゆー! マジノーダメ安定っすわ」


 烈火、ニヤリとしてサムズアップ! しかし口の端から血が垂れてた!


「もーウソばっかり! ……って、ぎゃあ!?」


 モヒカン(コータ)が慌てて後ろを向いた!

 その辺のモヒカンの見せ筋とは格の違うギリシャ彫刻がごとき荘厳なマッソォで鎧われた烈火の裸体は、女の子にはちょっと刺激が強かった!


「もー! また降神紅こーしんこー使ったでしょ! そのうち猥陳罪でしょっぴかれても知らないんだからね!」

「パンツがあるから恥ずかしくないモン!」

「モン! じゃねーよ! パンツ一丁はふつうにセクハラだよ!」

「つまりこれも脱げばいいのか!」

「天国のおかーさん、最近あにきの露出狂化が止まりません……オレどうすればいいんでしょーか……」


 それは神龍か聖杯にでもお願いしないとどうにもならない問題だった!


「あらあらまあまあ、小歌ちゃんじゃない」


 と、そこへおっとりした声が聞こえてきた!

 見ると、えぐちさくらとそのかーちゃんがおててつないで歩いてきていた!


「あ、おにーちゃんもいるっ!」


 さくらちゃんは輝く笑顔だ! 烈火の目にはモヒカンにしか見えないから何もかも台無しだが!


「さっきぶりですねー。ご主人は見つかりました?」


 駆け寄ってきたさくらちゃんをナデナデぷにぷにしながら小歌は尋ねる!

 一方、烈火はかーちゃんの方を視界に入れた瞬間、背筋に電撃が走るのを感じたッ!


「ええ、たった今見つけたわ。まったくこの人はもう……あら? そちらの方が小歌ちゃんの彼氏さん?」

「生まれた時から好きでしたッッ!! 結婚してくださいッッ!!」


 烈火、全身の筋肉を瞬発させてノータイム跳躍!

 からのノータイム告白!

 アーンド、唇を尖らせてノータイムチッスの構えだァーッッ!!

 急にどうした烈火! 気でも触れたのか! あ、それはいつものことか!

 だが烈火は今、目を輝かせていた! まるで砂漠でオアシス見つけた時みてーなツラだ!

 それもそのはず! そこには女神がいた! モヒカンの海に飲み込まれた世界に、一筋差し込んだ光があった!

 ゆるくウェーブのかかった茶色の髪が優美に流れ、肩や背中を流れている! 少し垂れ目気味の潤んだ瞳が優し気に烈火を見上げている! あと目尻には泣き黒子も完備だ! わかっておる! わかっておる喃! ノースリーブのワンピースドレスが白く華奢な両肩を効果的に魅せるゥッ! そして何より特筆すべきは脇を覆い隠すほどにたわわに実った母性と包容力の象徴がずっしりと重たげにワンピースの生地を押し上げておりますぞデュフフフフ!!

 瞬間、毒蛇のごとく跳ね上がった白い手首が、とびかかる烈火のアゴを打ち抜いたァッ!


「ごぶへっ!」


 吹っ飛ぶ烈火!


「あらあらまあまあ、情熱的な方。でもごめんなさい。わたしこの人の妻なんです」


 そう言って、さっきから伸びてるツソの首根っこを片手でつまみ上げる!


「え」

「で、こっちが娘です」


 さくらちゃんの頭をぽむぽむする!


「え」

「ほら、あなた? またモヒカンを従えて略奪でもしてたのかしら? 本当に何度言ってもわからない人ね。後で戮斗惨滅斬の刑ね」


 モガモガとツソが口を動かし始める!


「こ、後悔はしていないのふぁ! 略奪は男の本能ふぁ!」

「はぁい、口答えしないの♪」


 ツソの後頭部を白魚のような繊手が掴んで地面に叩きつける! アスファルトに蜘蛛の巣状のヒビが入ってツソの顔面がめり込んだ!

 明らかに世紀末伝承者の腕力だ!


「本当にもう、困った人。わたしがいないとてんでダメなんだから」


 ちょっと赤くなった頬に手を当てて幸せそうに微笑む! ダメ男に惚れやすいタイプか!

 ちなみにその間もツソの頭を持ち上げては地面に叩きつける動作は継続中だった!


「ねーママぁ、パパかわいそう……」

「あら、さくらは優しいわね~。ね、聞いた? あなた。さくらに免じてお仕置きは後回しにしてあげるわね♪」

「ふがふが」


 鼻血吹いて白目剥いてぴくぴくしてるツソの首根っこを掴んだまま、さくらのかーちゃんは立ち上がる!


