第14話 マイホーム

 家が完成するまでに、10日かかった。

 朝から晩まで、ひたすら石を割ったり、木を切ったり。

 一体、俺は石と木になんの恨みがあるんだっていうレベルで。

 素材を集めては、家の部品を作る作業を繰り返した。

 10日間ずっと。

 よくこんな地味な作業を続けられたものである。

 息抜きがてら、うららにセクハラをしたのが良かったのかもしれない。

 いやね、気が滅入るような素材集めをしている最中にですよ。

 すぐそばで何かがぷるるんと揺れてたらね。

 そりゃ、触りますよ。


「うらーーー!」


 全力で噛まれたが。

 ちょっと触ったくらいで、めちゃくちゃ怒る。

 まあ、しかし。

 お陰で、心が折れることなく、家を完成させることができた。

 おっぱいにサンキューと言いたい。


 そんなうららは、この10日間でものすごい進歩を遂げていた。


「タツヤ、おあよ」


 なんと俺の名前を喋れるようになったのである。

 相変わらず「おはよう」は「おあよ」のままだが。

 朝の挨拶をするうららは、後光が差すほど神々しかった。

 金髪美女が「タツヤ」って言っている。

 感動モノである。

 じーんとしながらわなわな震えてしまう。

 朝の挨拶をしながら、ニコニコ笑みを浮かべているうらら。

 もはや、ただの美少女だった。

 うらうら言ってる変な女ではなく、ただの美少女である。

 ドキドキしてしまう。


「うらー!」


「…………」


 まあ、基本的にはうらうらしか喋れないのだが。

 変なナスみたいな果物を渡してくれるうらら。

 きっと朝ごはんだろう。

 果物を受け取って、しゃくしゃくと囓る。

 果汁がじわっと染みて、柑橘系の爽やかな匂いがして美味い。

 食感はリンゴで、匂いはみかん、形はナスの変な果物だった。

 どれか一つに絞って欲しいものである。


「うららー! タツヤ!」


 隣でうららがニコニコしながら同じ果物を齧っていた。

 美味しいね、タツヤ! みたいな事を言っているんだろうが。

 うらうらとタツヤを混ぜて話されると、タツヤがうらうらしているみたいで。

 なんか変な感覚になった。

 うらうらしてるって何だよ。

 まあ、しかし。

 あのうららがタツヤと言える日が来るなんて、感慨もひとしおである。

 2番目に覚えたのが俺の名前とか。

 可愛い奴め。

 ちなみに1番目に覚えたのは「エッチ」である。

 なんでそこ逆じゃないんだよとイラッとした。


 朝ごはんを終えた俺たちは、うららの岩屋から外に出た。

 今日は、完成したばかりのマイホームのお披露目である。

 完成したのは昨日の夜だった。

 どうせなら明るい所で完成した家を眺めてから住み始めたい。

 そう思って、昨日はそのままうららんちに帰ったのだった。


 うららんちから徒歩30秒。

 ザ・お隣。

 眺めの良い、小高い丘の上に立つ1軒屋。

 重厚な石の床。

 温かみのある木材の壁。

 屋根は綺麗な三角形。

 品の良いコテージのような我が家。


 キィと木製の扉を開ける。

 新しい木のいい香りがした。

 窓から差し込む陽光が、石の床を照らす。

 12畳ほどのなかなかに広い部屋だった。

 部屋の中央には、木のテーブルと、2脚の椅子。

 一応、家具も作ってみた。

 椅子が2脚あるのは、俺とうらら用である。


「うら!? うららー!! うらうら! タツヤ!」


 新居に入ったうららは目をキラキラさせて、はしゃいでいた。

 右を見て、左を見て。

 きょろきょろ。

 天井を見て、口をぽかんと開けている。


「うら!! タツヤ! うららー!!」


「ふふ、すごいだろう」


「うらー!!」


 コクコクと頷くうらら。

 かわいい。

 しかし、俺んちの真価はまだこれからである。

 12畳の部屋の奥には、階段があった。

 そう。

 我が家は2階建てなのだ。

 木材のレシピに「木の階段」があったので作ってみた。

 木の階段をギシギシと登る。

 2階部分には、広い窓が付いていた。

 なけなしのクリスタルで作ったガラス窓。

 窓からは絶景が拝める。

 広大な荒野が地平線の先まで一望できた。


「うらー……」


 うららは景色に見とれていた。

 この高さから荒野を眺めたことがないのだろう。

 ちなみに、2階の目玉は、ただ眺めが良いだけではない。


 部屋の中央には、大きなベッドが鎮座していた。

 キングサイズの木製のベッド。

 ベッドのレシピは以下。

 木材✕100。

 麻✕300。

 家を作る作業の中で、1番苦労した。

 麻とは、服を作る時にむしった草である。

 あの草は麻だったらしい。

 それを300個。

 むしる部分が短いと1個として、カウントしてくれないらしく、ベッドを作るまでひたすら麻をむしりまくった。


「うらー!! うっららー!!」


 うららは嬉しそうに、ベッドの上で飛び跳ねている。

 そう。

 このベットはちゃんと弾むのである。

 草と木で出ているのに、どういう理屈なのかはさっぱりわからない。

 ついでに作ったまくらもふかふかだった。

 ベッドとまくらで寝心地は最高である。


「うらら……」


 ベッドの上で横になったうららがうとうとしてしまう程に。

 って、お前が一番最初に寝るのかよ。



 そんなわけで、俺はマイホームを手に入れたのだった。

 この家を生活基盤にしていこうと思う。

 まだまだ家具は少ないが、おいおい揃えていこう。

 まずはソファーでも作ろうか。

 確か麻のレシピにあった。


 その日は、一日うららとマイホームでまったりした。

 屋根と壁があるというのは落ち着く。

 うららんちも屋根っぽい岩戸、壁っぽい岩があるが、どうも閉鎖的で気が滅入るのだ。

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