文明のない世界に転移したら、原住民が美少女だったので

油揚メテオ

第1話 そして、おっさんは荒野に立つ

■まえがき

 皆様お久しぶりです。

 もしくは初めまして。

 今回はストックあります。

 目指せ日刊!

 初回は2話投稿します!


 さてそんなわけで。

 気付いたら、だだっ広い荒野に立っていたわけだが。

 前後左右、見渡す限り荒野。

 たまに木が生えているくらいで、山かげなどもなし。

 え、どこここ??

 少なくとも東京ではない。

 もっと言うと日本でもないかもしれない。

 ゾウさんでもパオーンと出てきそうなサバンナ的などこか。

 その時、股がやけにスースーしていることに気付いた。

 見下ろしてびっくり。

 ゾウさんが出てくる前に、俺のゾウさんがパオーンしていたってね(爆)

 …………。

 そんなわけで、俺は見ず知らずの荒野に、全裸で立ってた。


 少し前の記憶をたどる。

 残業して22時ごろ会社を出た。

 水曜日の遅い時間の電車は空いていて、座れた俺はかばんを抱えて居眠りをした。

 そこで記憶は途切れ。


 今現在、俺は全裸でサバンナにいるわけである。

 しかも、電車に乗ったのは22時過ぎなのに、今は真っ昼間っぽい。

 意味がわからん!!!


「うーむ……」


 とりあえず悩んでみるが、現状の理解は進まなかった。

 そんな時だった。


「ぷぎー!」


 目の前に豚みたいなのが現れた。

 結構小さい。子犬くらいの大きさ。

 茶色い毛皮に覆われていて、豚鼻の左右には小さな牙。

 豚っていうかイノシシ?

 大きさ的にうりぼー?

 可愛いように見えなくも――。


「ぶひっ!」


「がはっ――!」


 ――と、思っていたら突然タックルされた。

 腹に衝撃が走る。

 腹筋ゼロの36歳の柔腹。

 普通に呼吸が止まる。

 何してくれてんの、この豚野郎。

 今すげえジャンプしやがった。


「ぶひー!」


 うりぼーは小さな足をがしがしさせながら威嚇している。

 イラッとした。


「この豚が!! 資本主義の豚が!!!」


 普通に蹴り飛ばした。

 日常社会のストレスを足に込めて。


「きゅー」


 蹴られたうりぼーが目を回して倒れる。

 いたいけな小動物を殺ってしまった……。

 そんな軽い罪悪感を覚えた時だった。


『特技:ケンカキックを習得しました』


 なんか視界に出た!!

 普通に日本語で。

 なにこれ気持ち悪い。

 しかもケンカキックて。

 確かにさっき似たようなキックをしたけれども。

 チンピラ感がすごくて嫌だった。


 一体、俺に何が起きているのか。

 うんうん唸りながら、小さなゾウさんをぺちぺち言わせて歩き出す。

 照りつける太陽が眩しい。

 全裸だというのに、寒さは全く感じない。

 むしろ暑いくらいだった。

 本当にここはどこなんだ。

 そんな時だった。


「うーらー!!」


 突然聞こえた雄叫び。

 ビクッとしていると、何かが走ってくるのに気づく。

 泥だらけの人間だった。

 薄汚れた髪を振り乱し、色々と丸出しにした人間。

 女の人っぽいのでそんな格好はまずいんじゃなかろうか、と思いながら。

 先立つのは恐怖。

 普通にビビった。


「うらっ!!」


 泥だらけの女は、手に持っていた棒切れを振り下ろしてきた。

 ぶおん、とゾッとする音が聞こえる。


「あぶねっ!」


 間一髪でかわしながら、周囲を見渡す。

 当然だけど、誰もいなかった。

 助けを呼べる状況ではない。


「うらあっ!」


 振り下ろした棒きれが、振り上げられる。

 仰け反るも、棒きれは脇腹をかする。

 カッとした焼けるような痛み。

 身の危険。

 生まれて初めて感じる恐怖だった。


「くそがっ!!」


 なりふり構わず女を蹴飛ばす。

 足は、不気味なくらいスムーズに上がった。

 つま先が、女の腹に食い込む。


「がはっ!」


 腹を抑えてしゃがみ込む女。

 ぽとりと落ちる棒切れ。


「くそが! くそが!!」


 必死に蹴飛ばした。

 ここに至っては男女差など関係がなかった。

 やらなければ、やられる。

 純然たるその事実だけが目の前にある。

 頭を抱えて、うずくまる女。

 ひたすら蹴飛ばし続ける。


「う、うう……」


 女が懇願するような声を上げる。

 俺を見上げる目が潤んでいた。

 青い瞳だった。

 俺は、女を蹴るのをやめた。


 気づけば、肩で息をしていた。

 呼吸は荒く、軽いめまいすら覚える。

 デスクワークについて、14年ほど。

 運動らしい運動をしてこなかった。

 久しぶりにする運動が女を蹴飛ばす事とか。


『特技:ケンカキックはヤ○ザキックに進化しました』


 なんなんだよ!!

 またしても変な文字列が視界に浮かぶ。

 わけが分からなすぎてイライラする。

 しかもヤ○ザキックて。

 ○付いちゃったよ!!


「うーうー」


 蹴飛ばしまくった女は、俺の足を掴んで、懇願するような表情を浮かべていた。

 その目に浮かぶのは恐怖。


「……悪かったよ。もう蹴らねえよ」


 とりあえずそんな事を言ってから、女を見つめる。

 女は全裸で、泥まみれだった。

 顔にも泥がこびりついていて、髪はボサボサ。

 年齢すらわかんない。

 乳房があるので女だとは思うのだが。

 泥だらけすぎて、色気は皆無だった。


「うう、うー」


 じっと見つめていると、女はあからさまにビビっていた。

 お前が急に棒切れで殴りかかってくるから悪いのに。


「あーなんだ、その」


「うー?」


「なんか喋れよ」


「うう??」


 どうしよう。

 コミュニケーションが成立しない。

 うーん。

 そんな時、ポタポタと額から汗が流れるのを感じた。

 そういえば喉がカラカラだ。

 運動不足なのに激しい運動をしたせいだ。

 気温も暑いし。


「喉乾いたんだけど。なんか飲み物ない?」


「うー?」


 聞いてみたけど、普通に通じなかった。

 よく考えたら死活問題だった。

 近くに水道があるようには見えない。

 少し焦った。

 なんか飲みたい。

 そんな仕草をジェスチャーで伝えてみる。

 水道を捻る動作とか、缶を開ける仕草とか、色々やってみたが全く通じなかった。

 女は、首をこてんとかしげるだけである。

 あーもう。


「う!」


 水をすくって口に含む仕草で、何かに気付いたらしい。


「うらー!」


 俺の手を引いて、どこかに連れて行こうとする。

 水場にでも案内してくれるのだろうか。

 女に手を引かれるまま、俺は歩き出した。

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