「それじゃあ小歌ちゃん。わたしは主人が略奪した物を返しがてら、ごめんなさいして回らないといけないから」

「あ、は、はい……」

「この通り、男の人っていつまでたっても子供なんだから、小歌ちゃんもしっかり捕まえておかないとダメよ?」


 ツソをズルズル引きずりながら、さくらのかーちゃんは去っていった!


「じゃーねー! こうたちゃん! おにーちゃん! またあそぼーねっ」


 さくらちゃんは両手でぶんぶん手を振ると、かーちゃんを追いかけて行った!

 烈火とコータは、呆然とそれを見送っていた!


 ●


「ほあー……」


 公園のベンチ!

 パンツ一丁の烈火はなんか魂抜けてるような様子だった!

 隣に座ってるコータはちょっと難しい顔でそれを見ていた!


 ――あにき、明らかにへこんでる……


 いつもクソうるせえ烈火がここまでヘコんでんのはわりとめずらしい! 具体的には世紀末グラビアアイドル高知里見の新刊写真集を発売日に買い逃した時以来だ!

 ……前言撤回、わりと頻繁に落ち込んでるわこのヘタレ。


「うるおいがよー……ねえのよ……オレの人生……」


 なんか欝々と呟いてる!


「オレずぅ~~っとこのままなんかなぁ……マジなんなのこのビョーキ……」


 烈火の周囲にだけ、どよ~んと暗雲が立ち込める!

 わりとうっおとしい!


「ツソみてーなアホですら結婚してんのにオレときたらなぁ……」


 ブツブツブツブツ泣き言が続く!

 コータは!

 胸の前でぎゅっとこぶしを握り、意を決して口を開いた!


「……その、あにき?」


 さくらちゃんのおかーさんが世紀末伝承者だったのはコータとしても予想外で、今回の件は極めて稀な出来事であった! 世紀末伝承者の男女比は999:1くらいであり、高知里見以外の女性世紀末伝承者を見るのはコータも初めてのことであった!

 だもんだから、烈火の立場において「まともな見た目の女性」というものががどれほど希少な存在なのか、理解が足りていなかったことを今痛感したのだ! 普段からコータの前でもおかまいなしにおっぱいおっぱいホザいてんのは、モヒカンまみれの世界で下がりきったSAN値がもたらす無意識の悲鳴のようなものだったのだ!

 であるからして、コータはある種の危機感を覚えた!

 前々から考えていたことだが、さすがに踏ん切りがついた! きょろきょろと周囲を見渡し、人目がないことを確認すると、尻のポケットからアイマスクを取り出す!


「ちょっとじっとしててね」

「ああ……? んだよ」


 アイマスクを烈火に装着する!

 ちなみにウルウルした可愛らしい目が描かれている! すげえバカっぽい!


「えっと、その、えっとね、目ふさいじゃえば関係ないから、さ」


 おずおずと烈火の手を取り、自分の胸乳にむにゅりと押し付けた!


「ほ、ほら、あにきの大好きなおっぱいだよー。落ち着くまで、触らせてあげるからさ、その、元気出してよ……」


 烈火の指が反射的に動き、ドクロのタンクトップに包まれたコータの肉プリンをまさぐり始める!


 ――やばいこれ想像以上に恥ずかしいかも!


 耳まで真っ赤になっているのを自覚しながら、コータは必死に言葉を紡ぐ!

 もゆん、むも、むも、くに。


「んっ……えっと、オレ、もっともっと、強くなるから、さ……んんっ……もっとたくさん、泰斗魔狼拳のワザ……ぁんっ! お、教えてよ……」


 ――それで、いつかは……


 羞恥で茹だった頭の中で、ひそかに決意する!


 ――いつかぜったい世紀末伝承者になって、あにきにホントのオレを見てもらうんだ!

 ――そしてあにきを映画に誘うんだ!


 え、そっち!? もうちょい目標高く持とうよ!!

 それはそれとして、烈火の手の動きがどんどん遠慮なくなってきた! くにゅんくにゅんと肉まんが形を変え、中の乳腺が揉み潰されて甘い電流が走るのを感じた! 自分で触っても特にどーとも思わないのに!


「ひゃぁんっ! ちょ、ちょっとあにき? 話聞いてる?」


 見ると、烈火の口からふごーっ、ふごーっ、と蒸気じみた呼気が漏れている!


 ――あ、これマズい流れだ。


 肉食獣のごとく、理性を失った烈火が襲い掛かってきた!

 コータの乳房に鼻先をめり込ませ、唇と舌がめちゃくちゃに蠢きまくる!


