1話:めっちゃ進めるくん

「で、お願いってなんなのさ?」


父さんに引っ張られながら歩く俺は、まだお願いの内容を一切聞いていなかった。


「んー? ちょっとね、複雑な事情だから向こうに着いたらでいい?」


で、聞いてみても父さんはニッコニコの笑顔でこう返してくる。

流石にこの反応をみて怪しくないと思わない奴はいないだろう。


「あのさ、ひょっとしてめちゃくちゃ危ない仕事だったりすんの? いくら俺でも荒事は無理だよ?」

「大丈夫大丈夫、全然危なくないから! 可愛い息子にそんなことさせるわけないだろう?」


内容を話せないほど、あるいは話したら俺が断るかもしれないぐらい危険なお願いのだろうか。

父さんはかなり口が硬いから、どう問い詰めたとしてもこの場で話したくないことは話さないだろう。

なので、とりあえず危ないのかだけ教えてもらったが、どうやらそうではないらしい。


「まあ父さんがそういうなら信じるけど」

「ごめんね、父さんもまだここじゃ話せないんだ」


ああ、守秘義務ってやつか。

合点がいった、つまり自宅でも他の人に聞かれちゃいけないのか。

ウチも何人か使用人さんを雇うぐらいのお屋敷だから、ここでベラベラ喋るのは確かにまずいだろう。


「はい、ダグちゃんが作ったこの移動用魔法陣で移動しよう」


そう言って父さんは、俺を父さんの自室に連れて行き、そこの中心にある大きな紙に書かれた魔法陣を指差した。

おお、アレは俺が作った超長距離移動魔法陣『めっちゃ進めるくん』じゃないか。


「へー、結局使ってくれてたんだ」

「急いでたからね、ちょうど持っててすぐに使えたから、依頼人さんの家と繋いでみたんだ」

「うんうん、役に立って何より」


この魔法陣の上に乗れば、この世界にあるもう一方の魔法陣の上へ瞬時に移動することができるのだ。

ただまあ、世間一般で使われている魔法陣は移動するのにすっごい魔力を使うし、魔法陣を書く魔法職人に依頼するのも高いお金がかかる。

その上長い距離を飛ぶこともできないので、普通に馬車とかで移動した方がいいまである。


だがしかし! このダグラス・ユビキタスが作った魔法陣は一味違う!

このめっちゃ進めるくんは、大地に循環している魔力を吸い上げて移動させているので誰でも使える。

さらに、この地表上のどこでも瞬時に移動できるのだ!


「あっ、父さん。めっちゃ進めるくんの魔法陣だけど、ここと移動先以外には設置してないよね?」

「うん? つかってないよ? これで使うのは初めての筈だけど」

「そっかそっか。じゃあこないだ渡した予備の魔法陣は廃棄しといて、間違って三つ以上配置してたらまずいし」

「……ま、まずいって?」

「うん、移動先の魔法陣が二つ以上あると、移動する人が綺麗に分割されて送られちゃうから」

「…………あ、あぶなくない?」

「危ないよ? 真っ二つになるよ?」

「………………」


あっ、父さんの顔が真っ青になった。

一応三つ目の魔法陣を配置しようとすると警告メッセージが流れるようにしてあるから大丈夫だと思う、多分。


「まあ父さんが半分になってないから乗っても大丈夫でしょ」

「ちょ、ちょっと!? 父さん急に怖くなったんだけど!? 本当に大丈夫だよね!?」

「大丈夫だって。急いでるんでしょ」

「だ、ダグラスー!? 引っ張らないでくれるかなー!?」


怖気付いた父さんを引っ張って魔法陣に乗せる。

自分から急いでいると言っていたのに、しょうがない人である。


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