第一章 決闘編

第12話 宣戦布告

 ユウトはゆっくりその声の方向へと足を向ける。

 その足取りは先程のとは別人の様に一歩一歩感情があるように見える。


 後ろに付く歩いているルナは、ユウトの背中を見ながら何も言わなかった。


 群衆をかき分けその場にたどり着くと、そこには金髪の男と青い髪に今にも泣きそうな青い瞳のした少女が対立するように立っていた。


「アオは………奴隷じゃない!!」


 力強く言った少女に対しその金髪の男は口元を不気味に歪ませる。


 男は「そうかそうか」と言いながら少女の元までゆっくりと歩み寄ってくる。

 対してその少女は相手の気迫に押されてか、その場から微動だにしなかった。


「いや、お前は……、奴隷だよなぁ」


 そう言い、男が少女の顎に手を当て一気に顔を近づけた時、ユウトは何かが切れた様に立っていた場所の地面を力強く蹴った。

 そしてアオの顎に手を当てていた方の男の腕を力強く掴んだ。


 男の手はまるでボディービルダーの様に硬く、筋肉質である。


「俺の仲間に、手ぇ出してんじゃねぇーぞ!!」


 ユウトの登場にアオは安心したのか瞳から一滴の涙が流れる。


 金髪の男はユウトの登場にあまり驚いていない様子で、直に手をアオの顎から離し、ついでにユウトの手も払いのけた。


「お前は……、いつぞやの無能力者くんじゃん。何しに来た―――って、この奴隷、お前の奴隷なのかぁ。なぁ、ど、れ、い」


 男はユウトの方から目を反らし、アオの方を向く。

 アオはその問に無言のまま何も言わなかった。

 俯いて、アオの口元は震えていた。


 アオは今、人間に戻ろうとしている。

 徐々にアオの心は明るくなり、自分という存在を作り上げている。


 だと言うのに。


「こいつは奴隷じゃない!」


 ユウトは必死に否定した。


 そう、アオは奴隷ではない。

 まずそこから間違っているのだ。

 では何故ユウトはアオのことを『こいつ』扱いしているのだろうか。

 何故名前で呼ばなかったのだろうか。


 ―――矛盾している。


 ユウトは矛盾しているのだ。

 アオが奴隷ではないと言い聞かせても、怖がっている自分が居る。

 アオが死罪になる事を。


 何故ならアオは―――。


「いや、奴隷だ! 俺は鼻が良いかならな。それにどうやっても、奴隷は奴隷なんだよ。そこだけは覆らねぇ」


 今すぐでもこの男の鼻をへし折りたい。

 そう、頭に血が上った瞬間。

 ユウトは思わぬ一言を言ってしまった。


「俺と戦え! そして俺が勝ったらもう二度と近づくな!」


 そう言うと、男は再び口元を歪ませ笑った。


「無能力者くんにしては良い考えじゃん。いいねぇ、それなら取って置きのがあるよ」


 圧倒的強者と分かっていても尚、ユウトは立ち向かう。

 冷静さが欠けていると言えば、否定出来ないのも確か。

 ただユウトは冷静であっても、決闘を申し込んでいただろう。


 それが、最善かつシンプルな我の通し方だからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る