「ふにゃぁぁんっ♪」


 幼少から好きだった人にそこまで強く求められている現状事実にコータの幸せ乙女回路がきゅんきゅんと熱暴走! 一瞬我を失い、瞳の中に小さなハートマークまで浮かび上がる始末! いけない! このままでは年齢制限がついてしまう!


「……はっ!」


 しかし烈火と違ってそんなにアホではないので、すぐに意識を回復!


「う、うがー! そこまで許してなーい!」


 烈火を突き飛ばす!


「もー! すぐ調子に乗るんだから! あにきのばかっ! すけべっ!」


 そして流れるようなアッパーカット! 修行の成果だ! 烈火の巨体が上空までブッ飛んでゆく!


「ぶへぇぇぇぇぇ!!」

「わ、意外に飛んだ」


 それは、コータの秘めたる世紀末資質が初めて片鱗を覗かせた瞬間であった!


 ●


「ぶへぇえぇぇぇ!!」


 アゴにいいのを食らったせいかアイマスクに包まれているはずの視界が光に満ちている!

 ぶっ飛ばされた烈火はほどなく地面に落下!


「うぎゃ!」


 盛大に尻を打つ!

 次の瞬間跳ね起きる!


「っっってえええなこの野郎! いまどき暴力ヒロインは叩かれるんだっつーの! おしとやかに金的目潰しで我慢しなさいってママいつも言ってるでしょうがーッッ!」


 おしとやかとはいったい……うごごご!!

 というか今のは正当防衛っつーか殴られて当然っつーか通報されなかっただけ有情っつーか!

 わかってんのアンタそのへん!

 と、ここで烈火異常に気付く!

 足元の地面の感触がなんか変だ!

 もこもこしてる!


「ん?」


 アイマスクを剥ぎ取る!

 すると!

 そこには!

 視界一面、緑が広がっていた!


「え?」


 あの、屋久島の樹林みてーな感じの、苔むした深い森の中だった!

 違うのは、ひとつひとつの樹が桁違いにクソでかかったり、半透明の結晶でできたような花っぽいものが所々に咲いてたり、よくわからん緑色に発光する粒子っぽいものが風に乗って流れてたりすることだ!


「は?」


 やべーよ何これどういうことだよ!

 烈火はしばらく呆然と突っ立っていた!




 システムメッセージ:主人公名鑑が更新されました。


◆銀◆主人公名鑑#2【黒神くろがみ烈火れっか】◆戦◆

 二十歳 男 戦闘能力評価:S

 熱血。マシンガントーク。不良。ものすごく雑魚っぽい口調だが強い。

 世紀末ギャグ格闘マンガ『もひかん☆えくすぷろーど』の主人公。一定以下の強さの人間が全員モヒカン雑魚に見える謎の奇病に侵された青年。なんか世紀末っぽい拳法「秦斗魔狼拳」の伝承者。無類の女好きだったが、幼馴染ヒロインすらムキムキのモヒカンと化して頬を赤らめてモジモジしだす段に至り発狂。奇病の治療法を求めて東暴西走するついでに様々な世紀末武力組織を潰して回る。成人はしているのだが、精神年齢がやたら低く、しかも自分を天才と称してはばからない小二病患者。言動がいちいち小物臭いが、タチの悪いことに実力は凄まじい。肉食系婚活男子で、実力者の女性を見かけると即結婚を申し込む。あと無駄に女子力が高い。


 所持補正


・『ギャグ系主人公』 世界変革系 影響度:S

 ボケもツッコミもこなせるハイエンドなコメディリリーフとしての主人公補正。烈火の人生はアホな出来事のみで構成される。彼の周りには基本的にアホしか寄ってこない。最初アホではなかった者も、烈火と付き合ううちにだんだんアホになってゆく。戦闘における勝率をほんのり下げ、生存率を強制的に百パーセントにする。宇宙を破壊しつくす一撃でも彼を殺すことはできない。また、彼がいる世界では深刻な悲劇が一切起こらなくなる。ギャグキャラの影響力は絶大であり、同ランク以下の悲劇的な補正をすべて無効化する。


・『■■』 因果干渉系 影響度:■

 ■■い■■■■■の■■■■が■■■される補正。■■が■■する■■もあればしない■■もある。しかし■■の■■ゆえに■■つうらやましくない。また、■■キャラクターによる■■を■■■■できなくなる。なにをどうしようが■の■には■てないさだめ。


・『■■■さん■■』 世界変革系 影響度:■

 ■■を■ませる補正。■の■■では■か■りしれない■■の■■■が■こり、■■が■んでるようで■んでない■■になる。■■■■■■のキャラクターのみが■ち■りうる補正。

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