あらゆる「嫌な予感」の博覧会

 いつもはダンジョンを探検している明るいトレジャーハンターふたりが、天空の都市を探して大空に挑む、心躍る冒険の物語。
 異世界ファンタジーです。内容は上記一文の通りで、少なくとも嘘はついていないはず。これ以上の説明はどうやってもネタバレになってしまう面がある、と、個人的にはそう思うので、その点だけご容赦下さい。決して致命的なものではないというか、読んでいるうちにじわじわわかってくるところではあるのですけれど。
 中盤あたりから見え隠れしてくる、いろんな要素についてまわる「嫌な感じ」のようなものが最高に魅力的でした。勘の良い人ならもっと早い段階、なんなら作品紹介文の時点で「ん?」となるかもしれない。とにかくもう、すべてがほんのり異様というか、つい「いいの? それは大丈夫なの?」と思ってしまう要素に充ち満ちている。
 どこか人智を超えた感のある、きっとなんらかの見返りなしに存在してはいけない、あれやこれやの気配。この辺のバランスが本当にとてつもなくて、そりゃ「まあこの世界じゃそういうものなのかな?」と思えば思えなくもないのですけれど、それでも細かいところで「いや、でもなあ……」と思わされちゃう。この〝小さく、でも確実に累積されていくストレスのかけ方〟がただただ最高でした。ふたりの終始明るく快活な感じと、でも立ちはだかる怪物の絵面のおぞましさとかもそう。
 いわゆる公正世界仮説そのものとは違うのですけれど、きっとそれに似た心の作用というか、勝手に補正したがる心の動きを逆に利用された感じ。こういうのは心をハックされたような気分で、もうそれだけで気持ち良くなってしまいます。
 一個一個はそこまでおかしいわけでもないはずなのに、どうしても払拭しきれない、なんらかの異様さ。まるで騙し絵を見ているかのような気分にすらなる、鮮烈な色と形を持った世界の物語でした。読み終えて戻ってきた瞬間、目に入る作品紹介文の「この感じ」が大好き!